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養父に恋する冒険者ギルドの彼女、本日の業務も力業で解決!  作者: 弓軸月子


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37 終わっていなかったのか、始まったのか


「目を合わせたら終わりよ!」


 ブランカのそんな注意を聞きつつ、一行はまだ落ち着かないラギア国を逃げるように発った。

 もっともトニが殺気を巻き散らしていたので、一般職員の方から目を合わせるのも困難だっただろう。

 都合が良かったので誰もトニを止めなかった。

 ルフ便に乗り込むまではラウル以外はほぼ無言で通り過ぎ、扉が閉まると同時に、

 

「あー、緊張した!」


と伸びをして各々体勢を崩す。


「ほら、最後、ロケランの話になったじゃない? アタシだったのかウシュエさんだったのか、いつの話か混乱して黙ってたのよー。気詰まりだったわぁ」


「ロケランでは再現不可能な攻撃をしてましたから……」


「あー、それぼくも思ったぁ。途中で曲げちゃあダメだよねぇ」


「あ、あの、冒険者の方々のお噂を耳にしましたけれど、どういった道具なのですか?」


 勇者一行の変わりない雑談にはヨランダが参加し、一見和やかな雰囲気だ。

 しかしトニだけは口を開かず、常の軽口をはさむ事もしなかった。

 ルシアも、話を振れば返事をするが、肯定するか否定するか程度。

 行きとは違い、今は真昼間で眠気もない。

 真っ先に空気に耐えられなくなったのはミゲルだった。


「ねぇぇぇぇぇぇ。到着までこのままとかさすがにキツくなぁぁぁぁい? 仲良くとまでは言わないけど、トニはその殺気なんとかなんないの?」


 トニは無言でミゲルを数秒見つめた後、すっとミゲルの後方へ指を向ける。


「え?」


「はい?」


「ん?」


「なんですか?」


 指の先を見ても当たり前に壁である。


「なんな……」


 ミゲルがトニに視線を戻すと、そこにはもうトニの姿はなかった。

 ルフ便の中、密室であるにも関わらず。

 聞くまでもなく、気配を消して隠蔽魔法をかけ、ちょっとその場から移動しただけ、だとは思う。

 が。


「そこまでする!?」


 そっとしておいてくれとかなにか言えばいいだけの話なのに、と、ミゲルにとっては驚きの行動だった。


「ちょ、ルシアさん!? いいのこれで? なんとかしないの?」


 ルシアはルシアで気配こそ消していなかったが、ほとんど、無の状態。

 ミゲルの言葉にゆっくりと視線を合わせ、


「やっぱり殺しておけば良かった」


と呟いた。


「は?」


 ミゲルはルシアの発言に驚き、


「と、思わせたいと、思っていると、思ったら、腹が立って」


そう続いたルシアの言葉に、


「全然わからない!」


と絶叫した。


「アタシはなんとなく解るわね」


「どちらも互いの事を思ってでしょう」


「ト、トニは元々そういう人なので」


 分からないのはミゲルだけらしい。

 ミゲルは眉根を寄せて、うーっと天井を睨み、


「トニのバーカバーカ!」


勇者さま渾身の煽り文句を口にした。

 語彙力がなさすぎる。


「アンタが気まずくしてどーすんのよ!」


 静まり返る前にブランカがぺしりとミゲルの肩を叩き、


「意外と悪口を言い辛い性格と見た目なのよねぇ。普通に性格破綻者だとは思うけれど」


とラウルを見た。


「ああ、腹黒下っ端の役割を崩しませんよね。ただ、確かに魔獣の倒し方は猟奇的で……」


 ラウルは、怖かったでしょう、とヨランダを見る。


「い、いえ、その、気を遣ってああいった態度になると思うので、実はそんなに腹黒くはないと思います」


「あーね。腹黒さ自体演出的な? でもなぁ。素直に優しいトニとか想像がつかない」


「誰も見ていなところだと転んだ子どもを助け起こすとか?」


「誰か見ていると、あ、泣く? 泣く? 泣いた(爆)! といった感じですよね」


「み、見守っているんだと思いますよ? 本当に手助けが必要なら手を貸すのではないかと……!」


「そうかなぁ? 今も不貞腐れてふざけんなって殴ろうとしてそうじゃない?」


「勘弁して? ってニヤニヤ笑っている気もするのだけれど……」


 多分トニにとって地獄だと思われる内容で話は盛り上がった。

 が。

 それはトニが話を聞いていればの話。


(まぁそうでしょうね)


 陽炎の様に見えたり消えたりしながら、なんとか視認したルシアはため息を吐く。

 トニは耳栓をして腕を組み、壁に寄りかかって目を瞑っていた。




***




 昼にはボルソバ国へ到着したが、冒険者ギルドで一泊する事になった。

 国が一つ無くなるかもしれない騒動だ。関係者をそのまま通過させてはくれないらしい。

 ルシアとしては勇者一行に押し付けて帰りたいが、ウシュエとして行動している以上なにもできなかった。

 外出するにも護衛が居なければならず、少なくとも買い物ができる時間まで誰かの手が空く事もないのだろう。

 一晩の事なので我慢してくださいね、と案内係のギルド職員に部屋へ通されてしまった。

 明日の出発まで部屋に籠っていろという事だ。

 勇者一行の随行者兼ギルド職員としてトニも駆り出されている。

 仕方がなく全員分の洗濯や武器・防具の手入れをして過ごす。

 夕食時にブランカだけは連れが心配だからと無理矢理抜けてきた。

 明日の予定も伝えなければならないから、と聞いてルシアは唇を尖らせる。

 翌日は朝に出発出来るらしいが、ギルドの馬車で移動すると言うのだ。

 超高速移動で半日で帰還してアントニオに抱き着きたかったが、それは叶わないらしい。

 国境まで移動し、トルエバ国側で巡回の馬車に乗り換え、途中の冒険者ギルドでまた一泊。

 トルエバ国に入ってしまえばルシアに戻れる、とも考えたが、今のルシアは引き籠りの研究者とは言え腐っても侯爵令嬢である。

 ラウルのきっちりかっちりしっかりした手配は、通過するギルドに強行日程は許さないと結論付けさせたのだ。

 冷静に考えてみれば早く帰りたいのはルシアの気持ちだけで、急ぐ理由もない。

 トニに至っては帰りたくないまであるのか、途中のギルドに届ける書簡等も預かっていて、ブランカも苦笑いだった。

 内心はどうあれ帰路は穏やかに進む。

 十分すぎる休憩時間には聖女主導で回復薬の材料を摘み、襲ってきた魔獣は勇者が素早く察知して対応。

 トニは空気に徹していたので気まずさも薄く、天気も良かった。

 穏やかであるほど、落ち着かない。

 ルシアの人生でこんな時間が長く続いたためしはないのだ。

 意識の外でガンガンと警鐘が鳴り響いている。

 そんな予感を認識しないまま、ベイティア支部に無事到着した。

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