コスモス王子と婚約者の私
応募の都合上、本文は千文字で終わりです。
私の婚約者は王子様。
王位継承順位は、そこそこ低い。
ご公務とかも、本当にそこそこ。
殿下はいつも暇そうで、とうとう暇を持て余し。
研究室に籠もって、おかしな研究に手を染めるようになってしまった。
「でんかーっ! 今日も婚約者の私が様子を見に来ましたよーっ!」
無駄にそこそこ広い研究室。私は淑女にあるまじき大声で呼び掛ける。
ここは殿下と私だけの研究室だ。
「でんかーっ! どこですー? でん——」
がらくたの並ぶ棚。その陰で何かが動いた。
「そちらにいらっしゃったのですね、殿下」
棚の陰に回り込もうとして、私はふと動きを止めた。
ピンク。
何か大きなピンク色が見えた。
「ピンク……?」
殿下……ピンク色を身に付けるような人だったかな?
もしかして、そこにいるのは殿下ではない別人?
ピンク髪の……男爵令嬢?
高貴な殿方を婚約者から奪い取る————
「まさかそんな……」
そんな人いるの?
いるとして……うちの殿下を私から?
ピンク色は動かない。
殿下と私だけの研究室なのに……これは裏切りだ。
どこの泥棒猫か知らないけれど……許せん!
「そちらに隠れていらっしゃる方! 出てきなさい!」
ピンク色は動かない。
こちらの声は聞こえているはずだ。
「出てこないのなら、こちらから行きますよ……」
棚の陰に回り込む。
白衣を引っ掛けた背中がうずくまっていた。
「あれっ、殿下……?」
その背中が立ち上がった。
肩から下は私の知っている殿下だ。
だけど頭が……。
「でっ、ででで……」
……人間の頭ではない。
色は……ピンクだけど。
そのピンク色の頭が、ゆっくりと振り向いて————
「……ででででにゃぎゃぁああああっ!?」
殿下の頭は大きなピンク色のコスモスの花になっていた。
世にも恐ろしいコスモス怪人だ。
正直わけが分からない。
*
「————治った……助かったぞ、婚約者殿」
「いえ……」
殿下の身振り手振りの指示で、解毒剤を使った。
ピンク頭が枯れ落ちて、ぼさぼさ頭が生えてきた。
正直気持ち悪かった。
「なんでコスモス頭なんかになっておられたのですか?」
頭コスモスなんですか?
あっ、次にこの人が問題を起こしたら、そう言ってやろう。
「いやその……コスモスが好き、って」
「はい?」
「君が『コスモスが好き』って言ったから……」
言ったと思うけど……。
「コスモスになって、俺のことも好きになってもらおう、と……」
殿下……。
「殿下」
「な、何かな、婚約者殿」
「私は……コスモスも、殿下も、どちらも好きですよ」