第10話 毒の壺
実は瓶、壺、甕等の違いがよく解っておりません。ここでは大きさの違いということにしていますけど、実際はどういう使い分けなんだか……。
人造生命体SL2-Sことスライムのエミール。
かつては小瓶を棲み家としていたが、それは彼の成長に従い大瓶、ブリキのバケツと変わっていき今では陶器製の大壺がそれとなっている。
「だからって何もこれを選ばなくってもいいでしょうに。
やっぱりスライムの性ってことなのかしらねぇ……」
博士の研究室の一画に置かれた壺を眺めつつ、魔女マージョリーは溜め息を吐いた。
「それはどれを選んでも同じでしょ?
てか、自分で送っておいてそれを言う?
油壺、酸の壺、毒の壺、死骸の壺。酷いのだと呪いの壺なんて物まであるし」
返ってきたのは黒緋色の衣を纏ったシスターレシスによる呆れたかのようなツッコミだった。
「失礼なこと言わないでよっ!
それらは全部研究用の資材として求められて送った物なんだから!
それに先生には酒壺とかも結構贈ってるのよ、そんな風に悪く言われるなんて心外だわっ!」
「へぇ~、お酒を嗜まない先生に?
それって皮肉以外の何物でもないんじゃないかしら?」
冷笑うレシスに場の空気が凍りつく。
どうやらふたりは険悪な関係らしい。
だが、そんな彼女たちに平然と声をかける強者もいないわけではなかった。
それはスラッガーという怪人であった。
「あ~、それだけどな、それらって全部そいつの腹ん中なんじゃないの?
ほら、見てみろよ、他の壺も軒並み空になってるから」
「「え⁈」」
彼の言葉にふたりが次々と壺を確認していけば、確かにその多くがほぼ空であった。
「要するにスライムってのは悪食なんだろうよ。この間は博士までが喰われてたしな」
「「……え⁈」」
そのことを知らないわけではないふたりだが、しかし当のスライムのいる壺に近寄ったこのタイミングで言う台詞であろうか。
そろりそろりと壺から離れるふたり。
そして今度はとある甕に近寄ると、中からそれを手に取り──。
「「わざとかーっ‼」」
塩をぶつけられるスラッガー。
彼は蛞蝓型の怪人であった。