第20話 種族の起源 ①
お待たせしました。久し振りの投稿です。
とはいえ今回のエピソードって些か内容がセンシティブなのでそこが心配です。
「だが、現実は──」
「──現実……か……」
言い抗おうとするも言葉に窮したロミオに対し、亜人の青年もまた複雑そうな呟きで返した。
「確かに我ら亜人とお前たち人間は互いに相容れない存在だ。
だがそれはなぜだ? その対立は我らが齎したものなのか?」
「違うというのかっ! お前たち亜人は常に我ら人間の生活を脅かし続けてきたではないかっ!」
「なに⁈」
「ふざけるな!」
青年の問いかけに、今度はしっかりとした言葉で返すロミオ。
だがそれはこの場の亜人たちから寛容さを奪い、憤らせ激昂させるものであった。
「落ち着け。ただの挑発だ」
青年が仲間たちを宥める。
煽った相手からそれを返されて逆に乗せられていれば世話はないということだ。
「それでは教えてやろう、俺たち一族の誕生の歴史を──」
◆◆◆◆◆◆
今を遡ること数百年前、北の砂漠のとある国、この地は旱魃を常としており、それの齎す不作は国土を荒廃させ、民心の疲弊は人々から良識を奪うに至っていた。
村々は水源を繞り合って争いを起こし、商会は借金の形として彼らから労働力を奪う。領主は民へと重税を課し、商会からの借財を踏み倒す。そして国は多額の上納の見返りとばかりに大概のことを不問とする。
だが、全ての者たちがそれを受け入れていようわけがなく、各地で反乱を起こす者が現れる。
そんな中、王都にて若き将校ナジムが決起したのもまた自然の理というものであったのだろう。
革命を志す大義は立派なれど彼はあまりにも若過ぎた。『兵は神速を貴ぶ』の言葉に則り果断な義挙に践みきった彼であったが、その実態はその場の義憤に駆られただけの発作的衝動に委せて兵を動かしただけに過ぎなかったのだ。
それでも一応は作戦は練っていた。城下で陽動の騒ぎを起こしておいて、その対処で手薄になった城を攻めるというそれだ。
だがそんな粗の大き過ぎる作戦の通用するわけもなく彼らはあっさりと鎮圧された。彼らの陽動は見抜かれており、そこを逆手にとられたのだ。要するに城方は城下を見捨てることにしたわけである。
彼とその一族への処分は当然ながら熾烈を極め、そこに一切の分別はなかった。親族の全てが極刑なのは当然として、少しでも彼らと関係があればその者たちにまでも追及の手は伸び、結果彼らに対する踏み絵状態を齎し、その過剰さは常軌を逸するところにまで及んだ。
「お待ちください。
この者たちの身柄ですが、このまま極刑に処すくらいなら私に預けて頂けませんでしょうか?」
公開裁判の中、物好きな王子が口を開き、首謀者ナジムとその若き妻の身柄の引き取りを申し出た。
但しそれは彼らに対する温情的な保護観察などではなく──。
その翌年、ひとりの女性が男児を産んだ。
その赤子は彼女とその父親の面影を合わせ持った愛らしい顔で母親へ微笑む。
だが、その子には明らかな違和感があった。
頭部の特徴的な両耳と、そして臀部の微かな膨らみ。それはまるで豚を思わせるそれであった。
「──くくく……。
そうか、やはりそうだったか!
亜人が人と獣の中間種であると解ってはいたが、これまで実験では然したる結果が出てこなかった。
だが人の妊婦と獣のオスを媾わせることでそれが正しいことが証明された 。
私の推論は正しかったのだっ!
くくくくくく……。くははははははっ!」
母子を眺め呵う王子。
彼の狂的好奇心により禁断の種がこの世界に誕生した瞬間であった。
◆◆◆◆◆◆
「──夫妻の胎児に横から紛れ混ざり込んだ異質なる血……。
こうして俺たち種族の歴史は始まったのだ」
淡々と語る亜人の青年。
彼の言うことが真実だとするのならば、彼らは同じ人間を祖としながらも、人の戯れによりそこから外れることとなった憐れな者たちの末裔ということになる。
人と亜人のどちらが邪悪な存在か、これでは考えるまでもないであろう。