風鈴を鳴らしたのは
ポン、コロン。
ピゥッと風が吹いて、私の耳がくぐもった音を拾う。縁側の風鈴が、風に撫でられてクルクル回転していた。
透明なプラスチックの風鈴は、私が幼い頃、父が作ったものだ。
当時は、物作りに慣れない父が作った不恰好な風鈴が気に入らなかった。
風鈴に描かれた金魚を見つめていた私は、はたと思いついた事があり、台所に向かう。
「お父さん!私、風鈴が欲しい!」
あれは今から40年程前、私が小学生の頃だった。
友達の家で見たガラスの風鈴が、キラキラと綺麗で可愛かった。
仕事から帰ってきた父が「ただいま」を言う前に、私は父に飛びついた。
「1週間、待ちなさい」
あの時の父は、困った顔をしていた。
1週間後、絵の具とボンドで汚れた父の手には、不恰好な風鈴があった。
プラスチックのコップと、割り箸と、折紙で出来た手作りの風鈴だった。コップには父の描いただろう不細工な金魚が、1匹だけ寂しそうに泳いでいた。
あの時私は何て言ったか、覚えていない。でも、父が悲しそうな顔をしていた事だけは覚えている。
父の風鈴は縁側にかけられたが、私は見ようともしなかった。
私がその風鈴に触れたのは、それから2年が経った時のことだ。
生まれて初めて膝まで積もった雪にはしゃいで、庭で遊んでいた時だった。
ふと目を上げた先に、あの風鈴があった。1匹だけで寂しそうに泳ぐ金魚に、ツキリ、と私の心が痛んだ。
母に頼んで風鈴を外してもらい、私は父の金魚の隣に、赤い油性ペンで金魚を描いた。プラスチックのコップはペンが滑って、やっぱり私の金魚も不細工になった。
次の日、仕事が休みだった父と、縁側で風鈴を眺めた。
「暖かいなあ」
庭には雪が積もっていて、私は父の言葉が理解できなかった。
「どっこいしょ」
腰を上げた父は、家の中に引っ込んだ。少し待って戻ってきた父の手には、2人分のミルクココアがあった。
カチリ、と2つのマグカップが合わさって、湯気がユラユラ揺れた。
熱いココアを冷ましていた私に、父が呟いた。
「風鈴は見た目と音が涼しげだから夏の風物詩と言われている。でもうちの風鈴は暖かいから、冬の風物詩だなあ」
あれから40年程経った。
当時は理解できなかった父の言葉が、歳を重ねるにつれて分かるようになってきた。
出来立てのココアを手に、縁側に腰掛ける。誰もいない宙に、スッとマグカップを持ち上げる。
コロン。
短冊が揺れて風鈴が音を立てた。
2匹の金魚は、今日も仲良く泳いでいる。




