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30 ラギア国側の防衛拠点


 一同はギルド職員の先導で国境へと走った。

 素性を誤魔化すためにブランカはトニが背負っている。

 本来は街と森を区切る塀で出入国審査が行われているが、今はそれどころではない。

 冒険者タグを見せて審査なく駆け抜けた。

 この塀が最終防衛ラインなのだろう、国の衛兵らしき人々が塀の上に武器を運び込んでいる。

 塀の門から国境と定めた場所まではおよそ五キロ。

 本当の国境は金網で区切っただけの簡単な物で、壊れたり、柵が欠損している部分もあるらしい。

 密入国は容易だが発覚した場合の罰則は両国ともにそれなりだと職員は説明していた。

 トニとルシアが密入国をするのは確定事項だったからだ。

 出来れば捕縛される前に逃げて欲しい、説明にはそんな希望も透けて見えた。

 森の中は魔獣の咆哮や木々の騒めき、地鳴りや爆発音がそこかしこから聞こえてくる。

 それ程騒ぐほどでもない、それでも確実に削られてしまう、現場はそんな有様だ。

 冒険者たちは木の上の代表者から指示を受けては、右へ左へと休みなく走って戦っている。

 皆が皆、強いから冒険者になったわけではない。

 一撃で倒せる冒険者は一握りだ。

 戦闘が長引けば疲弊し、負傷する。

 後衛部隊を配備する程に人員はなく、問題のある冒険者は自力で後退しなければならない状態だった。

 国境まで一キロ程を残してラウルが立ち止まる。


「止まってください」


 言うが早いか、トン、と杖で地面を叩いた。


「ボッフェロ」


 広範囲に声を伝える魔法で、発動した証拠に一瞬だけ空気が震える。

 腹の底からハキハキと、


「冒険者の皆さま、お疲れさまです。遠見台とその周りに障壁を作ります。援護しますので後退するか障壁内に入って休憩してください」


ラウルが告げると、ミゲルがそっとギルド職員の腕を引いて歩き出した。

 ついでにトニの背をラウルへ向かってトンと押す。

 近づいておいた方がよいのだろう。

 ルシアもトニに続いてラウルの方へ歩を進めた。

 ミゲルが術式の範囲外に出て、ルシアたちが術式の範囲内に入る。

 それを目視確認して、ラウルは再びトンと杖で地面を叩いた。


「バレェラッ」


 ラウルを中心に光の円が広がりやがて上へ上へと延びる。


「三人ともこちらへ」


 それから小さくルシアたちを呼び寄せ、すぐ近くに生えている木に手の平を押し当てた。


「ロッサルボレスクレセネンフォルマデスピラル」


 呪文にしては長い。

 それはもはや魔法ではなく願い事だ。

 ラウルが触れていた木は、まるで螺旋階段の様にぐるぐると周辺の木に巻き付き始める。

 三本の木を巻き込んで上へ上へと伸びて行き、それに続く様にラウルは登り始めた。


「水晶岩に巻き付いた木と一緒っすね。ツタみてぇだ……」


 ブランカを背負ったままなので、足元を確認しながらトニも後を追う。

 広範囲に声を伝える魔法がまだ生きているからか、ラウルが一度口元を押さえてトニの顔を見た。


『神官が習う魔法なんです。習うんですよ、神殿で』


 声には出さずに口だけを動かしてもトニには正しく伝わる。


『ならあの水晶岩の上に聖女がいるんじゃねぇの?』


 移動しながらでは難しいが、正面から顔を見て話せばラウルにもそれは可能だった。


『護衛の神官の可能性もあります。ただ水晶岩の方は聖女様でしょうね。こちらは燃えたら終わりですけれど』


 コツコツと、足元から続いてぐるりと一周し、頭近くを通り過ぎた木を叩く。

 三本の木をひとまとめにした樹頭へはもう少しで到達する。

 ルシアはまだ登らずにミゲルを目で追っていた。

 ミゲルは塀の方を向いており、その背に職員を隠す様に立ってる。


「塀に向かって弾き飛ばして?」


 いつも通りどうでも良さそうな声が直接耳に届く。

 ラウルの魔法とは別の、魔力を帯びたその声は冒険者を従わせる説得力を持っている。

 一呼吸後に、ミゲルの向かって左側から四足歩行の黒い魔獣が転がり出た。

 右側からは若い冒険者が飛び出してきて、その後ろを同じく四足歩行の魔獣が追っている。

 ミゲルは剣に手をかけて待つ。

 若い冒険者が剣の軌道から外れた瞬間。


「っぃよいしょっと」


 なにか声をかけてくれないとびっくりするからと言われ、仕方なく出している掛け声で剣を振った。

 右と左、斜めに二度振った剣は魔獣に止めを刺し、そして塀へ向かって木も切り倒す。

 近くにいた冒険者に被害はない。

 気にもかけずただチラリとルシアを確認したミゲルは、


「ぼくちょっとぐるっと一回りするから、帰るか休憩するかしてくれる?」


と少々不機嫌に職員に告げ、返事を待たずにルシアへ向かって走り出した。

 ミゲルはルシアの前を通り過ぎたが、目は合えどお互いなにも言葉は交わさない。

 かけたい言葉もかけるべき言葉も決まっているのだ。

 わざわざ口に出す必要もない。

 否。一言で言い表せないからかもしれない。

 ルシアは木々で見え隠れするミゲルの姿から視線を逸らし、ラウルが魔法で作った遠見台を見上げる。

 もうそろそろ完成だろうか。

 ぐるぐると螺旋を登ると目が回りそうだ。


(きっと風魔法でも使っている様に見えるはず)


 グッと足に力をこめて飛び上がり、足場になる部分を見つけては蹴って、跳躍する。

 あっと言う間にラウルたちを追い越して、樹頭に立った。

 螺旋状に伸びていた木は、巻き付く木を失ってからはまっすぐに伸び、辺り一帯の中で一番高い木になっている。

 枝葉が邪魔をして下からはなにも見えないだろう。

 幻術の魔法を解除してため息を零す。

 魔力量はそれ程多くはないのだ。

 回復薬を飲みながら、水晶岩を眺める。


(探す手間は省けたけど……)


 中に聖女が居るのだと、ルシアは確信していた。

 ただ、どうしてそんな事になったのかまでは分からない。


(向こうからの連絡は途絶えているのだから、連絡は出来ないし、こちらからも声は通らない、かな)


 トルエバ国と気温は変わらないが、風は少し冷たい。

 森のあちこちで木は不自然に揺れ、煙が立っている所もある。

 ミゲルは宣言通りぐるっと一回り中なのだろう、時々木が塀の方向に倒れるので上から見ると分かりやすかった。

 一段下の枝まで追いついたトニがルシアに声をかける。


「足場を作……もう出来たっす」


 ブランカも幻術を解いて、収納魔法からイカダの様な物を取り出して設置したらしい。


「冒険者の皆さま、お疲れさまです。一時方向と四時方向に魔獣進路あり。一度塞ぎます。下がってください」


 ラウルの隣に座ったブランカは、それはそれは嬉しそうにロケランを構えていた。

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