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養父に恋する冒険者ギルドの彼女、本日の業務も力業で解決!  作者: 弓軸月子


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43 流れるままに


 それにしても大事な事は忘れるルシアである。

 ギルドの敷地を一歩出ようと足を持ち上げた途端、


「ビービービービー」

「っ……!」


ビクリと肩を震わせてルシアは足を敷地内に戻した。

 腕に装着していた犯罪者用逃亡防止魔道具が発動したのだ。

 勢いで追い抜いたトニが足を止めて振り返る。


「は? マジで? なんで解除してねぇの?」


 呆れかえった声だった。

 トニは腕輪こそ装着したままだが、機能は解除して発動しない状態にしている。

 そもそもルシアにも時間さえあれば解除する知識はあるのだ。

 そして時間もあった。

 ただ。


「忘れてた……」


 はぁ、とトニはため息を吐く。

 ルシアは同じく足を止めた処理部の面々に軽く手を振って、


「ごめんなさい。先に行って。街道門で対応お願い。すぐに追いかける」


少し恥ずかしそうに指示を出した。


「はーい」


 トニ以外がザっと音を立てて走り出す。

 処理部の職員は全員、馬車よりも自力で移動した方が早いのだ。

 出入りする冒険者の邪魔にならない様に端へ移動しましょうとトニを伺うと、


「あ、ヤベ」


そう呟くと同時に、


「ちょっとぉぉぉぉぉ! なんでトニさんは外に出れてるんですかぁぁぁぁぁ!」


犯罪者用逃亡防止魔道具を解除しに来た技術部の職員が叫んでいる。

 トニは職員が叫び終わらぬ内にポンとルシアの背を押してギルド内に押し込み、


「先、行ってる」


と文字通り飛び去った。


(押し付けられた……!)


「あ、ちょっと! トニさん!? 逃げられた! え? 腕輪外してました? 付けたまま機能だけ解除したんですか? ルシアさんには出来ない? 出来る? あ、忘れてたんですね! 対策しないといけないので方法が分かるなら教えて欲しいんですけど?」


 それどころではない状況なので、同時並行で腕輪を外してはいるが、質問がうるさい。

 ルシアは思わず首を振って返答していた。




***




 トン、と音にもならない軽い足取りでトニは人の家の屋根に着地する。

 住人たちが領主邸への避難を開始していたが、混乱もなく、穏やかな移動だった。

 街道門からは赤い煙が立ち上っている。

 第一トラップよりも大規模な落とし穴、第三トラップが発動したらしい。

 なにかが反射する光に片方の目を瞑り、偽造している意味もなくなった腕輪を外してポケットにねじ込んだ。


(嘘、にはならないか。意味が違うけど)


 先程ルシアに放った最後の言葉を思い出して薄く笑う。

 冒険者タグも首から外して同じポケットに収めると、そのままギルドの制服を脱いだ。

 街道門までの最短の道順ではないが、朝の運動には頻繁に通る道順。

 こんな時でなくともひと気のない場所は存在し、悪だくみにはもってこいなのだ。

 制服を投げて軒先に引っかけると、体を傾けて屋根を駆け下りる。

 建物と建物の間、今は無人となった店舗の裏は荷運びのために少しだけ道幅に余裕があった。

 ストンと地面に着地して、立ち上がって壁に寄りかかる。

 すぐに頭上をなにかが通過して影が差した。


「……お待たせ」


 顔を上げたトニは落ちてくる影にそんな言葉を投げかける。

 ぐしゃりと嫌な音を立てて、落ちて来た丸い盾に上から内臓を押し潰された。


「……」


 コポリと血を吐くばかりで、トニはもう喋れない。

 一人になればこうなる事は分かっていた。

 けれど。

 あまりに自然に訪れた状況に、トニは諦めたのだ。

 どこまでが嘘で、どこまでが本当だったのだろう。

 ギルドに来てから、意味もなくただ楽しかった事もあったはずだった。

 けれど。

 それすらも、自分を騙して作り上げた虚構に思えた。

 きっかけは、嫌だ、なんて感情の発露。

 大きな意味もなく、ただ、疲れたのだ。

 ああ、でも。

 と思う。


(モノのついでに、これで勘弁してくれませんかねって、一言いえりゃ良かったな)


 視界に入った神官服を着た女は、悲しそうに眉根を寄せていた。


「うん。これで、終わりだから」


 ルシアに似た声色だった。

 言葉足らずまで似せなくていいだろうに、と、トニは笑う。

 トルエバ国からか、ベイティアからか、あるいはルシアからかは分からないが、もう関わらない、そんな意味だろう。


(ギルマス、上手くやったんだな)


 そっと女の手がトニのまぶたを閉じた。


「おつかれさま?」


(声だけじゃなくて、本人が良かったな)


とトニは思う。

 それが最後だった。




***




 街道門の兵士は半数ほどを残して、住人の避難誘導に回っている。

 処理部のリタが兵士と打ち合わせを始めていた。


「ごめんなさい、お待たせしました」


 街道門に到着したルシアは、トニの不在に気が付いて、一秒だけ目を閉じた。

 考えても仕方がない。

 今はやるべき事をやるだけだ。


「リタ?」


「はい! 合同訓練通りで問題ないそうです。遠距離組は分離壁の上からですね。合流した冒険者を振り分けて三隊で対応します」


「ああ、ロブレス家から遠距離武器が届いていたな。分離壁の階段室に分散して配らせよう。中央塔に救護室と休憩所の準備も済んでいる。自由に使ってくれ」


「ありがとうございます」


「……それなら防衛組は中央塔を中心に扇状に配置だな。二級以下はどこまで上げる?」


「第四トラップ発動地点まででお願い。現状取りこぼしの魔獣は?」


「側方から少々。今は第三トラップが効いて静かですよ!」


「了解。ロラ、左からお願い。右から行くわ。リタ、一級か特級が来たら第二トラップまで真ん中でお願いしてくれる?」


「承知しました。ルシア様も第二トラップまでですか?」


「状況見てダメそうならダンジョンまで上がって入り口を塞ぐけど、だと、一時的でしょう?」


「だな。出して殲滅した方が解決は早い。オレも上がった方が良くないか?」


「ダメ。責任者は必要。一度対応中の冒険者は下げるから、再度振り分けて。……現状そちらの最前はどこですか?」


「第三トラップだ。冒険者と入れ替わりで第四トラップ地点まで下がっているかもしれないが」


「拡声の魔法を使える方はいますか?」


「居るが街道門からの一方通行で常時発動はできんぞ? なにかあるか?」


 ふと、ラウルって凄かったんだな、などとルシアは失礼な事を考えて首を振った。


「いえ。緊急連絡が可能なら安心して動けます。よろしくお願いします」


 ルシアは兵士の代表者に頭を下げてから、


「行きましょうか」


とロラの肩を叩く。


「ああ。そうだ、リタ。トニが来たらとにかく私の所まで来るように伝えて」


 期待はしていないが、言わずには走り出せなかった。

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