第1話 腐った○○
人というものはいつの時代でも、どこの世界でも変わらない。
善を為す者がいれば悪を為す者がいる。
節制に努める者がいれば欲望の赴くままに生きる目的がいる。
生み出す者がいれば死と破壊を。
秩序を守る者がいれば、それに背き乱す者が。
光と対峙する闇の者たちは今日も蠢く。
「おま、何だよそれ?
そんな雑魚モンスターなんか造ってどうしようってんだよ?
どうせ造るなら虎とか鷲とか蛇だとか、そういうのを掛け合わせた合成生物とかだろ」
たった今誕生したばかりの緑色のヘドロを前に、狼頭の獣人が呆れたように言う。
「はあ?
マードック、お前こいつの良さが解んないのかよ? ばっかだなぁ……。
いいか? 説明してやるからよく聴けよ?」
そんな彼を馬鹿にしたように諭すのは、馬の頭に鹿の角を生やした逞しい肉体の獣人バクスタッドだった。
「スライムってのはなあ、男のロマンなんだよ。
あの腐蝕性の体液で弱りきった女共の衣服をじわりじわりと溶かしていく。怒りと羞恥と怯えに震えながらも涙目で虚勢を張り続ける女。
な? こういうのを力尽くで凌辱するのってゾクゾクするだろ?」
想像に震えるバクスタッドの興奮はモロに身体に表れていた。
「な、なるほど。確かにありっちゃありだな。
うむ、偶にはそういうのも好いかも知れんな。
しかし博士にそういう趣味があったとは意外だな」
言を翻したマードックもまた身体の一部がホットだった。
「ないわっ!
お前らと一緒にすんじゃないっ、このアホ共がっ!」
二人のやり取りにツッコミを入れる博士。
「あ……。そういや博士って……」
「ああ、リッチだったんだよなぁ……」
博士の正体がアンデッドだという事実に二人が同情の溜め息を吐く。
「アホーっ! これでもちゃんと肉体は残っとるし、息子も健在だわっ!」
博士の天を衝かんばかりの怒気がローブから溢れ出し部屋中を震わせる。
リッチとは死体を意味する言葉だが、それでも肉体は存在しているのだ。仮令それがどんなに朽ち果てていたとしても。
「「ひいい~っ!
くわばら、くわばら~!」」
脱兎の如く逃げ去る二人。
そんな彼らを死神の形相で睨む博士。
彼の足下では、当事者のスライムが何事もなかったかのように泡を立て続けていた。