40 この後照れ隠しで態度が悪くなりました
ルシアとトニが深夜勤務を終えて引き継ぎを済ませると、ヨランダが待っていた。
新しい耳飾りを制作するために素材が欲しいと言う。
少しの間このギルドに住んでいたので、一人でもギルド内は理解しているが、その時は秘密裏に、だったのだ。
新しい従者がどこまで知っているのか、どこまで話して良いのか、まだ判断がつかないらしい。
調合課の倉庫へ向かいながらヨランダは口の動きだけでそう説明した。
「今日は、回復薬、作ると思ってた」
回復薬作りはヨランダにとっては趣味に近い。
これは隠してはおらず、聖女が滞在した先で回復薬を配ったり、販売している事も有名だ。
ギルドでも短期間でかなりの量を消費している。
作って貰えればありがたいとルシアは期待の目を向けた。
「か、回復薬は、お昼過ぎにブランカ様とレオン様の三人で一緒に作ろうとお約束しているのです。材料が大量に欲しかったので、ミゲル様にお願いして今、採りに行ってもらっていて。あ、勇者さまにどうかとも思ったのですよ? けれど、暇つぶしになるし、物々交換ならむしろ嬉しいとおっしゃったので」
ヨランダは幸せそうに微笑んで言うが、勇者が薬草集め、と後ろで従者が遠い目をしていた。
確かにとんだ勇者の無駄使いである。
当事者が嬉しいなら問題はないとルシアは特に気にならなかった。
それどころか、きっとどっさり作ってギルドの倉庫に置いてくれるのだろうと笑顔を浮かべている。
調合課に着いて、素材見せて、とルシアが声をかけると、レオノールが出てきてそのまま倉庫へ案内された。
「石の素材はそっちの棚。下から上に向かって魔力容量が上がって、左から右に向かって透明度が下がってる」
説明しながら上下左右で比較的見て分かりやすい石を取って見せる。
制作する魔道具の詳細を聞こうとして、扉の側に控えている従者に気が付いて言葉を変えた。
「装飾品なら似合う色が良いわよね。瞳の色と合わせるとか……この辺りはどう?」
棚の丁度中央から、少し透明度のある、紫と金とで模様になっている石を出す。
ヨランダの瞳の色によく似ていた。
「こ、こんな色の石があるんですね。魔石ですか?」
「うーん、ちょっとだけ珍しいかしら……。で、これは魔石で正解。円形のつるんとしてるのは全部魔石ね。この棚の天然石は全部無加工なのよ。加工したやつが見たければ作業室の方にあるわ」
この辺りが天然石ね、と、下の段にあった石を取り出して見せる。
魔石と比べれば魔力容量は圧倒的に低い。
魔道具の性能を考えると魔石の方が良い。
ヨランダはそれなら魔石にしたいと言いたかったが、従者を気にして微妙に頷くだけに止めた。
「……装飾品だろ? 宝石みたいな方がいいんじゃない? キラキラして」
助けを出したのはトニだった。
ひょいっと手近にあった緑色の魔石を手に、
「カラスが持ってくかもだけど」
と皮肉気に笑う。
耳飾りを使う時は緊急事態だ。また鳥を使うなら鳥が興味を持つ性質が良い。
それは従者に気付かれるかもしれないギリギリの手助けだった。
深夜勤務の一件でもう一段諦めたのか、吹っ切れたのか、茶化す雰囲気もなく、ただ黒い。
ヨランダは肩をすくめてふるふると耳を覆う。
「み、耳が千切れそうな事を言わないでください」
それを見てクスリとルシアが笑い、
「緑は似合わない。こっちの黄色はどう?」
さりげなく最上段の魔石を手に取った。
「は、派手過ぎませんか?」
金混じりでカラスにはウケがよさそうだけれど、とルシアが首を傾げると、
「そ、そっちの、」
ヨランダは手を伸ばしてジタジタしている。
