第17話 商隊と冒険者
デヴィランス辺境伯領東部、ゼーインハーゲ湾に面する町スケブニンゲン。拓かれてさほど間のない町ということもあり、その運営はやはり綺麗事ばかりとはいかないのが現実であった。
となると当然荒事などといった問題も起き得るわけで、それを請け負う冒険者たちも集うこととなり、結果冒険者ギルドの支部が置かれることとなったのも自然の流れと思うものであったのであろう。
暗く淀んだ陽射しの中、街道を北へと進む荷馬車とそれを護衛する集団があった。
マコリオーニ商会の商隊とそこに雇われた冒険者クラン『新緑の勇士』のパーティである。
「それにしてもさ、この物々しい警戒ぶり、いったい何を運んでるんでしょうかね?」
齢15~16と思われる若き冒険者が大幕に覆われた馬車の荷台を横目に眺め、同じパーティメンバーの青年に問いかけた。
「ん? ああ。あまり詳しいことは聞いてないけど、なんか豚とか家畜みたいなこと言ってたな」
「なんですかそれ。豚を豚の暮らす地までって、まるっきり洒落じゃないですか。
でも高々豚の搬送にここまでの護衛って本当に必要なんですかね?」
「はは、確かにな。
とはいえほどほどにしておけよ。変に荷に関心を持ち過ぎると、依頼主に疑われることになるからな」
青年もやはり疑問には思っていたのだろう。
とはいえ好奇心は猫をも殺すというわけで、触らぬ神に祟りなしと諭し返すところが大人の処世術というわけだ。
なお、されどその生に価値を得た と後の世において継ぎ足しが作られているのだが、そのことはあまり知られてはいない。
「来たぞーっ! 全員気を引き締めろーっ!」
ちょうど彼らがこんな話をしていたところに前例の方から警戒を督す声が聞こえてきた。
そして間もなくして──。
「ちっ、やっぱり出たか。薄々そんな気はしてたんだ……」
進む商隊の前に怪しい集団が現れて、そしてその周囲を囲み込もうとする。
つまり若者や青年の不安は当たっていたというわけだ。
「武器を捨てろっ!
黙って言うことさえを聞けば余計な危害までは──」
相手側の首領らしき者の言葉を遮るように冒険者たちの方から弓が射かけられた。
「はっ、追い剥ぎ如きを恐れてて護衛が務まるかってんだよっ!」
彼の言葉の終わるのを待たず一人が飛び出すと、他の仲間たちも続くように次々と駆け出していく。
「俺たちはこっちだっ」
青年が荷馬車の下へ駆け出す。若者も同様にそれに続く。
これは前以てクランの計画で決められていたパーティ毎の役割分担によるものであり、彼らの受持ちは商隊と荷馬車の護りであった。
乱戦は激しさを増し、敵は遂に彼らの傍を侵すまでに近づいてきていた。
「──ちっ……。
ロミオっ、ここは任せたっ!」
青年が若者の前から飛び出していく。
戦場全てに漲る緊張感。それが伝わるのは何も人間だけでなかった。
馬たちが嘶く。そして繋がれた荷台が揺れる。
「はあっ⁈」
大幕から一瞬ちらりと覗いたそれに若者は目を疑った。
そしてその疑問を確かめるべく、今度は自らの意思で大幕を捲る。
「ど、どういうこと⁈
この中は豚って話だったんじゃ……」
混乱する若者に荷台の中から声が訴える。
「お願いっ、助けてっ!
ここから出してっ!」
中に居たのは薄汚れた身形をした若き女性たち。
《……つまりこの荷台は檻車であり、彼女たちは人身売買で売られる商品。
ならば今襲ってきている連中は、彼女たちを救出にきた仲間ということに……》
葛藤の末の彼の手にした剣は檻車の錠を打ちつけていた。
一撃でそれを壊せる器用さもないので、何度も何度も打ちつける。
乱戦の続く中、何度も何度も。
そして若者は背後からの一撃に意識を手放すこととなった。