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養父に恋する冒険者ギルドの彼女、本日の業務も力業で解決!  作者: 弓軸月子


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03 副業中でもギルド職員です


 ルシアは特級ランクの冒険者だ。

 最上級ランクで、他の特級冒険者と同じくその能力は秘匿されている。

 ルシアの場合は逆の意味でその秘匿が働いていた。

 例えば転移魔法が使える、と思われているが、実はそんな魔法は使えない。

 水魔法で水蒸気を発生させながら自身に隠蔽魔法をかけ、身体強化で高速移動を開始しているだけである。

 腕力や体力は通常の冒険者と大差はない。

 魔力量と技術と財力のゴリ押しなのだ。

 街道へ続く門まで屋根や屋上を走り、着地点に水魔法を展開。

 アントニオからは演出か? と聞かれたが、単純に着地点に人がいると危ないからに他ならない。

 重力操作で着地の衝撃を最小限に抑えつつ着地すれば、心得たとばかりに門兵が出迎えてくれた。


「ルシアさん! お疲れさまです! 厄介事ですか?!」


 素通りも可能なのだが、なにかあった時には面倒だ。

 門は必ず徒歩で通過する。


「いいえ。普通に」


 本当に急ぎでも厄介事でもない。ただの不人気依頼の消化だ。

 確認されないと分かりながらも冒険者タグを見せつつ門を出て、またすぐに水魔法からの隠蔽、身体強化。

 今回は明日の昼までの制限付きである。

 トニがルシアが回りやすい順番で依頼票を並べ替えている。

 そのまま依頼通りに消化すればいいだろう。

 依頼順は最初の目的地が一番遠く、そこから戻ってくる流れだ。


「楽勝」


 声に出して呟くのは自分の脳を勘違いさせるための呪文だ。

 魔力が尽きるまで高速で移動し、聖女の回復薬と呼ばれる最上級回復薬を飲む。

 高価だが四肢欠損や瀕死状態にも有効な優れ物。

 必然と魔獣との闘いは雑も雑になる。

 腕の一本や二本、飛んでも構わない。

 リバーシブルに改造したギルド制服兼冒険者コートも復活すればよいのだけれど、と思う。

 面倒だから定期的に大量発注をかけてはいるが、はたして残り何着だったか。


(発注しないと)


