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【悲報】親父から娼館を相続して勝ち組確定…の筈なのに!?  作者: 稲村某(@inamurabow)


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19・言っておきたい事がある



 他人と比べて別に俺の背は低くないが、隣を歩くセヘロも負けてない。彼女が早足で歩けば気弱な男は行く手を譲る程だが、今日は流石にそんな事は無さそうだ。


 「……あ、えーっと……もっと早く歩いても良いぞ……じゃなくて、いいですわよ……」

 「……ん、ですわよ?」

 「うんにゃっ! ですますわ、かっ!?」


 仕事の時の凛々しい出で立ちと全く違うひらひらとした薄手の白いワンピースに身を包み、いつもの彼女と違い小股でちょこちょこと小刻みに歩く。口調もぎこちなく使い慣れない言葉に四苦八苦し、今にも舌を噛みそうだ。それにしても……


 「まあ、そんなかしこまった口調じゃなくていいよ。それはともかく、いつにも増して今日は……綺麗に見えるな」

 「……お、おう!?」


 やれやれ、おうは無いだろ流石に……でも、そんな声を漏らす姿は誰が見ても、直ぐにセヘロだと判らないかもしれない。いつもは三つ目を前髪で隠し白と黒の上下で揃えて男勝りな雰囲気の彼女が、銀の髪留めまで付けて華麗な雰囲気増し増しの別人なんだから。


 「あ、うんと……この服、マチルダが作ってくれて……」

 「あー、確か服飾職人のマチルダさんだっけ。何回かうちでも頼んだな」


 同居人の名前を聞いて思い出したが、確か色街界隈でも相当な腕の職人だった気がするな。言われてみれば凝ったフリルの細かい細工が巧みに組み合わされ、セヘロの白い肌色と実に良く合ってる。確かポーラの衣装を頼んだ時の金額は……うわ、思い出したぞ、あれには少し震えたなぁ。


 「……と、ところで若旦那……その……」


 セヘロに呼び止められてふと我に返ると、彼女は何か言いたげにうつむいて小声で呟く。


 「……こうして、二人だけの時は……ジム、と呼んでも良いか?」

 「ん? ……ああ、いいよ」

 「……そうか、そうだよな……えっ?」


 俺が軽く答えるとセヘロは真ん中の目まで見開きながら硬直し、暫く固まったまま動かなくなる。何か、不味い言い方でもしたか?


 「……わか、だんな……いや、ホントにか……?」

 「だから、構わないって」

 「……それは……つまり……じゃあ、ジム……」

 「……何だい、セヘロ」


 彼女はまた何か迷いながら答えを探すように黙り込むと、不意に俺の手を掴むと通りの真ん中から離れるように引っ張り、ずんずん進んで行く。そんな風に引かれながらセヘロの後ろ姿に目をやると、若干小柄に見えるが肩幅や腰回りはがっしりしているけど……着ている服のせいで今日は一段と女らしさが増してる。うん、そうなんだ……俺は初めて見た時から彼女が……



 「……あー、何だか暑いなぁ!」

 「そりゃいきなり早歩きしたからな、無理ないよ」


 人波が途切れた辺りでセヘロは歩く速さを落としながら振り返り、そう言って手で顔を扇ぐ。上気した頬は赤いし動いたせいで汗ばんでみえるが、次に出た言葉を聞いて理由がそれだけじゃないってのが鈍感な俺でも判った。


 「ところで……ジム……今まで黙ってたんだが……これからは……その……」


 

 「……わ、私と……」


 途切れ途切れに言葉を繋ぎながらセヘロは思い詰めた表情で声を潜めると、


 「……こ、恋人同士として……つ、付き合って貰えないか?」


 そう言って、俺の返答を待った。


 「……俺なんかで良いのか?」

 「……んあっ!? 良いに決まってるだろ!! あ、いや……前にも言ったように……私は普通の男とは、手も繋げないし……だから、その……」


 そうだよな、彼女の能力のせいで大抵の男とは付き合うどころか何も出来ない訳だし。


 「いや、それはそれとして……俺みたいな平凡な奴で良いのかって」

 「へ、平凡なもんか! いや、そうじゃない……じ、ジムはすごく頑張ってるぞ!! 私の判らないような難しい店の切り盛りもしてるし、それに……店の連中とも上手く付き合ってるし……」


