表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2人遊び  作者: 六轟
4/14

ヒーローインタビュー

 休み明けの月曜日。治が登校し教室に入ると、女子たちが一か所に集まっていた。聞こえてくる内容から察するに、麗奈に話しかけようとしているらしい。先日のどざえもん未遂事件についてだろう。


 もしかしたら自分も群がられるのだろうかと憂鬱だった治だが、どうも自分が麗奈を助けた事は、美佳以外には伝わっていないようだ。


 これは、あとで何かお菓子でもあげておこう。かなりのファインプレーと言わざるを得ない。


 暗くなってから帰ってきた美佳からの情報だと、麗奈が川に流された日、結局キャンプへ行った女子グループは、その日のうちに家に帰ったらしい。


 麗奈は、幸いと言っていいのかはわからないが、軽い捻挫程度で済んだようだ。


 とは言え、その程度で済んだのは、たまたま救助してくれた人がいたからであって、死ぬ可能性は非常に高かったと、救急隊員や親たちにとても怒られたと言っていた。


 周りの女子がギャルだらけにもかかわらず、成績優秀で真面目な美佳は、珍しく怒られた事にかなり凹んでいるようだった。


 悪いのは、歩きながらスマートフォンを弄っていた麗奈なのだから、美佳が気にする必要は無いと思うのだが、本人曰く、


 美佳「全て私のせいというわけではないが、それでも私が麗奈の事を注意しておけば起きなかった事態だ。危なく、親友を失う所だった…。」


 と嘆いていた。真面目だな。


 治に色々話して満足したのか、美佳が治の住む離れから出て行ったのは、夜9時を回ってからだった。いくら従弟だったとはいえ、男が一人で暮らしてる場所に夜になってから来るの自体は、あまり真面目とは言えないかもしれない。


 そんなこんなで、今日の女子たちにとって麗奈どざえもん未遂事件は、センセーショナルな話題として学校中を駆け回っているようだ。普段このクラスでは見ない生徒までいる気がする。もっとも、治はそこまでクラスメイトをしっかり覚えているわけでも無いのだが。


 麗奈の名前を知っていたのも、従姉の美佳と仲が良くて目立つからというだけの話であって、あの日キャンプに一緒に来ていたと思われる男子たちなど、誰一人として名前を憶えていなかった。


 なんせ会話も最低限の物しかしていないのだ。治は、このクラスに置いて、ほぼ完全なるボッチとなっていた。


 別に虐められているとか、嫌われているというわけではない。単純に、大半のクラスメイトにとって治は興味がまったくない相手であり、治としても昔から同年代の友達ができた事すらないため、特に寂しいとも思っていない。


 一部のクラスメイトからは、親に捨てられたとか、母親が自殺したとか、超貧乏だとか、ボッチだとか、ヤバい商売に手をだしているらしい、などのウソとホントが混ざった情報で認識されているが、治はそれを知らない。


 今日も心安らかに、平和だなとしみじみしていた治だが、とても嫌な事を思い出してしまう。


 麗奈を助けた時に、昔から使っていた携帯電話が壊れてしまったため、新しく買う必要だあるのだ。しかも、ガラケーと呼ばれる古い機種は、新規で契約することが許されないらしく、スマートフォンにするしかないと業者からは言われている。


 思えば、ネットオークションへの出品から、旅館への釣果連絡まで、治が行う情報活動は、ほぼ全てこの携帯電話によって行われてきたのだ。何年も何年も使ってきた携帯電話なので、愛着がある……と言うほどでもない。


 単純に、治にとって新しくスマートフォンを買うというのが、無駄遣いをしているような気がして憂鬱なだけなのだ。


 もっとも、あまりに古い携帯電話を使い続けたため、携帯電話会社からは、多少型落ちではあるが、ほぼ無償でスマートフォンに機種変更できる(というか頼むからさっさと機種変更してくれ)と言われているため、治の損失は殆どないのだが。


 昨日の夜、川で流されたにも拘わらず、病院に行かなかった治の様子が気になるのか、毎日見に来る美佳に聞いてみたところ、学校の近くに、治が契約している携帯電話会社のショップがあるそうだ。


 早速今日、学校が終わったら行かなければと、治がうんざりしながら考えていると、不意に女子から声をかけられた。


 麗奈「ねぇ、治君が今日スマホ買いに行くって美佳から聞いたんだけどさ、アタシも一緒に行っていい?」


 一瞬静まり返るクラス。


 クラスメイトとまともに会話することなど殆どない治は、この突然の提案に、なんて返せばいいのか咄嗟にこたえる事ができず、表情からはわかりにくいた、かなり慌てた。


 だが、それ以上に、他のクラスメイト達が驚愕していた。


 男子からとても人気があるにもかかわらず、浮いた話もなくて、誰が彼女の心の氷を溶かすのか等と言われていた麗奈が、まったく目立ちもしない男子に対して、自分から一緒に買い物に行きたいと誘ったのだ。


 男子からは、驚愕と嫉妬の視線が。女子からも、驚愕と好奇の視線が治と麗奈に突き刺さる。自分の趣味を守るためなら濁流に飛び込むこともできた治だが、この状況に耐える事はできず、とにかく逃れるために、声を出してしまう。


 治「……いいけど。」


 麗奈「そっか。じゃあ放課後ね。アタシ今足首軽く捻挫しててあんまり速く歩けないけど、許してね。」


 治にとって、とてつもない爆弾を投げ込んできた麗奈は、それだけ言うと自分の席へ戻っていく。


 だが、麗奈がいなくなっても、治を中心とした混沌が消え去ることは無かった。


 途端に麗奈に群がる女子たち。キャッキャキャッキャと実に姦しいが、興味の対象が治ではなく、麗奈であるだけまだマシだ。


 問題は、クラスの男子たちだ。学校でもトップクラスに人気のある麗奈が、自分よりも目立たない男子に自分から声をかけたのだ。しかも彼女は、普段男子と話すことなんてまずないと言われていて、実際に自分も話したことなど無い。それなのに、いきなり一緒に買い物のお誘いだ。これは、所謂デートなのではないか?思春期の男子たちのモヤモヤが募っていく。


 治に対して、男子たちからの負の感情が集まるのは、ある意味当然ともいえた。


 特に、先日のキャンプにせっかく女子たちを誘えた男子たちにとっては、事態は深刻だった。あの日彼らは、女子たちから「私たち麗奈が心配だから帰るね。宿泊料金はもう払ってるし、食べ物も食べちゃっていいから楽しんでね。」とのありがたい言葉を貰って、急遽男子たちだけのキャンプとなっていたのだ。


 それはそれで楽しいのではないかと思うが、当の男子たちはそう思っていない。女子たちとイチャイチャしたり、あわよくば彼女にしたかったのだ。決してこんな男くさいアウトドアを満喫したかったわけではない。


 中でも、イケメンと言われ、女子からの人気もそこそこある武田純也は、本気で麗奈を狙っていたために、怒りの形相になっている。


 純也(あの野郎、いったいなんなんだ…!?てか名前も思い出せねーぞ…!)


 そんな厄介な視線に、未だ何が起きたのか理解が追いついていない治は、全く気が付くことは無かった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