第16話 スケブニンゲンの町
ルミナリア南東部デヴィランス辺境伯領領都シュヴァイニンゲンよりゼゲン川沿いに街道を東へと進めばファリン海に隣接するドンケルボス森林が見えてくる。そしてその手前タウベンヒューゲル丘陵より街道は南へと降る緩斜面となりゼーインハーゲ湾へと到る。そこにスケブニンゲンの町はあった。
この地に赴任したばかりの領主が築いて間もない町のため未だ至らぬところは多い。だが、それでも彼の人望と政治手腕も相まって故か人も集まり緩やかな成長を遂げつつある。
ただ、それでも問題がないというわけではなく──。
「ヒャッハー!
見ろよ、言った通りだろ。
いつの間にか知らないけれど、それなりの町ができていて、そのくせ守りはどうしようもなくショボい。
こんないかにも襲ってくださいって言ってるようなもの、黙って見てるなんてあり得ねえだろ?」
「ああ、全くだ。まさかこんなチョロい狩り場ができていたなんてな。
海賊サイコー! 海の神様に感謝だぜっ」
おそらく彼らは海の東に位置する諸島国家ヤーファの海賊だろう。小柄ながらも逞しい肉体に軽装を纏い、銛を片手に暴れ回る姿は正しく話に聞くそれであった。
「か、海賊だーっ!」
「家財道具は無視しろっ!
北の避難所だっ! 急げ!」
逃げ出す民たちに老若男女の区別はなく、ただ大声を上げ無抵抗に北へと急ぐばかり。
だがその動きの統率がとれているところを見るに、これらは日常の一部なのか、もしくは日頃からそういった訓練が行われているものと思われる。
物品を余所に民たちを追いかける海賊たち。相手が無抵抗なこともあり、鹵獲品に女たちを加えることにしたのであろう。
海賊たちは勢いに乗り町の奥深くまで進み込む。
そして──。
「な、なにぃっ!?」
空からネットが降ってきて、次々と海賊たちへと覆い被さる。
絡め取られ身動きのできなくなった彼らが頭上を見上げれば、周囲の建物の屋根に屈強な男たちの姿があった。
「ふっ、正に一網打尽というやつだな」
そしてその中央では一人の男が腕組みをしながら頷いている。
「正確には一網じゃないけどな」
「いいんだよ、喩えなんだから」
いや、傍にも男がもう一人、彼にツッコミを入れてせっかくの雰囲気を台無しにしていた。
「──く、くそっ、嵌めやがったなっ!」
ここにきて漸く事態を把握した海賊たち。
つまりこの町は海賊たちを誘き寄せ、捕らえて労働力としていたわけである。
基本的にこの作品はギャグ主体であるため地名等も悪ふざけでつけております。
ただ、一応は意味を持たせていることもあって実在の名称と被る可能性も……というか、いくつかそうなっているものもありますが、当然ながら全く関係はありません。
なお、今回出てきた地名はだいたいこんな意味合いです。
【スケブニンゲン】
意味は斜面の村。ネタ元はオランダの『Scheveningen』という観光地。『スケベニンゲン』という誤読ネタで有名。
【ゼゲン川】
祝福を意味するオランダ語の『zegen』由来です。『女衒』ではありません。
【ドンケルバス森林】
闇の支配というイメージです。オランダ語では『Donker baas』となるようです。
【タウベンヒューゲル丘陵】
鳩の丘。ドイツ語では『Tauben Hugel』だそうです。発音が『頭部禿げる』と似ています。
【ゼーインハーゲ湾】
臨海をイメージ。オランダ語だと『zee inhage』となるようです。発音が『全員禿げ』と似ています。
ということで、今回の話のオチは偽装避難でした。
実はスケブニンゲンは、escapeとかけていたのですが、でも実際の偽装避難はdisguised evacuationでevacuationなようです。




