ほら吹き地蔵 第四夜 これでいいのか
【お断わり】今回も三題噺ではありません。
ボクのうちの裏庭に、かなりいいかげんなお地蔵さんが引っ越して来ました。
でもまあ、とりあえず、ありがたや、ありがたや。
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その男は昭和38年(1963)日本に生まれた。
大きな自然災害も社会的変動も経験していない、東日本大震災を除けば。
裕福ではないが不自由もない家庭だった。
母親は病的な嘘付き。
父親は自分の感情をコントロールできない男だったが、その男は社会人にはなれた。
偏屈者にもなったが。
学校を卒業してお硬い会社に就職したが15年後に会社都合解雇された。
勤労意欲を失って3年遊んだ。
その後、中途入社した会社は今どき珍しい温情的な会社だったが12年しか持たなかった。
文学への未練が断ち難かったのである。
10 年で貯金を使い果たしたのでアルバイトで食いつないでいるが、まだ文学を諦めていない。
その証拠に、こうやって文章を書いている。不要不急の文章を。
こうやってダイジェストしてみると、苦労と言うほどの苦労はしていないし、お世辞にも堅実とは言いかねる。
金のかかる趣味はなかったが貯金も不動産もない。
本人は「生かしておいてもらえるだけで、ありがたい」と思っている。
これからも、何も考えずに生きて、そして死ぬのだろう。
妻にはずいぶん迷惑をかけたが、いや、かけているが、子どもにつらい思いをさせた事はない。いないからだ。
「こんなブレーキもアクセルもない。ハンドルもあるんだか無いんだか分からない人生で、いいんでしょうか」とお地蔵さんに問いかけたが、答えてくれない。
きっと本気で祈ってないからだろう。
「助けてください。助けてください」と本気で祈れば、お地蔵さんは必ず報いてくれる。
たとえそれが死であっても。