第22話 種族の起源 ③
逃亡先の新天地。
そこでの平穏な暮らしにすっかりと馴染みきった母子四人であったが、今度はそれ故の悩みが子どもたちにのし掛かる。
それは恋愛を前にした問題。彼らが種としてはイレギュラーであるという現実だ。
おそらくは子を生せないということはないだろう。子どもたちの肉体には耳や尻尾といった極一部の特徴を除けば普通の人間と全く変わったところはないのだから。だがそれでも、彼らは異形の種との交わりに──いや、共存自体に嫌悪を示す可能性が高い。
だが、そんな母子の抱える悩みは思わぬ形で吹き飛ばされることとなった。それも最悪の形で──。
屋外から突如女性の悲鳴が響いた。
それに続くのは男立ちの絶叫。
扉を開ければ阿鼻叫喚の地獄絵図が。
村は何者による襲撃を受けていたのだ。
衝動のまま飛び出したエベル。目指すのは想い慕う女性の元。
焦燥に駆られる彼の目に、数人の女性と彼女たちを背に庇い敵へと立ち塞がる男たちの姿が入る。だが、今のエベルには彼女たちに煩わされている余裕はない。
非情を決め目を逸らそうとした彼であったがそれは許されなかった。その中には彼の想い慕う少女の姿があったのだ。
「イーナ!」
彼女の名を叫ぶエベル。
勢いで飛び出して来ただけの彼は残念ながら徒手空拳。彼女たちの期待に応えられる戦力にはなれない。しかしそれでも敵の気を引き付けるくらいのことはできる。その間に彼女たちが逃げることができればと、ただそれだけに希望を託し無謀にも拳を振り上げた。
意を汲んだ男たちが女性たちに逃走を促す。
エベルも敵へとしがみつく。殴られようが蹴られようが、刃で傷つけられようが、とにかく一命に代えてもと必死だ。
だが、所詮希望的な願望は現実に程遠く、彼女たちの逃走は敵への壁となった男たちの全滅を齎すだけの結果となった。
そしてエベルの意識もまた薄れて消えていくのだった。