第21話 種族の起源 ②
「──彼女は一男二女を産んだ。当然その全てが同様の交配実験による亜人の子だ」
淡々と語る亜人の青年。
その内容は予想通りの酷いもの。
しかも三人目の子が生まれた時点で彼女ハミリアの夫ナジムには処刑が下されたという。種として用済みとなったということなのだろう。
「──そして数年の時が流れ、その国に亡びの時がやってた。
国土の荒廃、政治の退廃、度重なる内乱に周辺国からの支援は打ち切られ、それどころか乗じるように隣国からの侵略を受けたのだからそれも無理のない話というもの。
まあ、こんな国なんて潰れようがどうなろうが知ったことではないのだがな……」
淡々というのは少し違うようだ。口調こそ坦々としているが、こうして自然に毒を吐いているのだから。おそらく感情を抑えているのだろう。
◆◆◆◆◆◆
混乱に乗じ彼女は逃げ出すことを決めた。
これまでも考えたことがなくもなかったが王子を始めとした研究所の所員たちがそれを許すわけもなく、況して幼い子ども三人を連れて逃げ出すのは厳しく現実的とはいえない。それが彼女を躊躇させていたのだ。
だが、こうして機会が訪れたからにはこれに乗らないという選択はない。そうでなければいつ次の機会が訪れるか──いや、それもどうか判らない。
新たな統治者に身を委ねるというのはあり得ない。人倫から外れた存在である彼女ら親子がどのような扱いを受けるかは目に見えている。忌まわしき怪物として討伐されるか、もしくはこれまで通りの実験生物扱いかの二つに一つだ。
逃げた先は南の片田舎だった。
特に当てがあってのことではなく、ただただ逃げた先に偶々その村があっただけ。街から遠く森が近いろく拓けていない集落であったが、その分住む人も少なく自分たちを知る者もいない。
彼女たちはここに住むことに決めた。もちろんその正体を隠して。
それから二年が過ぎた。
日々の暮らしは平穏で、子どもたちは健やかに育ち、この村の住人としての信頼を得られるほどに馴染み切っている。これまでつらい人生を送ってきた彼女が漸く掴んだ幸せである。
しかし、だからといって何も悩みがないというわけではなく、寧ろそれ故の新たな悩みを彼女たち親子は抱えることとなった。
それは子どもの思春期の悩み。つまり恋愛問題。ここにきて再び種族の壁という現実が彼女たちに襲いかかってきたのだ。
「はあ……。やっぱり普通の人間と違うっていうのは受け入れられないんだろうなぁ……」
「うん、もしバレたら今までの関係はみんな壊れちゃうんだろうね……」
「ちょっと、怖いこと言わないでよっ。
……でも、間違いなくそうなると思う……」
「「はあ~…………」」
長男エベルが食卓に突っ伏し、マイアとフィリシアの妹が揃って溜め息を吐く。されど三人の母であるハミリアにはできることなど何もなく──。
そんな不毛な毎日であったが、それもまたいつまでも続くものではなかった。