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11 能力


 早急に引き抜く理由は無くなれど、戦力は申し分ない。

 改めて着席し、ラウルはルシアへ勇者パーティ―への参加を打診した。


「しない」


 ルシアは簡潔に三文字で断り、それからじっと勇者一行を見て、


「三人で問題ない。過剰戦力」


と告げる。

 従者を入れて四人、なにかが背中を這った様な、そんな奇妙な感覚を覚えた。

 鑑定魔法を使われたのだと、ブランカだけが理解して腕をさすっている。

 ミゲルがなにか言い返そうと口を開きかけた時には、ルシアはすでに席を立ってアントニオの方を見ていた。


「ギルド内、心配。ホセの代わりに巡回する」


 ルシアを呼びにホセが出てしまったので、ギルド内の処理部は一名欠員状態なのだ。

 こういう時に限ってベテランが駄々をこねたりする。ギルドあるあるだ。

 アントニオも特に止めなかったので、ルシアは失礼します、とそのまま執務室を出て行きかけ、


「代案。ギルドの仕事に影響がないなら手伝うのは可。では」


仕方が無さそうに付け足して今度こそ退室した。

 もちろんアントニオがこの後にどうにかしろと願われるのを見越しての発言だ。

 ちなみにトニもすでに退室しているが、彼は勤務時間外なので寝ますと寮に帰っている。

 勇者側から見ればトニがギルドに非協力的に見えただろう。

 けれど残っていればいたでアントニオが、「風呂入って寝ろ」と言い出すので、ギルド内では最適解である。

 フランシスコがなぜか勇者側の従者と並び立ち、後ろから説明を入れていた。

 重ねての誤解はなさそうだ。

 ルシアが退室してから最初に口を開いたのはブランカだった。


「……鑑定魔法よね?」


 確認と、他の三人に教えるための発言だろう。

 アントニオは浅く頷いて、本日何度目かの謝罪を口にする。

 ルシアが特級冒険者として秘匿している能力の一つだ。

 いきなり確認もせずに使うのも失礼ではあるが、そもそも鑑定魔法を使える人間自体が少ない。

 理解を求めればそれはそうだと納得してくれた。


「なら勇者って事は分かって貰えたと思うし、いいんじゃない?」


 ミゲルがどうでも良さそうに言う。

 ルシアが断ったので微々たるやる気も消失したらしい。

 横からブランカが、「鑑定魔法に驚きなさいよ」と肘で突いた。

 けれどミゲルを勇者だと決めつけた人物も断りもなく鑑定魔法を使ったのだ。

 特に栄えてもいないミゲルの故郷の街、街道整備で国から依頼を請けた施工管理の一団の中の一人。

 普通に、「あれ、勇者がいる」と言われ、以降家具職人見習いだったミゲルは勇者扱いをされている。

 だから驚くほど珍しいとは感じなかった。

 そして鑑定魔法の正確さも身をもって知っている。

 剣を持って魔獣と対峙すればその人物の言っていた事が正しいのだと理解できた。

 勇者の能力に気が付いてからは普通の生活への執着もない。

 職を手放して故郷も家族の元も離れたが、なんの感情も沸かなくなっていた。


「養女、なのよね?」


 ブランカは両手の指を合わせてアントニオに訪ねる。

 なにか考え事をしている顔だ。

 アントニオは片眉を上げて返した。


「ああ。十八年前だ。魔導士ならマヌエルは分かるか? 奴のパーティ―と共闘した時だ」


 知っているわ、と三度頷いて、ブランカはラウルを睨んだ。


「知ってたんじゃないの?」


「ルシアさんがそうとは知りませんでした。いずれにしても国内ならまだしも国外のパーティー参加は難しいですね」


「なんで?」


 分かり合った風の二人に、ミゲルが食い気味に聞く。

 答えたのはアントニオだ。


「あれでもオスコリダの残党だからな」


 意味ありげな回答だったが、元家具職人見習いのミゲルにそんな知識があるわけもなく、


「いや、なんで?」


ともう一度聞き返した。

 十八年前であればミゲルはまだ五歳である。

 噂として出回っていたとしても意味は解らなかったかもしれない。


「オスコリダが暗殺者集団だったからよ」


 ミゲルにとって冒険者の先生であるブランカがさらりと告げ、


「ルシアさんの事、お伺いしても構いませんか?」


勇者のお目付け役であるラウルはアントニオに説明を求めた。




***




 その頃のルシアはギルド内を巡回していた。

 機嫌よく酔っぱらってギルドを訪れた三級冒険者は本日のルシアの見ためを知らなかったらしい。

 本日のかつらは金髪。

 黒髪のかつらと同様にそれほど長くはないが、ゆるくウェーブがかかっており、華やかな印象だ。

 髪色に合わせて明るい化粧を施し、いつもより瞳も大きく見える。


「お? なんだ新人か?」


 気安く肩を抱かれそうになり、するりと寸前で避けた。

 仲間も酔っぱらっているらしくゲラゲラと笑い、囃し立てる。


「ダッセ! 逃げられてんじゃん!」


「そいつよりオレのがいいよなぁ?」


 もう一人の手もひらりと避けて、手を出してこなかった男の横に移動する。

 空振りした二人は怒り出すでもなく、ぽかん、としていた。


「え? 俺?」


 心なしか鼻の下を伸ばして自分を指さした男に問う。


「あなたも私を誘いますか?」


 男は他二人より自分がモテているとでも思ったのか、まんざらでもなさそうに笑った。


「俺はマリア一筋だからさ。でも一晩遊ぶんならイイゼ?」


 トッと後退してルシアは三人の真ん中に移動する。

 当事者三名は気が付いていないが、ギルドにいた他の冒険者数名はそれがルシアだと気が付いていた。

 ご愁傷さま、そんな視線が注がれている。

 身長や体つき、声色だって変えているわけではないのだ。

 その程度の判別がつかないならば、この三人は行けても二級止まりかと、ルシアは残念に思う。

 もう少し一級が増えれば今回の件も起こらなかったのに、と口を尖らせた。

 男たちには少し拗ねた風に見えたのだろう。


「気のない男と一晩過ごすならオレにしとけって」


「酒でも飲んだら気分も変わるぜ?」


「なんだよ? 四人で遊びてぇの?」


 男たちがルシアを囲う様に一歩近づいた瞬間、スッとしゃがみこんだルシアは左足を軸に右足を伸ばして回転した。

 三人の男は足を払われてあっけなく転び、ルシアはついでとばかりに上半身をひねって一番近くにあった足を掴む。

 そのまま再度の回転。

 片手で軽々と床を滑らせ、三人の男は一ヶ所にまとまった。

 一瞬過ぎて状況が理解できていない三人にルシアはにっこりと笑う。


「ギルド規定。職員に故意に触れてはならない。職員の業務を妨害してはならない」


 あ、と男たちも気が付いた。

 処理部だ、と。


「マリアに達成不可能と思える依頼しか受け付けない様に言います。登録からやり直して説明会でギルド規定をもう一度覚えてください」


 三級は、三級の依頼を十件成功で昇格、連続三件失敗で十級まで降格なのだ。

 つまりは十級まで降格しろと告げているし、このギルドには本気でそういう事をする職員しかいない。

 青ざめる男たちにルシアは笑顔を消して言うのだ。


「死ぬ気で成功させれば降格にはなりません。精々頑張ってください」


 男たちはこくこくと頷き、素面の時に依頼票をよくよく確認して対策して臨もうと思うのだった。

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