第28話 報告書
ロミオは溜め息を吐いた。
任務失敗の報告書を書いているのだからそれは当然といえば当然だ。
実のところ、任務の失敗というのはかなり希ではあるが初めてというわけではない。任務に予想外のトラブルは起こり得るものだし人間誰だってミスを犯すことはある。何よりも依頼主の機嫌を損ねて難癖をつけられて失敗扱いになるなんてのはよく聞く話だ。
とはいえ、その際報告書を書くのはいつもパーティーのリーダーの仕事で駆け出しの自分には無縁のことであった。
しかし今回請負った護衛任務は、その対象である商隊を含め全滅。唯一生き残った自分は捕虜となった挙げ句、形見の品を渡されて解放されるという形だったのだから仕方がない。そんな目も当てられない屈辱的失態を犯したことについての報告書を初めての人間が書くのだ、溜め息も出るというものであろう。
だが、今回の件には裏があった。依頼主マコリオーニ商会は奴隷売買をしていたのである。
残念なことにこの国では奴隷の存在が認められている。但しそれは彼ら相手との奴隷契約が結ばれているか、もしくは犯罪や戦争の処罰でその罰を受けたかのどちらかに限り、それ以外の──例えば誘拐等のような奴隷狩りは認められていない。たとえそれが純粋な人間とは違う亜人であったとしても。
今回の依頼主の商隊が移送していたそれは明らかに拐われてきた後者であった。但しそれはオークという亜人であり、扱いの微妙な種族ではあったが。
ここで問題だが、亜人の扱いは大きく二通りに分かれる。一つは極めて人間に近い姿と知性を持つエルフや獣人。もう一つは人間とは異なる特徴の際立つ知性低めの人獣。前者は人間として受け入れられているが、後者は獣扱いで当然ながら人権が一切認められていない。今回のオークは野蛮な種族ということで後者に分類されている。
だが実際は、確かに野蛮な文化を持つオークではあるが、少なくとも彼らの部族は今では平穏な暮らしを望む平和的な知的種族へと変わっており、最早人獣などと呼ぶに相応しくないものとなっている。
ならばだ、対等な話し合いができる者たちに対しこの扱いは不当なものではないだろうか?
そもそも人獣と呼ばれる亜人たちは、話し合いが通用せず武力での争いでしか問題解決を図れないからこそそのように扱うしかなかったわけで、そうでないのならばそのように扱う必要性はなく対等な付き合いをしてもよいはずである。
だが、やはり彼らはオーク。正直なところこんなことを訴えてみても、鼻で哂われるのが好いところであろう。
「とはいえ、実際に生き残ったのは俺だけだし、他に証人はいないしな。ならば普通の組織誘拐による人身売買で押し通すか」
捕虜となりながらも丁重な扱いを受け、無事に解放された幸運。しかも仲間たちの遺品の持ち帰りさえも許されたのだ。これに仇を以て返すとなればどちらが野蛮ということになるのか。
人間とオークたちとの関係を思い、空を見つめるロミオであった。
これで漸くオーク編に区切りがつきました。
正直なところバッドエンドなため書いていて精神的に疲れました。
長らく休んだ上の仕上げのたった数話なのに……。