どうやら目当ての魔石を発見したが、最上段で手が届かないらしい。
「これ?」
伸ばした手の先から予測して後ろからトニが取った。
そのまま後ろから抱きかかえる体勢でヨランダの目の前に見せる。
「です、です」
ヨランダは嬉しそうにトニを見上げた。
従者から目隠しになってくれたのだ。
相性もあるので軽く魔石に魔力を通してみる。悪くない。
「へぇ。地味、だけど……ルシアの目の色に近ぇな」
透明度の高い灰茶の魔石。
トニから見て丁度ルシアの目の高さに持ち上げた。
「そうでしょう! 離れてしまいますし、お守りにぴったりです! こちらを使わせていただいても!?」
興奮気にレオノールに顔を向けると、レオノールは顎が外れんばかりに大口を開けている。
「え? ダメな石でした?」
慌てるヨランダに、
「問題ない。外出許可が下りたらすぐに在庫を作りに行く」
ルシアが答えてレオノーレを見た。
じわじわと今度は口を閉じ始めている。
我関せずとトニはヨランダに魔石を握らせて呟いた。
「なんの魔石だったっけな……」
口を閉じたレオノールがトニを見る。
「知らない。解体課に聞く」
今度は答えるルシアに目を向けて、それから二度程視線を往復させた。
「っご……」
一度大きく口を開けて閉じ、それから、
「号外! 号外! トニが先輩呼びを止めてルシア呼びに!」
と叫びながら扉前の従者を押しのけて走り出て行った。
すぐに隣接した作業部屋から悲鳴や怒声が聞こえてくる。
やれやれとトニは従者の元へ行き、手を取って、大丈夫? と声をかけた。
急に異性に触れられて驚いたのか、従者はトニを見上げて頬を染めている。
あらあら、と笑っているヨランダの肩を引き寄せたルシアは、棚に備え付けてある引き出し式の机を引き出した。
はいはい、とヨランダが机に魔石を置くと同時、倉庫に職員たちがなだれ込んでくる。
「トニ! トニぃぃぃぃぃ!」
「ちょっと! 名前呼びって、どーゆー心境の変化?」
「貴様ごときがルシアさまを呼び捨てだと!?」
扉近くにいたトニはあっと言う間に職員たちに囲まれた。
手を取っていた従者と共に。
「なに、お前らついにそういう関係!?」
「トニ、取りあえず殴らせて!」
何故か大柄な勤務時間外職員がどんどん顔を見せる。
どうやらレオノールは寮を走り回っているらしい。
ヨランダは、従者の人大丈夫かなぁ、と思いつつこれ幸いと、見せたくなかった術式を魔石に編んだ。
念の為にとヨランダの手元に隠蔽魔法をかけつつルシアは思う。
(やっぱりいい人!)
従者の視界にヨランダが入らない様に、トニは職員たちの隙間を埋める様にさり気なく体を動かしていた。
「なにごと?」
「トニさん、マジで?」
通りすがりの職員と、追加の職員で隙間も完全に埋まったところで、
「っと」
ヨランダが魔石への作業が完了した。
ルシアに目配せしてから魔石を手に持ち、今度はヨランダが魔石に隠蔽魔法をかける。
ルシアは引き出した机を押し込んで片付けた。
それからタンタンと足音で終了の合図を出す。
すると倉庫の内側にいた現在勤務時間中の職員が声を上げた。
「やっべ。戻らないと殺される! 通して通して! そんでトニは後で話聞かせろよ?」
おっと、いけない、いけない、と、他の職員も適当にトニを押したり叩いたりしながらあっけなく解散して行った。
従者は職員の移動の波にのまれそうになって、トニが再度手を取っている。
「大丈夫? 誰も来ないトコ、行こっか?」
耳元で囁くので従者の顔は赤く染まった。
「それがいい。作業者以外立入禁止の試作室を借りてきて」
「了解」
さっと手を放して出て行ったトニの背を目で追い、従者の顔色は元に戻った。




