第4話 ソーセージ
スライムの生態は不可解だ。
いや、それはスライムのような下等生命体に限らず、高い知性を持つ生物もその感情を理解しきれないという点では同じといってよいだろう。
「とはいえどんな現象にも起因となる事象があるように、生物の行動にも当然何らかの理由がある。
問題はその見極めなのだが、こいつのそれは果たして……」
足下のスライムを見下ろしながら博士は首を傾げる。
なお、こんな風に意味深げに思案する彼ではあるが、実際のところはどうやって餌を与えるかで悩んでいるだけだったりする。
「あれ? どうしたんすか、博士?
なんか深刻そうに考え込んで」
そんな彼の前に現れたのは環形動物型怪人のガーブルだった。解り易くいうとワーム(ミミズみたいな紐状の無脊椎の蟲)に手足の生えた感じの怪人である。
「あ、そいつが噂のスライムっすね。
ソーセージ食べるかな?」
彼の人懐っこく博士に話しかけたかと思えば、今度はスライムにどこからか取り出したソーセージを餌として与え出し与えていた。
ポコッ、ポコッ。
小さく二つ泡を立てたものの、ただそれだけで抵抗らしき反応を見せないスライム。
差し出されたソーセージは暫くその身体に触れたままだったが、やがて徐々に浸食していくかのように取り込まれていき始めた。
「おおっ⁈ 食ってる、食ってる。
いや~、こうしてみるとスライムってのも結構可愛いもんですよね、博士」
「な……なぜだ……?」
陽気に燥ぐガーブルに納得のいかない不条理さを覚え鬱ぎ込む博士。
だがこればかりは理屈じゃないのだから仕方がない。だからこその不条理なのである。
徐々に徐々にと短くなっていくソーセージ。そして──。
「──っだあぁぁぁーーーっ!?」
突如ガーブルが苦鳴を上げた。
驚きに博士が正気に戻って見れば、ガーブルがのた打ち回っていた。
ソーセージを差し出していた右腕が半分ほど失われている。どうやらスライムに食われたようだ。
スライムの体表から粘液が盛り上がった。そしてそれはガーブルの方へと襲いかっていく。
「ひっ……ひぎやぁぁぁーーー!!」
絶叫を上げて逃走するガーブル。彼のその姿が悲鳴と共に遠ざかっていく。
「ま、まあ、一応は環形動物型の怪人なんだし再生能力くらいは持っているだろ……」
論点のズレたことを口にしながら、博士は溜め息を一つ吐いた。