第15話 デヴィランス領
とある大陸南東部に位置する大国ルミナリア。北西部には大国ポラレス王国、西部には小国家群の集まったセオス連合といった友好国が隣接し、また北部の広大な砂漠を挟むようにして北東部にはライバル国ダーファが、その南東には海を挟み諸島国家ヤーファが存在する。
そして唯一ルミナリアと接する大陸南東部にはどこの国にも属すことのない広大な未開の土地が広がっている。
この度マーク・ディヴェロフ・ポーベル・フォン・デヴィランス辺境伯の与えられた領地デヴィランスもまたそんな辺境の一つであった。
拠点に選ばれたのは河沿いの肥沃な土地。
シュヴァイニンゲン(豚の暮らす地)などと名付けられた地だが、僅か一月余りで街として発展し、その名を知られるに至ったのだから彼のその手腕はなかなかのものである。
ただそれでも、街が未だにさまざまな問題を抱えていることに変わりはなく彼がその対処に追われ続けていることに変わりはない。
例えば──。
「何者かは知らんが我々になんの断りもなくああして勝手に土地の所有を主張するなど、これはこの地を治める辺境伯閣下を始め国家秩序に対する反逆行為、決して許してはなりませんっ!
直ちに兵を差し向けるべきですっ!」
これは領主の息子率いる調査隊からの報告におけるその補佐官による進言である。
「いや、確かにその通りだが、しかし相手が何者かも判らぬのにそれはあまりにも逸り過ぎであろう。
何事にも手順というものがある。まずは詳しい調査が先決。場合によっては話し合いでかの者たちを傘下に加えるくらいの柔軟さもあってよいのではないかね」
一方で辺境伯の側近からはこのような意見が。
正直今の統治は常にギリギリで余力のないのが現状であり、そこに鑑みるとするのならば、大局を弁えぬ一介の下級役人の言よりも彼の下で政治を支え続けてきた側近の言い分にこそ耳を傾けるべきであろう。要するにこの補佐官の言は身の程知らずな越権行為なわけで、こうして諭されるのも当然といえる。
「まあそう言うな。貴重な現場からの意見なんだから。
できることならばお前の言うように話し合いで穏便に片付けたいところだが、かといって建前としては何もしないってわけにもいかない。
ならばここはその両方でいってみるべきだろうな」
こうして今回の調査隊メンバーたちは新設された領勢特別調査委員会、もしくは治安維持特別部隊へ編入されることとなる。
とはいえさすがにそれら組織にいきなり実用性を求めるは難しく、結果それらは冒険者ギルドと呼ばれる民間組織に委託されることとなったのであった。