第26話 種族の起源 ⑦
久しぶりの更新。
実はどんな話をやっていたか忘れていたり。
などと冗談はともかく、そろそろけりをつけないと……。(笑)
エベルたちがオークの集落で暮らすようになってさらに一月が経った。
人間とオークの歪な共存関係は、未だお互いに辿々しさは残るものの対等なものへと変わってきていた。
バチーン!
「執拗いわよっ、この変態豚っ!
いい加減にしないと本気で怒るわよっ!」
……どちらかといえば人間側が若干優勢かも知れない。人間女性にアプローチをかけたオーク男性が手痛く撃退される。これが最近の両者の関係なのだから。
「……ったあ~。ヨーコのやつ思いっきりひっ叩きやがって……。
なあ、本当にこれしかないのか? あいつ、全く俺に靡く素振りもないんだけど?」
頬を赤く腫らしたオークのジョンが納得いかないと問いかける。
「こういうのは根気と誠意が必要なんだよ。
況して俺たちオークは人間たちの恨みを買っているだろ? だから余計に難しいんだよ。
……って、フィリシアが言ってた」
答えたのは彼の友人のポール。この集落で最も番と良好な関係を築いたことで知られるカリスマオークである。
「解ってるよ、そんなことは。
……って惚気かよっ! ちょっと番がいるからっていい気になりやがって。
とはいえ他に頼れるやつなんていないしなぁ……。
お前、本当に巧くやったよなぁ。
全く羨ましい限りだぜ」
「ははは、まあな。
でも、一度あの快感を知れば自然とそうなるって。優しく尽くされるのと、無理やり従わせるのとじゃ全然違うし。
お陰で今じゃ俺の方が何かと尽くす立場だよ。
いや、本当に凄いんだよ。例えば──」
妬み半分のジョンに応えるポール。その惚気はますますエスカレート。
それを聞かされるジョンは自業自得だが少しばかり可哀想である。
パッカーン!
「アホーーーっ!
あんた人前で何を言うつもりよっ!」
響く快音と甲高い声。
そして彼の足下に転がるサンダル。
ポールの後頭部にそれがヒットした音と片方裸足で駆け寄って来たフィリシアの怒声である。
「何って、そりゃあ──」
「答えんでいいわっ!」
フィリシアのサンダルが再びポールの側頭部でパコーン!と音を響かせる。
「なんだよ、自分から訊いておいて不条理な……」
サンダルを片手に睨み付けてくるフィリシアに不満げに応えるポール。
「まあでも、こういうのも意外と悪くないんだよな。
このほのぼのとした安らぎは他人を虐げ優越感に浸るよりも遥かに勝る幸福感があるし。
それを教えてくれたフィリシアには本当に感謝だよ。
なあ、フィリシア。愛してるぜ」
ポールの拗ねた態度はすぐに笑顔へと変わり、口説き文句を伴うその腕がさりげなくフィリシアの華奢な腰を抱く。そしてそのまま──。
「ちょ、ちょっと、こんな真っ昼間から──」
「なんだよ、いいじゃないか。
それとも俺のこと嫌いになった?
昨日の夜に言ってくれた言葉は嘘だったの?」
「そ、それは、その……。
でも……、だからってっ……」
顔を赤らめもじもじし始めるフィリシア。
どうやら彼女もポールのことを憎からず思っているようで、すっかりしおらしくなり流されつつある。
やはり彼女も乙女であったというわけだ。
「ち、ちくしょーっ! お前らふたりとも爆ぜちまえーっ!」
涙目のジョンがこの場を駆けて出していったのも仕方のない話であろう。
その頃エベルは──。
砂漠の国に起こった内乱は隣国の武力介入により終結し、そして新たな国が誕生した。
だが、だからといって気候までが変わるわけでなく、国土は荒れ果てたままで財政は相変わらずの逼迫状態。
そこで国は一つの政策を打ち出した。それは積極的害獣駆除対策。つまり全ては天災ではなく悪しき生物の仕業であると責任転嫁をしたわけである。
元々は国民への安全保障の名の下彼らを監視下に置く治安維持法案に過ぎなかったそれであったが、やはり目に見える形で他の何かに不満をぶつけるという防衛機制の置換え行為は、彼らの目を逸らすにはうってつけだったようで、寧ろ国民からは進んで受け入れられることとなった。
こうした情勢だったこともあり、当初は治安維持を協力を得るだけであったのが、次第に民間に委託されるようになり、結果それを取り仕切るギルドとそれを生業とする冒険者たちがここでも誕生することとなったのであった。
こんな経緯で誕生した冒険者ギルドであっただけあって、彼らの主な仕事は当然ながら害獣の駆除。国の方針という後押しもあり彼らの勢いは留まることを知らず、その活動範囲は国内はもちろん周辺地域にも及んだ。
そして立場は逆転。これまでは被害を受けるだけだった人間が、今では狩る側となり彼らを追い回す。獣たちの多くは棲み家を追われ、ほぼ駆逐され尽くしたといってもよい状況に追い込まれることとなる。
そしてそれは亜人たちも例外ではない。なぜならば冒険者たちにとっては寧ろこっちの方こそが本命であったからだ。
「──それってマジか?
だとするとここもそろそろヤバいってことじゃないか……」
「ええ、北西の森近くで見かけたから近いうちにここへもやって来るでしょうね」
エベルは街への買い出しから戻ってきたイーナから深刻な情報を聞かされていた。
そして──。
「見つけたぞ! オークどもの集落だっ!」
そして時を置く間もなく現れたその問題と対峙することとなっていたのであった。