 バタバタと手を振り回しながらセヘロが必死に取り繕う様は、見ていて凄く癒される。もしかすると普段の力強い印象とは真逆な今の感じが、彼女本来の姿なのかもしれない。


 「……そうか、ありがとう……ま、頑張ってるって言われて悪い気はしないね」

 「だろう! だからジムはもっと若旦那らしく自信を持ってくれ!!」


 ……ん? 何だか判らんが励まされたぞ。言った本人も満足そうに頷いてるが、今はそれが言いたかっただけじゃないだろ。危うく肝心な答えを言いそびれるとこだった。


 「……ありがとう。でも、それはともかく……全く男らしくないよな、セヘロに先に言われちまうなんて……」

 「……いや! ともかく言いたかったんだ!! その……じ、ジムの事が好きだって……」

 「ああ、俺もセヘロが好きだ」


 「……んっ! あ、そうか!? あー、い、言われ慣れてないから……何だかむず痒いなぁ!!」


 いつになく表情豊かなセヘロはそう言って身体を揺らし、真っ赤になった顔を手で覆いながらフーッと息を吐いた。


 「……良かった、勇気を出して言えて……言わなかったらずーっと後悔したかも……」

 「それは俺も同じだよ。君は綺麗だけど……仕事の時はああだから、なかなか言えなくて」

 「……うん、店に居る時は気が張ってるし、用心棒がデレデレしてたら仕事にならないぞ!」

 「そりゃそうだな」


 そう言いながら笑い合うと、心の内に溜まった物を出したからかセヘロは更に可愛らしく見える。いや、元から可愛いか。


 「……と、そうだ……一番大事な事を言い忘れるとこだった……なあ、ジム……」

 「なんだい、実は魔族だから姉妹が二百人居るとか?」

 「いや、そうじゃなくて……って魔族でもそこまで大家族は居ないぞ!!」


 セヘロが急に姿勢を正して話し始めるので、俺が茶化すと真面目に返してくる。


 「……姉妹じゃないが、その……私の種族は、状況に応じて……性別が変わるんだよ」

 「おー、有りがちだな……でもずーっと前から女だろ、どう見たって」

 「……こっちは確かに女らしいけど、その……」


 セヘロは自分の胸を両腕で押しつぶしながら暫く黙り、上目遣いで告白した。



 「……その、ちっちゃいんだが……ジムと同じモノも、付いてるんだよ……」



 「……は?」



 「やっ! だ、だからってうちの店の花売りと同じみたいじゃないぞ!! ……前はもっとそれっぽかったけど、ジムに会ってから……随分ちっちゃくなった感じに……」

 「……お、ああ……」

 「……ジム?」

 「……いや、少し驚いたけどもう大丈夫さ」


 正直言ったら驚いたなんてもんじゃない、どこからどー見ても女にしか見えない(初対面の時から印象は変わってない)セヘロが、実は()()()()だと言い出したんだ。ふむぅ、そうか……でも、希望は有るだろ。たぶん、セヘロの言う事が正しいなら精神的な天秤の加減で性別が傾くんじゃないか、って事だ。だったら、俺がセヘロを今まで以上に女性として扱えばいいだけの話だろ。確証なんてないけど。



 「だからジム、二人っきりの時は……んっ? ふおおぉ……♪」


 たぶん恋人同士って意味でセヘロが言うけれど、どう答えるのが正解なんだ? そう悩んだ結果、俺は黙って彼女を抱き締めるしかなかった。


 ……でも、ふたなりか……この見た目で? 正面から抱き締めたらふにゃんって胸が柔らかくて大きいのに……ホントか?


 

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