第9話 荒野の果てに
「おい、エミール、いい加減そろそろ行くぞ」
マードックが後ろを振り返り、死体を漁る影に声をかけた。
「Mぁ……hォ……ヴァ……くぁツィ……」
頭を傾げながら影は応える。
だが、その言葉はぎこちない上に全く意味をなしていない。
「ほんっと、こいつってよく解んねえよな。
言うことも行動も意味不明なくせに、こっちの言葉は一応理解してるっぽいんだから」
その様子を共に見ていたバクスタッドが呆れ半分で応じる。
そんな彼らの言葉が解っているかのようにエミールは死体の傍を離れ始めた。
「だよなぁ。
最初は知性の欠片もないやつだったのが、今じゃ多少とはいえ言うことをきくようになったってんだから不思議だよ」
同感と頷くマードック。
その目の前をエミールは素知らぬかのように通り過ぎていく。
「でもよぉ、こいつに知性っていうのがあるとして、それってどこに宿ってんだろうな?
こんなやつでもやっぱり脳みそとかあんのかなぁ?」
エミールを視線で追うバクスタッド。
脳みそはどこだ?
心臓はどこだ?
他の臓器はあるのか?
生殖器はあるのか?
だが、観察してみるもただ謎は深まっていくばかり。
「さあな?
こればっかりは造った博士に訊くしかないだろ。
ま、そうは言ってみたとこで博士自体がどれだけあいつを理解しているかは解らねえけどよ」
「違いねえ。
じゃなきゃああして喰われたりするわけもないもんな」
二人と獣人と一匹のスライムの去り行く荒野。その跡には冒険者の朽ちた骨と遺品のみが残されていた。