第13話 何かズレてる
突如飛んできた水の刃が男の首をスパンと刎ねた。
ポロリと転がり落ちる首。
バタリと倒れ伏す身体。
見事な惨殺死体のでき上がりだ。
「な、なにすんだよ、おっかねえなあ……。
今のって俺じゃなきゃ死んでるとこだぞ……」
──と思えば、男はむくりと起き上がると、先ほど刎ねられた頭部を拾い、何事もなかったかのように首の上へと載せた。
彼の名はデュラン。その正体はデュラハンという首無しアンデッドの妖精であった。
「──って、馬鹿っ、そいつを嗾けんじゃねえっ!」
だが、さすがに続くそれには慌てふためき制止を訴え逃げ回り出した。
人造生命体SL2-Sことスライムのエミールは悪食である。肉食、菜食、何でもござれ。液体にしても泥水を始め油、毒、酸さえも。有機物は大概食らってしまう。
そしてそれは人であろうとも例外ではなく、その生死もまた関係はない。
つまり死者であるアンデッドといえども肉体を失うのは堪らないということである。
「あら、どうせ疾っくに死んでいるんだからそんなの別にいいじゃない」
戯け哂うアイナ。
水の妖精だけあって性格も陰湿だということだろうか。
「ざけんなっ、こらっ!
普通水の妖精といえば清らかなもんだろうがっ!
それがなんでこんな腐った泥水みたいな性格してんだよっ!」
「元が聖騎士のあなたが言われたくないんだけど……」
要するにどっちもどっちで闇堕ちしたが故というのが答である。
暫く続いていた追いかけっこはエミールが甕に戻ったことで終わりとなった。おそらくは厭きて興味を失ったということだろう。
「はぁ……、はぁ……。やっとかよ……。
しかし、こいつにはせめて身内の区別くらいはつけてほしいよなあ。
でなきゃ危なっかしくて仕方ないってんだ。
博士もこいつに喰われたっていうしな……」
腰を落とし仰け反り状態となったデュランが息切れながらに呟く。
「うん、確かにね。私もあれにはびっくりしたし」
アイナもそれに同意する。
先ほどまでの彼とのやり取りは既に頭から抜けているようだ。
「でも、先生でさえもああだったのよ。そう簡単にどうにかなるとは思えないわ」
ふたりの言葉に弱音で答えるマージョリー。相手が知性の有無の怪しいスライムだけにそれも仕方のない話である。
「それこそ最近聞くスライムみたいな高知性の別物なら問題なんて何もないのにね」
「「確かに……」」
アイナの言葉に素直に納得するマージョリーとデュランのふたりであった。