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養父に恋する冒険者ギルドの彼女、本日の業務も力業で解決!  作者: 弓軸月子


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47 そして現在


 ブルーノは少しだけ目を細めて軽薄に笑う。


「へぇ? 教会じゃあねぇんだ?」


「あー……」


 アントニオはバツが悪そうに視線を上方に向けて言った。


「直々に”神殿”から来たと聞いたからな。脳内で勝手に教会だと変換してたんだが……」


「っは。正解」


「……施設の名前という意味ではないんだろう?」


「あぁ。神官になるために入れられるっつー、教会本部にある教育機関の、ま、あだ名みてぇなもんだろな。オスコリダと同じ手法で育ててんだよ、暗殺者を」


 使えそうな人材を拉致して洗脳する。

 恐怖と絶望に溺愛を混ぜて徹底的に人を壊すやり口は正しくオスコリダの手法だ。


「それで、謝りたいってのはなんだ?」


「いっやぁ? 気が付いたところでヤとっきゃあよかったってな。俺の初動が遅れて悪かった。そっちから見たらルシアを巻き込んだのは盟約違反だろ?」


 ルシアに関わらない事は巻き込まざる負えなかったから謝罪の対象ではないらしい。

 後悔に対する懺悔の様なものだろうかと、アントニオは目を丸くしてブルーノを眺めた。

 少し、驚いたのだ。

 こちら側に長く居すぎた故か、それとも、あちら側とこちら側が入れ替わったのか。

 戸惑いは一瞬だけ。

 既に内部から破壊するためにアントニオを巻き込んでいるのだ。


「よし、潰そう。一回潰してるんだ。二回目も余裕だろ」


 アントニオにとって、目の前を塞ぐ物があるならば”退かす”一択である。

 ニカリと笑ってマヌエルの背中を叩いた。


「もぉぉぉぉ! そんなに簡単な話じゃないでしょぉぉぉぉぉ!」


 そう叫びながらもマヌエルはポンポンとどこからか小鳥を取り出しては放ち始める。

 ブルーノも驚いたのか、一度目を見開いて、それからニカリと笑って言った。


「せっかく治してもらったが、俺も死んどくか? 根絶やしにしねぇと繰り返すぜ?」


 それは嘘偽りなく、正真正銘、そう思って口に出した言葉だ。


「敵対する予定がないなら構わん。死にたいなら殺してやるし、何年かして敵対されたらその時に殺してやる。対人関係で手間を惜しむつもりはない。好きにしろ」


 ルシアにも根深く残ったその一面は、変われない部分なのだろう。

 それぞれが多少過去を引きずっていたとしても、オスコリダはもうないのだ。


(自分で決めればいい)


 アントニオは傍らに立っていたアンに視線を移す。


「お前はどうする?」


 アンは顔色も声色も変えずに答える。


「私はギルド職員です。ギルマスの指示に従います」


「そうか。それならちょっと神殿を潰してくるから現場不在証明を頼む。手が空いたらギルド及びギルド職員の安全を最優先にボルソバ国諜報部管理官ブルーノの指示で動いてくれ。ブルーノ、アンのスキルはアンタの方が詳しいだろ? 上手く使ってくれ。マヌエル、国王陛下との謁見許可は?」


「投げたからお返事待ち中よ、せっかちさんねぇぇぇ? お姉ぇさんに部隊編成も投げたからゆっくり戻れば名簿が出来てると思うわ」


「ルシアはもう到着する頃だったか?」


「予測通りならラギア国を出る頃じゃないかしらぁ?」


「顔ぐらいは見たかったが仕方がないな。さて、動くか」


 立ち上がるアントニオに、ブルーノも軽く頷いて立ち上がる。


「頭使いたいから運んでくれる?」


 マヌエルだけは両手を持ち上げて立ち上がろうともしないので、アントニオは両手を掴んで肩に担ぎあげた。




***




 第一トラップの前に立ったルシアは大忙しだった。

 まずは貰ったばかりの小型クロスボウを片手にダンジョンから出てくる魔獣の目を潰す。

 落とし穴に落ちた魔獣は定期的に魔法で燃やしていた。そうしなければ積みあがって道になってしまうのだ。

 飛び掛かってくる魔獣はマチェットで切り伏せる。こちらも積みあがってしまうので、出来る限り穴に落として対応した。

 第二トラップの壁の上にも冒険者が控え、遠距離攻撃や、飛ぶ魔獣に対応している。

 打ち漏らしは少なくはあったが、これ以上の前進は難しい状態が続いていた。


「ルシア様!」


 解体課のロベルトと、調合課のレオノールが、大柄な冒険者を伴って壁上から手を振っている。

 驚いて片目だけで確認し、一緒に戦っていた冒険者に片手を振ってその場を任せ、壁の上に移動した。


「危ない。戻る」


 ついでとばかりに水を飲み、血にまみれた手や顔を拭きながらルシアは短く指示を出したが、


「壁向こうは拍子抜けするぐらい順調だぜ? ちったぁ休憩を取らないとと思ってな」


ロベルトが軽食の入った紙袋を投げ渡す。


「どうして? 戦闘職じゃ、ない」


 重さからボカディージョだろうまだほんのり暖かい紙袋を、眉根を寄せてルシアは受け取った。

 心配と困惑を感じとって、レオノールはふわりと笑う。


「調合課の力を思う存分見せつける機会ですもん。この状況なら魔獣の足止めなんて余裕ですよ! あ、落とし穴の魔獣も溶かして気化させるのでお任せください」


 ルシアは先日路地の入口に撒いていた赤い粉を思い出す。


「薬だけ頂戴」


「危ないからダメですよ。専門家に任せてもらわないと!」


 解体課のロベルトも笑っていた。


「魔獣は倒せないが解体は得意なんでな。新鮮素材取り放題で楽しみだ」


 むっと膨らませた頬をつつきながらレオノールが続ける。


「冒険者の皆さんに護衛されつつになるので、四人でようやくルシア様一人分ですけどね」


「集中力が切れるといい仕事はできないからな。ロラもぼちぼち休憩させてやりたいだろ?」


「まだ余裕」


 ロラは魔獣を足場に元気に飛び回っていた。

 説得失敗か、と苦笑いを浮かべる二人に、ルシアはふうっと息をはく。

 確かに疲弊しきってから休憩しては効率は悪いだろう。


「感謝」


 小さく呟いてその場に座り込む。

 結局、トニの姿はまだ見えていない。

 街道門の方でチラチラといくつもの明かりが揺れていた。


「街に被害は?」


 気が付けばその質問は酷く重く、不安なのだとルシアに自覚させる。


「全然ないですよ。領主邸に避難してる住人なんてむしろ楽しんでるらしいです。こっちこそ感謝ですよ!」


 冒険者に抱きかかえられながらレオノールが言った。


「それな。魔獣も精々十階層くらいまでのだしなぁ。最下層からデカ物が這いあがって来なけりゃ問題ないだろ」


 ロベルトは冒険者に肩を借りて言う。


「少しは働かせてもらうさ」


 レオノールを抱いた冒険者はそう言って壁から飛び降り、


「ゆっくりどーぞ! はい、せーの!」


肩を貸した冒険者はロベルトと壁を駆け下りて行った。

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