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31 一回撃たせては貰えないだろうか? byラウル


 ロケラン、とはマリアが言い出した言葉で、それ自体が省略された言葉らしい。

 携帯式無反動発破装置になると思うのだけれど、と説明された言葉の方がルシアには分かりやすかった。

 原案マリア、研究・試作・改良ウシュエ。

 完成した時には、姿だけロケラン……、とマリアが膝から崩れ落ちていたが、本当はどんな物なのだろう? そんな事を思い出しながら、ルシアはブランカが構えたロケランの上部に三ヵ所ある蓋を開ける。

 前方に石を装填し、中央部に火属性の魔石を装填、後方に風属性の魔石を装填しようとして手を止めた。


「きょ、距離は? それから、方向を、教えていただけますか?」


 口調はおずおずと、しかし声量はそれなりに、ルシアはラウルに訊ねる。

 下に居る冒険者たちに聞こえるかもしれないなら、先に聞かせておけばいいのだ。

 ここに残るのは魔道具師のウシュエで、冒険者でも勇者の一員でも、誰かの従者でもない。

 ラウルは一瞬驚いたが、ルシアの意図に気が付いてすぐに回答する。


「距離は一キロ強。方向は塀を背に水晶岩を見てください。時計と一緒です。左手を十一時、右手が五時です。一時方向と四時方向にお願いします」


 物を教えるのが上手だな、とルシアは思う。

 これで意味が分かっていなかった冒険者にも共通認識が出来ただろう。

 ミゲルが動きやすくなる。


(あ、ひょっとしてミゲルも分かっていなかったのかも)


 思いついて少しだけ口角が上がった。

 こんな状況ではあるけれど、頭の中は平常通り。


「風の魔石一つでおよそ三百……四つ、使います」


 魔石の個数で射程距離を確定させ、ルシアはブランカの手の上に自身の手を重ねる。

 ブランカは二つある持ち手を両方握り、肩に筒を乗せていた。

 硬化させた素材ではあるが、重さはそれ程でもない。

 安全装置を外し、前方にある持ち手を手前に引けば発射する簡単構造だ。

 風魔法が筒の前後に噴射され、火属性の魔法が前方の石に付与されながら射出される。

 前後に噴射された風魔法によって反動が相殺され、その反動は極わずかだ。

 魔法であればそもそも反動はないが、魔道具としては画期的な考え方である。


「発動から目標発破まで約十一秒。カウントお願いします」


 ラウルを見上げてルシアが言うと、ラウルは頷いて指示を出した。


「一時方向、十五秒後に発破。退避急げ! 一、ニ、三、四、」


 四の数字を聞いて持ち手を引けば、


「ボッ」


とそれなりの音を立てて石が飛んでいく。

 ブランカはそのままの体勢で目を見開き、飛び立った石の軌道を確認する。

 魔法より速度は落ちるが、発動のタイミングをずらせば問題なさそうだ。

 発射音もラウルに頼めば誤魔化せる、が、肝心なのは威力。


「――、十五」


 十五秒のカウントから一拍置いて、


「……ッドォォォォォ」


と発破音が響く。

 一拍遅れたのは距離のせいと、発破音が激しいのは木々や国境線の柵や岩などを粉砕したからだろうか。


「イイ感じに崩れたっすよ! 魔獣も結構死んでるんで、しばらく大丈夫そっす!」


 身体強化で視力を上げていたトニが声を上げた直後、


「ドドドドドドッ」


と地鳴りがして、一時方向の木々が数本なぎ倒された。

 ミゲルだ。

 ある程度片が付き、一度合流するつもりなのか、走りながら手を振っている。


「一時方向周辺の皆さまは後退しながら取りこぼしの魔獣対応をお願いします。四時方向の皆さまは退避準備をお願いします」


 ブランカが石を装填し、ルシアが今度は距離だけを確認した。


「距離は一.五キロ強、四時方向です」


 火属性の魔石は消耗していなかったが、風属性の魔石は二つは消耗してひびが入っている。

 それらを取り出して新たに四つの魔石を入れ、ブランカと目を合わせた。

 問題ないわ、とブランカは笑顔だけで返す。

 使い方も、魔法に切り替えても、上手くやれそうだ。

 ラウルのカウントに合わせて二度目の発動を見届けてから立ち上がった。

 遠見台の下には冒険者が数人集まってきた気配がある。

 後に繋がるリスクは少ない方が良い。

 ルシアはそろそろカサス国に入ろうと、トニへ合図を送り、再び幻影魔法をかけて水晶岩へ目を向けた。


「ル……じゃなくて、ブ……だとややこしいな、じゃあ、ト……そもそも名前言わない方が良いのか?」


 時々木をなぎ倒しながら向かって来ていたミゲルの声が小さく聞こえ、ルシアは声の方へ顔を向ける。

 遠見台からでもミゲルの姿が確認できた。


(どうしてこの距離で声が?)


 首を傾げつつ片手を上げてみる。


「あ、気付いた。良かった。そろそろだよねぇ? 方向どっち?」


 相変わらず呑気な口調だった。


「えー。なんで聞こえんだろ。謎過ぎ。勇者こわぁ」


 ケラケラと笑いながらトニが水晶岩の方を指差すと、


「わかったぁ。じゃあ投げるから乗って行きなよ~」


とミゲルは両手を大きく振り、すぐ傍らに生えていた木を、持っていた普通の剣で切り倒し、


「ほいっと」


と剣の背で高く高く弾き飛ばす。


「へぁ?」


 間抜けな声を出すトニの服を掴んで、ルシアは笑った。


「ありがとう」


 トッと軽い音で遠見台から跳躍し、飛んで来た木にトニを放り投げてから、ルシアも飛び乗る。

 そのままルシアが出せる最大出力の風魔法を放てば、木は速度を上げて水晶岩に向かって飛翔した。


「いってらっしゃーい」


 食事に誘われて後で合流しますと一時的に分かれる程度の軽さで。

 ルシアとトニはカサス国へと別行動を開始した。




***




 その頃アントニオは執務室で教会からの使者とだけ名乗った女と対峙していた。

 出発前にラウルが提出した報告書への返事だろうと、従者のレオンを呼びに出ようとした職員を昏倒させ、


「既知の事象。要黙認。以上」


と告げてクスクスと笑っている。


「意味がわからんな。一つだけいいか?」


 怒気を含んだアントニオの声に、女は変わらず笑う。


「お前さんの本当の依頼内容は?」


 聞かれた女は昏倒させた職員を燃やしながらなおも笑っていた。

 それを幻影と判断してアントニオは動かない。


「国落とし、よ」


 ぐにゃりと空間が歪み、女の姿が消える。

 笑い声だけはクスクスと止まらずアントニオの頭に響いていた。

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