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さらに完璧な日々。

「私は……城に居場所がないんです」


ダーガヘント王国の第二王女、アイリア・ル・ダーガヘントは焚き火を見つめながらぽつりぽつりと自分の境遇を話し出した。


ダーガヘント王には3人の子供がいる。その子供達は全員女性で3姉妹だったが、関係性が少しだけ複雑だった。


第1王女は王と亡くなった前王妃との子。

第2王女のアイリアは現王妃の連れ子。

第3王女は王と現王妃に新しく出来た子。


つまりアイリア姫にだけ王の血が流れてなく、しかも最年長でもない為に立場が弱かったのだ。

順列のようなものに興味がないアイリア姫はそれで構わなかった。自分は常に一歩下がり、長女と三女を立てて目立たないように過ごしてきたらしい。


「……ですが私がドラゴンの卵に触れたら孵ってしまった事で……バブリンが産まれた事で三姉妹の関係性が崩れてしまったのです。我が国では竜に選ばれる事は特別な意味を持ちます」

「アイリア姫の地位が上がってしまった?」

「はい、その通りです。妹のセリゼはまだ幼くてよくわかっていないのですが、姉のミシルはそれが面白くないようで……まあ、そうでしょうね」


そして長女から陰湿な嫌がらせを受けるようになっていった。

ドラゴンの世話をしながらアイリア姫は、ただ静かに空に浮かび続けるこの島に憧れるようになっていった。窮屈で息苦しい自分にとって自由の象徴だったこの島を手に入れたかったらしい。


「ドラゴンはアイリア姫と同じで少し自由になりたかっただけかもしれない。空を飛べるようになって、自分だけで自由にどこかに行ってみたくなったとか」

「そうかもしれませんね。バブリンはいい子です。でも今思えば従順だからってちゃんと気持ちを確かめず、私は自分の夢ばかりを考えていたのかもしれません」

「もしかしたら自由に飛んでみたはいいけど迷子で戻れなくなって、どっかで震えてるかも?」


迷子という俺の言葉を聞いた姫は何かを思い出したようだった。


「郊外視察中にまだ飛べないバブリンが迷子になった事がありました。いくら探しても見つからなくって、それで私は煙玉に火をつけて青い煙を空に登らせました。三姉妹には自分の色があって青は私の色なんです。そしてしばらく待っていたらバブリンは走って帰ってきました」

「それだ! じゃあ明日の朝にでも青い煙を焚けば、きっと!」

「ですが……今日は煙玉は持ってきておりません」


青い煙を出す煙玉を取りには行けない。

だったら夜に青い光を放つのはどうだろうか? 真っ直ぐに伸びる青い光を……この世界の物理現象は元の世界と同じ様に働き、青い炎は魔法で出せるけどガスコンロと同じでその青色は遠くまでは伸びない……そうだ!


もしかしたらアレがいけるかもしれないと、ある事を思いついた俺はアイリア姫を島の中央の丘の上に連れていった。


「アイリア姫は青い炎をご覧になった事は?」

「青い炎ですか? あっ、あります! 宴席でブランデーに浸された桃に火をつけて提供された事があって、その時の炎が青色でした」

「温度が高い炎は青色になる、しかし長くは伸びません。そこで夜空に魔法線を走らせて、その筋道に魔法の青い炎を乗せてみます……では、少し離れて下さい」

「魔法線? 青い炎の魔法を乗せる?」


「エオルオ・ダリ・ホルデ!」


俺は右腕を伸ばし、真上の空を指さして、魔法の名を唱えた。

エオルオは魔法線、ホルデは火の魔法・ホルの高温バージョンだ。

俺の狙い通りなら〝魔法を細く長く維持しつづける〟魔法線にホルデを付加すれば高温の青い炎はその温度が下がらないまま、青いままでずっと伸び続けるはず……。


俺の指から細長く青い光がまっすぐ上に伸びた。

それはまるで夜を貫く一筋のレーザー光線のようだった。


「ロビンソンさん、やはりあなたは古魔法が使えるのですね」

「古魔法?」

「私の家庭教師の魔法学者が教えてくれました。太古に失われた魔法があって、それは「忘却の禁典魔法」と呼ばれていると」

「えっ? じゃあ俺の魔法って今は使われてないって事ですか?」

「はい。そして古魔法は現在の魔法とはかなり違っていて……その使い方も……威力も……あっ! バブリンっ!」


アイリア姫が指差す方向を見ると、この丘に向かって飛んでくるドラゴンの姿があった。

そして丘の上に降り立ったドラゴンの大きな顔にアイリア姫は抱きついた。

姫の紫色の瞳には涙がたまり、まるでアメジストのように輝いている。ドラゴンは母親に甘える子供のようにアイリア姫にじゃれていた。

再会を喜び合った後、アイリア姫は俺の前に来て丁寧で気品あるお辞儀をした。


自分がドラゴンが帰ってくるのを心配して待ったように、自分の事を心配して待っている人たちがいる……アイリア姫は城に戻る事にした。


――そうだ、姫には帰る場所がある。俺とは違う。


「きっとお姉様もアイリア姫の優しさに気がつく日が来ると思います」

「ありがとうございます、姉と昔のような関係になれるように自分の思っている事を伝えようと思います。私は姉のミシルが好きだったんです」

「そっか、うんうん」

「……それでお願いがあるのですが」

「お願い?」

「あの……まずは……お友達になって下さい! あと時々この天空島に遊びに来たいです!」


――男女の友達というのは、なかなか難しかったりするものだが、彼女はいつかどこかの王子様や大貴族に嫁ぐお姫様なのだから間違いはあってはならないと俺は思っているし、彼女もそのへんの線引きはしっかりしているだろう。


「わかりました。友達になりましょうアイリア姫。疲れたら時々ここでのんびりしていって下さい」

「ありがとうございます! でももう友達なんですから姫ってつけるのもやめてくださいね。言葉も友達と話す時の感じで特別扱いしてないで欲しいです」

「そっか、わかったよアイリア……これでいい?」

「はい!」


ゴーグルをつけたアイリアはドラゴンの背の座席に座った。

もう飛び立とうという時、言い忘れていた事を思い出した俺は呼び止めるように大きな声で叫んだ。


「そうだ! 謝らなきゃいけなかったんだ! この島は勝手に動いたんじゃなくて俺が動かしたんだよ!」

「きっとそうだろうなってと思っていましたよ……でもいいんです」


アイリアは笑い、夜の空に消えていった。


家に戻ってベッドに横になった俺は、アイリアが「次」にいつ来るかわからないから全裸でウロウロするのができなくなった事を、あの開放感を失った事を惜しみながら深い眠りについた。


毎日の生活は完全にルーティーン化している。

俺はベッドから起き上がり、髭を剃って、夜中の間に冷えた水で顔を洗う為に家のドアをあけた。


そこにはアイリアが立っていた。


「お言葉に甘えて、遊びにきました」


――早すぎだろ! 次が!


俺はこの島から出る方法を見つけてない。

太古の特別な魔法を覚えたからといっても戦いに使うわけじゃなく、

ここでの生活に便利に使ってるだけ。


何も変化ない。


いや変化はあった……友達ができた。


「完璧な日々」がほんの少しだけ「さらに完璧な日々」にはなったかも。


(完)

お読みいただき、ありがとうございました!




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