第5話 Battle or Bottle -Instinct × Intelligence-
環形動物型怪人ガーブルの悲鳴が遠ざかる中、博士は視線をスライムへと戻した。
「なんかサイズが大きくなってないか?
やはりこれはさっきの食事のせいだな」
人造生命体SL2-Sは有機生命体である。それ故に先ほどの有機物の摂食は納得であるが、だからといってその全てを身体へと即変換できるものであろうか。
いや、それよりも目下問題とするべきはこのスライムの食欲だ。このまま際限なしに手当たり次第で生物に襲いかかるようでは困るのである。
「?!!」
ガーブルを追っていたはずのスライムが、突如博士へと方向を転進した。
「う……」
突如として変わった風向き。緊張のあまりに博士の腰が引ける。
博士へと迫り来るスライム。
いや、目指していたのは博士が卓上に置いた小瓶のようで、その中に収まろうとしているようだ。
「な、なんじゃ?
もしかして帰巣本能というやつか?」
予想外な展開に拍子抜けしながらも博士は観察を始めた。
何度となく小瓶に挑み続けているスライム。
だが、どう見てもその中に収まりきるとは思えない。
おそらくは先ほどの食事の影響で自身のサイズが大きくなったことに気づいていないのであろう。
そして無理に収まろうとした結果、小瓶は破裂して割れてしまった。
「ふむ、それならば」
新たに大きめの瓶を用意し、それを卓上に置く博士。結果がどうなるか興味津々な様子で再び観察続ける。
暫く割れた小瓶の周りを右往左往していたスライムだったが、大瓶を見つけると今度はそちらに挑み始めた。博士の目論見通りである。
そして──。
「くははははは。
やはりそうか。知性の全くないように見えても本能というものは具わっている。ならば教育次第で知性へと発展させることも可能というもの。
くくくくく……。はははははは!」
知性の本質を理解したとばかりに愉悦に呵う博士。
だがそれは本当に真実なのだろうか?
確かにどんなものにだって行動原理というものはあるが、果たしてそれは知性といえるのか?
不死の賢者たるリッチの発見。
これは彼の朽ち果てた脳が見せた錯覚なのかも知れない。
結局何が真実であるかは、当のスライムと神のみの知るところである。