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養父に恋する冒険者ギルドの彼女、本日の業務も力業で解決!  作者: 弓軸月子


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44 アントニオは笑う


 アントニオは貿易商の息子である。

 世界各国に何番目か分からない母と兄弟がいて、アントニオもその一人だった。

 母が亡くなったのは一歳になったばかりの頃。

 身寄りもなく、助けを求める術もなく、餓死寸前のところで、貿易から戻った父親に救われた。

 産まれたばかりの子どもを連れて旅をしたくないと、残ったのは母親の選択で、不幸な事故だったと言える。

 引き取ると言ってくれる家もあったが、父親はアントニオを連れてその国を出た。

 以降、父親は死ぬまでその国は訪れていない。

 だから物心つく前から父親と二人、旅をする生活をしていた。

 点在する自宅の母たちに、短い期間預ける事もあったが、よく育てたものだと思う。

 歪ではあったが、ひどく平和な環境ではあった。

 たくさんの母親から読み書き計算や生活の術を教わった。

 たくさんの兄弟から人間関係を学んだ。

 たくさんの護衛で雇った冒険者から戦闘術を盗み覚えた。

 父親からはなんだか複雑な事を習ったと思う。

 ルシアに父親ってどんな人だったの? と尋ねられ、


「詐欺師みたいなもんだな、あれは」


そんな風に答えたのを覚えている。

 世界各国に自宅と女房子供がいる時点でお察しではあるが、とんでもない人たらしとも言えた。

 アントニオもルシアに言われたことがあるが、父親もまたなんでも拾う人間だったのだ。

 時折道端で拾う困っている人々は専門職の人が多かったと記憶している。

 そういう人たちとは、希望する国まで送り届けたり、立ち寄った先で職や家族を作って別れた。

 とにかく馬鹿みたいに世界各国に知り合いや家族がいて、出会う人はみなアントニオに親切だった。

 商売も上手かったが、稼ぎの殆どが世界各国の家族の生活費に消えるので、裕福でもない旅暮らし。

 望めば永住権も店舗も持てたとは思うが、それも望まなかった。


「王都の方から来ました」


(王都の方角からな)


「君を一番愛しているよ」


(この国ではな)


 胸中でそんな注釈を入れていたのは十三、四の頃だったか。


(嘘はつかない人だったんだよな)


 ただ平気で誤解を招く言い方をし、本当の事も言わない。

 なるほどなぁ、と漠然と理解していた十五歳。

 父親は眠ったまま起きてこなかった。

 老衰だった。

 それからアントニオが知る限りで母たちの元を訪ねては父の訃報を告げる旅をした。

 貿易商の取引先にも父の訃報を告げて回ったが、残念だと言われるばかりで、仕事には繋がらない。

 生活費の為に冒険者登録をし、旅先で細々と稼いだ。

 母たちからは生活費を強請られることもなく、ただ、またおいで、と言われるばかりだった。

 おかしいとは思ったが、気にしても仕方がない。

 時々冒険者を雇ったり、道端で人を拾ったりしながら、旅を続けていた。

 ちなみにルシアから言い寄られても全く反応しないアントニオであるが、別に病気というわけでもない。

 笑えない程度には女性関係もあった。

 が、みんな家族、が染みついてしまっていた。

 故に理解されない事も多かったし、しっくりこなかったというか、向いていなかったのだ。

 色々が無理だった。


 閑話休題。


 母の元を訪ねるついでに護衛依頼を請けたりする内に、気が付けば冒険者として成功していた。

 貿易商時代の名残で、その国の不足しがちな物資を把握していたのも大きかったと思う。


「ああ、そうか。貿易商の……」


 立ち寄ったギルドで、たまたま対応してくれたギルドマスターが冒険者タグを眺めながら、


「父親の仕事は継がないのか?」


と聞いてきた。

 貿易商の事ではないのだろうと、アントニオは気が付いていた。

 仕事を終わらせる時の父親の癖だと思っていたのだが、試すだけならいいだろう。

 タタタンと指で机を弾き、ニカリと笑って体を傾け、半分だけ背中を見せる。


「どうですかね。『飯か酒か女か流行りモノ』、なにかあります?」


「……そりゃ酒だろ。地酒のおすすめ書いてやるから飲んでみな」


 カリカリとなにかを書き付けた紙を渡された。

 どうやら貿易商の他に情報屋という仕事をしていたらしかった。

 一体どこから情報を仕入れているのかと、こっそり滞在先の母に聞いてみたら、


「それならあの子の管轄ね。手紙を出すから三日くらいで分かると思うわ」


とあっさり返ってきた。

 ああ、そういう事? とアントニオは思った。

 幸い情報を仕入れるだけで、直接なにかをするような仕事ではないらしい。

 世界各国の母たちも細々と仕事をしていると言う。


「生活費、ちょっと心配していたから、良かったよ」


 アントニオはなんだか情けない気持ちになった。


「そうなのよ。言えなかったけど。だからお母さんたちの事は気にしないで好きに生きなさいね。でも、またおいで」


 他の母と同じように、この国の母もそう言った。

 知る限りのすべての母に父の訃報は告げ終えていたので、


「じゃあ母さんたちのいない国に住もうかな」


今後のアントニオの話をした。

 仕事は継がない。

 生活のために仕事をする母たちへ、


「また来るけど」


時々情報を伝えに行くつもりもあるけれど、


「決まったら遊びに来てもいいよ。母さんでも息子でも娘でも誰でも」


情報のためにどこにも行けずに、ただ待つだけの生活を止めてもいい。


「一応、結構稼いでんだ、冒険者で」


 アントニオの顔は父親には似ていなかったけれど、ニカリと笑うと雰囲気がよく似ていて。

 父が亡くなってから初めて泣く母を見た。

 情報には知りたくない様な事柄も混じる。

 上手く調整をしていた詐欺師のような父親はもういないのだ。

 アントニオがオスコリダを襲撃した頃には、母たちの半分はいなかった。

 兄弟たちから伝え聞くに、急死や失踪ばかりだった。

 刺さった棘がずっと取れない、そんな日々を過ごしていたから、


「あの日は気分が良かったんだがな」


思い出してアントニオはニカリと笑う。

 ガリガリと音をたてて壁に顔面を押し当てて、そのまま地面に叩きつけた。

 悲鳴はいつまで上がっていただろうか?

 特に聞きたいとも思わないので、静かになったのは助かる。

 返り血か己の血かもわからないが、服は搾れる程度に血まみれだった。


「なぁ。お前らなんで俺の家族にちょっかいを出すんだ?」


 足元に転がってきた仲間であろう肉塊を踏みつけて男もニカリと笑う。


「家族が多すぎんのが悪ぃんだろ?」


 ボルソバ国の諜報部はすでに半壊だった。

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