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養父に恋する冒険者ギルドの彼女、本日の業務も力業で解決!  作者: 弓軸月子


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04 過度な期待はしません


「素材はどうされますか?」


 神官服に聞かれてルシアは小さく首を振る。

 依頼にあった逆鱗は先ほど入手した。

 予備にもう一つ取ってもいいが、


「いやぁぁぁ! 魔石も逆鱗も真っ二つよぉぉぉ!」


納品には向かない状態の様だ。

 緑竜を確認している魔導士が緑竜の上で怒っている。

 覇気無し男がごめんねー、と気の抜けた声で謝った。


「不要。運べない。ギルド、魔石と逆鱗以外なら、皮、血液、爪、鱗の順番で喜ばれる」


 前半は神官服へ、後半は魔導士へ向けたルシアの返答に、


「お嬢さんの火魔法で内臓がイッてるから血液も駄目ですよぉぉぉ!」


と返って来る。

 戦闘中はソロ冒険者の気持ちなのでギルド職員の気持ちは薄いのだ。

 ばつが悪い。思わず覇気無し男を見れば目が合った。

 苦笑いを浮かべているので、同類なのかもと理解する。

 右へ倣えと聞いたばかりの言葉を反芻した。


「ごめんねー」


 気の抜けた声にはならずにただの棒読みになったが、ルシアなりに頑張ったと思う。

 ぶはっと豪快に噴き出した魔導士は、


「なら持てるだけ貰うわねぇぇぇ!」


と解体作業を開始した。

 どうやら収納の魔法が使えるらしく、スルスルと魔法で解体しては手元から消し去っていく。

 本来は隠しておくスキルだが彼女は気にもしなかった。

 やはり同ランクの冒険者だからか、あるいはギルド職員の守秘義務を信用してか、その両方か。

 ルシアは改めて自己紹介をした。


「素材、是非ベイティア支部に。私が居なければ、ルシア・マルティンの紹介で、大丈夫」


 ルシアね、と名前を復唱してから覇気無し男がズルっと首元から冒険者タグを引き抜いた。


「ぼくはミゲル。ランクは他の二人も一緒の特級ね。ベイティアなら寄る予定だから、報酬の半分は受け取ってよ。君が一人で倒せたのに横取りしたみたいになっちゃったし」


 肩をすくめつつ他の二人に向かってもいいよね? と声をかけた。

 作業の手は止めずに魔導士が、


「それはそうよぉぉぉ! アタシはブランカ・ペレテイロぉぉぉ! 贔屓にしてくれると嬉しいわぁぁぁ」


特になにもしていなかった神官服は、


「よいと思います。私は何もしていませんし。ラウル・ガルシア・フェルナンデスです。どうぞラウルとお呼びください」


と頭を下げた。

 なんだか落ち着いて雑談の雰囲気になってしまったが、ルシアにはあまり時間がない。


「うん。ギルドで会ったら、よろしく。そろそろ行く」


 切り上げようと向かう方向を指で差した。


「あっちなら中級ダンジョン? ああ、依頼中だよね? そもそも休憩中だったんだっけ? 引き留めて悪かったよ」


「こちらこそ。そうだ、パーティー名」


 顔は覚えたが名前は忘れるかもしれない。パーティ―名なら分かりやすいはずだ。

 ルシアは歩き出そうとした足を止めて聞く。


「あー、いや、特にないんだけど……」


 歯切れの悪い返事に、ルシアは首を傾げてミゲルの顔を覗き込んだ。

 臨時パーティ―にしては息が合っていると感じるし、登録しているならばパーティ―名は必須なのだ。

 緑の瞳があからさまに逸らされる。


「うん。……勇者パーティ―って事になってるんじゃないかな?」


(勇者?)


 確か半年程前だったかとルシアは回想する。




 急にギルド総会が入り、アントニオが隣国まで出かけて行ったのだ。

 ルシアは護衛として同行を申し出たが即却下。

 大変遺憾だったので、それはもう不機嫌になったが、


「急だからな。ルシアがギルドに居てくれるから安心して出かけられるんだ」


などとポンポンと頭に手を置き、ダメ押しに、


「任せていいか?」


と囁かれ、気が付いたら、任されているから! と鼻息も荒く張り切っていた。

 大変有効な手段だった。

 しかも実際の予定を伝えると期間が延びた時に不機嫌になるのも対策済み。

 アントニオは予定通り、つまりはルシアにとっては予定よりも早く帰還した。

 だからとても機嫌よくその日の報告会に参加したのだ。


「エルナン国に勇者が出たらしい」


 そんな報告から始まった。


「え? 勇者ですか? じゃあ魔王とかいるんですか?」


 驚いて声を上げたのは営業部のマリアである。

 副ギルドマスターのフランシスコが笑いながら答えた。


「百年程前には存在していましたが、今はいませんよ」


 百年前に存在していた魔王は普通の人間である。

 魔獣の研究をしていた魔王は、使役した魔獣で世界を征服しようとしたのだ。

 当時の聖女と勇者により捕獲後に処刑されている。


「その変わり魔王城と呼ばれているダンジョンは世界各国に点在してますよ」


 マリアの隣に座っていた職員が補足した。

 理屈は解明されていないが、魔獣が湧くダンジョンが存在するのだ。

 そして五年から十年の間に一度、増えすぎた魔獣が溢れ出す。

 スタンピードと言われる現象だ。

 被害は甚大で、いつからか人々の間で魔王城と呼ばれ始めている。


「今回の勇者はその魔王城の攻略がメインらしい。溢れ出さねぇ内に魔獣の間引きだな。それから魔獣がどうやって湧くのかの調査。ウチの国もスタンピードは七年前だろう? 聖女が立ち寄った街だからなのか、たまたまか、まぁ、いつ起きても不思議じゃねぇって話だな。来てくれるっつーならありがてぇ」


 アントニオはトントンと机を叩く。


「なんにしろ虫の知らせもあんだろ。緊急対応マニュアルは各部署で見直してくれ」


 それから勇者が現れた場合の対応や、現在の魔獣の数や強さなどの情報交換をしてその日の会議は終わった。




 回想終了。


(来てくれるならありがたいって、アントニオが言ってた)


 話を詰めてしまおうと、ルシアはギルド職員状態に切り替える。


「大変失礼しました。ギルド本部より聞いています。現在ギルドマスターは不在ですが、明日の昼に戻る予定です。夕刻にお越し頂くか、以降五日程は外出の予定はありません」


 ミゲルは一度驚いた顔をしてから苦笑いを浮かべた。


「言うと対応変わるの残念なんだよねぇ」


 ルシアは一秒ほどミゲルを見つめてからふん、と鼻で笑う。


「変わってない。ただの建前。本心じゃない」


 は? とミゲルが苛立って顔をしかめた。


「ギルド職員をされているのですから当然の対応です。お仕事ですから、個人的な気分で対応はしませんよ」


 ラウルが穏やかに諭している。

 教育係やお目付け役なのかもしれない。


「ルシアさんの個人的なお気持ちも伺いたいとは思いますが」


 だとすればこれは牽制か、とルシアは考える。

 神官服は冒険者装束ではなく本職の物。

 取り繕っても意味はない。

 勇者を都合よく使いたいわけではない、それだけ伝わればいいだろう。


「ウチのアントニオ(ギルドマスター)の役にたってほしいだけ。そして私が褒められたい……!」


 ぽっと頬を染めたルシアに、


「ぶっちゃけすぎじゃない!?」


と、ミゲルは思わず叫んでいた。

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