第19話 迷い
辿り着いたのは街道外れの深き森であった。
商隊から奪った荷馬車から囚われだった亜人女性たちが降りていく。
檻車からは商隊とその護衛だったモノがその隅に放り出され積み上げられる。
ドンケルボス森林の内に築かれた拠点、おそらくはここが亜人たちの暮らす集落なのだろう。
「──で、どうするつもりだ。
お前ら亜人たちにとって、俺たち人間ってのは相容れない敵なんだろ。
それをわざわざ俺だけ治療して生かしておくからには何か理由があるんだろ?」
冒険者ロミオは亜人たちへと問いかけた。
先の襲撃で囚われの身となった彼だが、意外にもその扱いは虜囚のそれよりというも距離感のある客人といった方が近かった。
「勘違いするな。俺たちはお前たちと違って、故もなく他人を殺したり虐げたりはしない。
何よりも、お前はやつらを裏切り我が同胞たちを救けようとしてくれていたというではないか。ならばお前は我らの恩人だ。間違いで傷付けてしまったことを謝りこそすれ、殺そうなどあり得はしない」
彼らのひとりがロミオに答えた。
その言葉はロミオを余計に混乱させた。
これでは人間の方が邪な存在であり、彼らはそんな者に対しても義理を通そうとする気高き存在だということになる。
若いが身形は整っており、また風格を感じさせる落ち着きがある男。おそらくはそれなりに地位のある者なのだろう。
「はっ、それこそ間違いというものだ。
俺は相手が同じ人間だと思ったから救けようとしただけで、そうでないと知っていれば──」
悪態で否定するロミオであったが、その言葉は次第に尻窄みとなった。
瞳に映る女性の悲しげな表情が彼に迷いを齎したからだ。
「………………」
それは彼が救け出そうとした奴隷商品であり、そして彼に治療を施してくれた恩人。亜人であるとはいえそんな彼女を無下にすることに罪悪感を感じずにいられるロミオではなかった。
「無理をするな。本当は疑問に感じているのだろう?
こうして同じことを感じ同じ言葉を話す我ら。
なのになぜ解り合おうとしないのか? 共存することはできないのか?──と」
「だが、現実は──」
言い返そうとするロミオだが、続く言葉のなさが裏腹な心の内を表していた。