『この感情は』後編
結の問いに、俺は小さく首を横に振った。
「……好き、っていうのが、分からない」
彼女は微笑んで、肩に軽く手を置く。
「分からなくても、いいよ。でも、私は君のこと、好きだよ」
その瞬間、胸の奥が熱くなる。
心臓の鼓動が、先ほどよりも早く、強く、響いた。
理由は分からない。ただ、確かに、嬉しい。
その後、結はスマホの操作を丁寧に教えてくれた。
アプリの起動の仕方、メッセージの送り方、写真の撮り方。
指先が触れるたびに、胸の奥がまたドクンと跳ねる。
気持ちが、少しずつ言葉や動作に結びついていくような気がした。
夜、リビングのソファで二人並んで座る。
結が真剣な顔で、俺の目を覗き込んだ。
「ねぇ……私の彼氏になって?」
耳に残るその言葉に、息が止まりそうになる。
どう返せばいいのか、一瞬迷ったけれど、心の奥の熱が言わせる。
うなずくと、結は笑顔で小さく頷いた。
──その日から、毎日が少しだけ特別になった。
朝の光も、波の音も、冷たい夜風も、すべてが少し優しくなった気がした。
結と過ごす日々は、穏やかで、幸せで、そして、確かに“自分の世界”になっていった。