第29話 サボテンだーっ!
人の集まる街というものはその地の最重要拠点に築かれ、そこから再び各地の重要な地を選ぶようにして築かれる。そしてそれらの地を繋ぐようにして街道ができ、そしてその間に連絡地点としての町が再びできていく。
だが開拓間もない辺境となると都市や街の間に村や人里というものは少なく、街道沿いといえど未開の森や荒野が広がるばかりというのが実情。そしてそれはここデヴィランス領においても例外ではなかった。
領都シュヴァイニンゲンから東、スケブニンゲンへと繋がる街道もやはり一日近く歩けば荒野が広がっていた。街道路面こそ綺麗に均されてはいるが少し外れば砂礫ばかり。寂寥とした景色は正に僻地というに相応しく、人の気配は希に見るのは輸送中の商隊か何らかの依頼を受けた冒険者といったところである。
「はあ~、つまんないつまんないつまんないぃ~!
なんでこんなに平穏なのよ~っ! これじゃ退屈で死んじゃうよ~っ!」
少女リンファ・タオが不満をぶち撒けた。
エネルギー溢れるこの年代にはこの何も無い空間はあまりにも耐え難いものだったのだろう。
「はは、これが若さってやつなのかね。
年寄りの私には羨ましい限りだよ」
ジェイムズ・ブロンソンが苦笑いで応える。
だがそんな彼の年齢は五十前。老いたというのには微妙な年齢である。
「まっ、確かにな。若者は元気なのが一番」
ロコ・アズールがついて笑う。そんな彼の年齢は三十前後。こちらも別の意味で微妙な年齢だ。
「だろ?
若くて元気でやる気がある。そして何よりも美人。こんな逸材を探してきた俺って偉大だろ?」
それに応じて詼けたように自慢するのはアクセル・ロール。場の雰囲気のコントロールはリーダーの重要な仕事であり、新人のやる気を育てるのもまた同様。そんな彼の年齢はロコに近い三十過ぎである。
彼らの今回の任務はこの地域一帯の調査だ。最近この辺りで盗賊に襲われた商会があるということでそれを警戒しての依頼である──が、幸いなことに怪しいものは何も出てこなかったためこうして暢気な会話となっているわけだ。
「はっ、じゃあその美人の逸材とやらに何か先輩としてアドバイスくらいしてやったらどうだ?」
ロコが適当に応える。リンファではないがやはり彼もこの状況に倦んでいるのであろう。
「アドバイスってもなあ……。
こんな暇なときのそれっていったら、精々が採取で小遣い稼ぎするくらいか?
まあ、そうは言ってもその辺に生えてる草とかの類になるんだろうけど──」
ロコの言葉に乗ってかどうか真面目に思案するアクセル。だがあまり役に立っているとは言い難い。確かに雑草の中には有用な薬草等もあるだろうが、そういった物は大抵は農園で栽培されるようになるのだから採取しても高が知れているのだ。
「まあ、その中でこれといった物となるとサボテンとかか? あれは美容と健康に良いってことで女性に人気があるらしいしな」
いや、それでもそれなりの物は思い当たるようだ。さすがは年季というか、もしくはリーダーとしての資質といったところであろう。
「よし、サボテンね。
ちょうどあそこに見えるから、それじゃ早速行ってくるね」
ふと見れば彼女の言う通り少し離れたところにサボテンが見つかった。
「えっ⁈ ちょっと待て、あれはっ!」
駆け出したリンファに慌てるアクセル。だが彼には武闘家である彼女に追い付ける重装戦士である駿足はなく。
ジェイムズが詠唱を始める。魔力で風を身に纏うと透かさず彼女を追いかけ始めた。彼が年齢の割に現役でいられるのはこの器用な魔法技術のお陰であった。
サボテンとリンファの間隔が迫ってくる。
彼女の足は止まらない。
サボテンと対峙。
背中のリュックを下ろし、採取ナイフを手にする。解体は余計な傷を着けないように慎重に。
「ま、待てーーっ!!」
いざ取りかかり始めようとしたところで後方のジェイムズに気づき手を止めた。
そしてそちらへと振り返った瞬間──。
「「────!!」」
深紅の霧が立ち込めた。
それが晴れた後には、形もなきほどにぐずぐずとなった物体とその上に倒れた人の形をしたナニかが。
そしてその場をタンブルウィードの如くサボテンが離れていく。
「──っちゃあ~、遅かったか……。
まさか本当に不用意に真正面から採取にかかるとはな……」
遅れてふたりを追いかけてきたアクセルが肩を落とす。
「──!
いや、ブラウンの方はまだ辛うじて息がある」
「なに⁈ 本当か⁈」
不幸中の幸いというべきか、ジェイムズの方は辛うじて一命を取り留めたようだ。但し予断は許さない状態だが。
こうして彼らは急遽街へと引き返すこととなった。
今回彼らが遭遇したものは覇王樹擬きと呼ばれる植物で、近寄ってきた動物に針状の種を飛ばしそれを苗床として育つ移動性寄生植物であった。なお、その際に放たれる種は数千とも数万ともいわれ、鉄をもズタズタにするという。
とはいえその射程はそう長くなく、近づかない限り問題ないとされている。
というわけで、今回の彼らの任務だが、おそらくは自業自得の失敗扱いとなる可能性が高いと思われる。
今回の話は某ゲームに出てくる人気モンスターのパロディですが、この作品のこれはあくまでもモンスターではなくただの植物扱いです。




