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勇者の弟に生まれた俺は………  作者: 松山集人
第一章 聖剣祭
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第一話 勇者の弟

 今日は村から少し離れた、城下町まで来ていた。

 普段は僕のような、外の子どもが来るようなところではない。実際、ここに来たのは初めてだ。


 だが今日僕が来た理由は眼前に広がる光景にある。


 周りを見渡すと、大通り沿いに屋台が隙間なく出店していて、今日が特別な日であることを如実に表していた。

 村で度々行われるお祭りとも違い、そこでは決して食べられない海産物などが多く出回っていたり、普段見ることのできないものばかりであった。


 僕はこの光景に目を輝かせていた。ポケットに入っている少しの路銀では、何も買えないのが少し残念ではあるが。


 少しと形容したのは、本日のメインイベントは金がなくても、どんな身分でも見物が可能なためである。


 そのイベントというのは………。


「あぁ、できそこないのフィンじゃないか」

 といきなり意識外から罵声を浴びせられた僕は、思わず振り返ってしまった。

 そしてすぐに後悔することになる。僕はこの声の主を知っていたからだ。


 煌びやかな服装と吊り上がった目が、僕たち庶民には嫌な印象を与える。後方に取り巻き二人を連れているのも、ポイントが高い。

 彼はジェリス。僕たちの村を治める貴族の長男坊である。


 こうやって度々会っては嫌味なことを言ってくるいけ好かないやつなのである。


 僕は最大限の笑みを浮かべながら答える。

「ジェリス君、こんにちは。今日はお互い楽しみましょう」


 それでは、と身を翻し立ち去ろうとしたところ、取り巻きが先回りをしてきて道を阻まれた。


「おい、お前ちょっと調子乗ってるんじゃないか?」


 そう静かに声を荒げている様子からかなり不機嫌なようだ。

 ゆっくりと近づき僕の肩にそっと手を置いてきた。


 僕は体を震わせていた。彼に教えてもらった恐怖は長い時間経過して、記憶の中からは消去されかけていても、決して逃れることはできない。


「別にあの頃みたいに苦痛を与えてみてもいいんだぜ」

 彼は貴族らしからぬ表情を浮かべてゲラゲラと笑った。取り巻き二人も一緒に笑っている。


 謝らないと。


 僕は少し浮足立ってしまっていたようだ。初めての城下町、初めての大きな祭り、兄さんとの久しぶりの再開。

 そんな非日常的な状況から、現実を遠ざけたくてジェリスから逃げてしまっていた。

 あの村の(えにし)から逃れることなどできやしないのに………。


「すみませんでした。僕は何をしたら………」

 と頭を最大限下げながら彼の返答を待った。


 彼らは話し合っている、まるで次の遊びを考えるような無邪気な雰囲気で。

 やがてその悪魔の話し合いは終わり、顔を挙げろと声がかかる。

 にやにやと嫌な笑みを浮かべる三人に囲まれ、心臓の鼓動は一気に加速していった。


「まあ今日は祭りだし、俺も鬼じゃないからな。土下座だけで許してやるよ」


 なんだ()()()()()今日は許してもらえるのか。


「わかりました。ですがここは目立ちすぎるので、あちらの路地裏に行きましょう」


 僕はそう言って近くの小道を指さす。

 さっきから通行人がちらちら見ているので、早く済ませるにはこちらの方がいいだろう。

 彼も村の外では悪目立ちしたくないらしくあっさり了承した。


 そのまま取り巻きから腕をつかまれ、路地裏に連行された。彼らは腕っぷしが強いため、逃れようと思っても逃れられないほどガッチリ固定されていた。


 逃げるつもりは毛頭ないのであるが。


 到着するとそのまま反対方向に投げ出された。

 這いつくばってジェリスを見上げると、眼光のみで急かされていることが分かったので、そのまま足を閉じ、頭を地面にこすりつけた。


 その時だった。

 腹に鈍い痛みが走る。蹴られたのだと気づくには、長時間要さなかった。


 もう一度彼を見上げると、彼は今日一番の笑みを浮かべていた。


 土下座なんてこれまで機嫌を損ねなくても何千回とやっている。

 このくらいで満足させれる訳がなかったのだ。


「土下座だけで済むとでも思ったか? 本当に頭が悪いなぁ、お前は。だから精霊にも嫌われるんじゃないのか」

 そう言って笑いながら、彼は追撃を行う。


 僕は背中から壁に激突した。

 全身が痛い。呼吸は乱れている。

 ただただ後悔だけが募る。


 僕は何をやっても無駄なのだと悟った。



「俺の弟が何か粗相をしたのかい? ジェリス坊ちゃん」


 度重なる暴力と絶望から、僕の気が遠くなっていたころに聞こえてきたのは、安心感を感じさせるほどの美声で、よく知る声だった。


 ジェリスは少し態勢を代えてパッと振り返る。

 そこには、軽快な服と簡素な鎧に身を包む勇者、僕の兄さんが立っていた。



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