 緑竜が食いちぎった右腕を見て一瞬、そんな事を考えた。

 左手で逆手に握ったマチェットに火魔法を付与し、眼球に突き立てる。

 ビリビリと空気を揺らす咆哮に顔をしかめつつ、依頼に出ていた逆鱗をえぐり取った。

 燃える緑竜の横、休憩を兼ねて回復薬を飲みながら依頼票を再確認する。

 たまたま遭遇した依頼もこなしたから、順番が入れ替わっていた。

 明るい内に岩山で薬草と、バジリスクの卵の両方が入手出来たのは大きい。

 荷物が嵩張るので小さな集落を見つけて預けてきた。

 引き取りの工程も組み込まないといけない。

 一番面倒なダンジョンは日が落ちてからと思っていたけれど、このまま潜った方がいいだろう。

 そろそろ移動をと、腰を浮かせたところで人の気配に気が付いた。

 スッと気配を消して隠蔽魔法を発動する。

 先ほどの戦闘で地面は土がむき出しになっていた。

 移動は悪手と判断してルシアは息を殺す。


「……んん、人がいると思ったんだけどなぁ?」


 見覚えのない顔だった。別のギルドの冒険者か。

 ぼんやりとした、覇気のない印象の男。


「いや、アンタが言うならいるんでしょうよ。ちょっと退いて」


 後ろから魔導士らしき女が続く。

 発言から男の能力を信頼しているのが窺えた。

 斥侯が専門というには帯剣が三本、装備的には攻撃職だけれど、とルシアは思う。

 その間にも女が隠蔽効果無効でもかける気か、杖を持ち上げて詠唱に入りそうだった。

 魔法勝負なら負ける気はしないが、変に戦闘になっても面倒だ。

 ルシアはさっと隠蔽を解くと、冒険者タグを見せながら手を振る。


「いる。休憩中」


 二人がやっぱりとこちらを見て、その後ろからもう一人、神官服の男が顔を覗かせた。


「こんな所までソロで……ああ、特級の方なんですね。緑竜もお一人で?」


 焦げて色など分からないだろうに、神官服の男が一見穏やかに話しかけてくる。

 警戒されているのだ。

 ルシアは頷いてからコートの肩口をひっくり返し、刺繍されたギルドマークを見せる。


「そう。不人気依頼の消化」


 理解した三人はすぐに緊張を解いた。


「腕、食われちゃった?」


 右の二の腕半分から下には布がなく、むき出しの白い肌だ。

 覇気のない男はへにゃりと眉を下げて心配そうに言う。

 すでに腕は治っているのだから心配されたのは謎だった。

 ルシアは少し考えて、納得のいく思考に思い至る。


「食われてない。食わせた」


 ソロで不手際からのケガなど笑えない。

 そういう事だろう。それなら分かる。


「えー、ダメだよ? そーゆーの」


 困った顔で思いもよらない返答がきた。

 ダメと言われてもルシアこそ困る。


「最短、確実」


「でも痛くない? あ、痛覚ぶっ壊れてる人?」


「普通に痛い」


「じゃあ、確実じゃなくない?」


「回復薬ありき」


「痛みで気絶とかしたらどうするの?」


「しない」


「言い切っちゃうんだー」


 実際、頭の攻撃でもなければルシアが意識を失う事はない。

 しばらく見つめ合ったが、男の方が諦めた。


「でもまぁ、気を付けなよ? 顔知ったからには心配する。あの子は元気でやってるかなって、たまに、ね?」


(……変な人)


 それ以上でも以下でもない感想だった。

 その時、四人一斉に気が付いた。

 燃えた緑竜の匂いのせいだろう、先程よりも一回り大きな緑竜が近付いている。

 ルシアと同じタイミングで三人が空を見上げたのは想定外だった。

 考えてもみなかったが、彼らも同ランクか近しい実力なのだろう。

 ルシアはすっと息を吸いこんで身体強化と重力制御を同時に発動し、


「肩」


とだけ告げ、トッと地面を蹴って目の前の男の肩に足をかけ、くるりと回転して飛び上がる。

 男があまりの質量のなさに一瞬驚いてから手を伸ばしたが、ルシアの体は遥か上空へ飛び上がっていた。

 ザザっと木々が揺れる。

 風魔法も同時発動しているのだろう、魔導士が息をのむ。

 三つ同時発動だけでも難しいのに、無詠唱だ。

 風に乗ったルシアは緑竜の眼前に出る。

 緑竜が大きく口を開けた。

 開いた口にためらいなく右手を伸ばし、そのまま全力で炎魔法を放つ。

 ゴォっと後方に吹き飛んだ緑竜が落ちた。

 まだ止めは刺せていない。


「あー、オッケーオッケー、そのままゆっくり降りといで」


 地上からのんびりと男が言う。

 声を張り上げた風でもないのにしっかりと耳に届いた。

 男がゆらりと剣を抜けば、覇気がないと思っていたのに、視認できるまで覇気が立ち上っている。

 とにかく猛烈に嫌な予感がした。

 ルシアが剣の軌道から逸れた瞬間。


「ごめーんねっと!」


 気の抜けた掛け声で一閃。

 空中でずるりと分割された竜とルシアが地面に到達したのはほぼ同時だった。

 どんっと地面が揺れる重さ。

 反射的に、不機嫌に、ルシアは言い放つ。


「巻き込まれ事故、あったかも」


「いやいや、ご謙遜を。ないでしょ、そんなん」


 男はブンっと剣をひと振りして鞘に納めた。

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