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2人遊び  作者: 六轟
12/14

体育祭2.5

体育祭当日早朝、治は台所に立っていた。


事の発端は、数日前に遡る。



――――――――――――――――――――――――――――――――



麗奈「そういえばさ、治って体育祭の日の昼ごはんどうすんの?」

治「昼か……パン食い競争があればな……。」


治がパン食い競争に頼った体育祭ライフを送っていたことを知っている麗奈は、興味本位で当日の昼食事情を尋ねる事にした。

中学校までであれば、運動会に親や親戚がやって来て応援し、お昼は彼らが持ってきた弁当を食べるのが普通かもしれないが、高校の体育祭ともなればそうもいかない。


思春期真っただ中で、親兄弟に自分がスポーツしているのを見られたくない青少年たちの事を思ったかどうかはわからないが、高校の体育祭は観客をあまり入れない物らしい。

開催されるのも、社会人の観戦を前提としない平日の場合もあるくらいだ。

そう考えると、一応は休日に開催される治の学校の体育祭は、まだ地域住民に開かれたイベントなのかもしれない。


それはそれとして、治の昼食問題は切実だった。

今年度は祖父からの資金提供があるために余裕があるので、そこまで実際に不味い状況というわけでもないのだが、治の今までに培った経験から来る心理的な部分でだ。


治「……うん、今年は思い切って弁当を作ろうかな。せっかくだから豪華なのを。」

麗奈「ふーん、治って料理できるんだ?」

治「旅館の調理場でちょっと教えてもらった。だから旅館で出てくる料理なら結構作れる。」


小さい時から旅館で料理に出される川魚を持ち込んでいた治は、料理人たちに可愛がられていた。

その為、料理を教えてもらっていたのだが、当然レパートリーは旅館で出てくるような料理が多い。

もっとも、家庭の味と呼ばれるものは、治の中に存在しないというアンバランスな状態だったが。


麗奈「じゃあさ、治の分も材料費出すから、アタシの分もお弁当作ってくれない?」

治「え?うーん……別にいいけど、あんまり他の人に食べさせたこと無いから味の保証できないよ?」

麗奈「大丈夫だって。その辺り含めて楽しみにしてるから。」


咄嗟に思いついた麗奈だったが、これで男友達の手作り料理を食べる口実ができたのだった。

本当なら自分が作って見せたいのだが、麗奈はあまり料理が得意ではない。

不味くはないのに、何かが足りない味になる。


美佳「何の話をしているんだ?」

麗奈「体育祭の日に治にお弁当作ってきてってお願いしてた。」

美佳「おー!それはいいな!治の作る料理は結構おいしかったぞ!」

麗奈「……へぇ……?」


一緒にスピカバックスに行って以来、女の子なのにいっぱい食べてもバカにされない事がわかったため、治の部屋に押しかけて一緒にご飯を食べる事がある美佳。

こいつらどういう関係なんだ?と訝しむ麗奈だったが、それ以上突っ込んで聞く度胸もないためにスルーする。

基本チキンである。

因みに、美佳は2回ほど治の料理を食べたことがあるだけだ。


花蓮「はいはーい!アタシも治にお弁当作ってもらいたいなー!」

聖羅「皆さんがそうするなら、私もお願いしたいですわ。」

治「5人分かぁ。まあ、重箱で持ってくれば大丈夫……か?」


材料費が貰えるならと、とりあえず了承する治。

料理を教えてくれた料理人たちや女将さん以外だと、美佳くらいにしか食べさせたことはないが、まあ概ね好評だったため、何とかなるだろうと思っている。

元々は、自分で食べるのはもちろんだが、母親に食べさせようと思って覚えたのだが、心を病んでいた母親は、治の料理を見て「料理すらしない自分への当てつけか!」と怒り、皿ごと治に投げつけていたりする。



――――――――――――――――――――――――――――――――


そして現在、治は絶賛調理中だった。


今回の弁当において最も重要なテーマは、食べるのが女の子たちだということだ。

治が自分の好みそのままで作ると、殆どが揚げ物や肉がメインになってしまうが、それだと普通の女の子たちは喜ばない可能性がある。

旅館でも、女性向けを想定したメニュー作りは積極的に行われていた。

まあ、ここでいう女性とは、おばさんを通り越しておばあさんに至ったような人たちのことなのだが。


というわけで、今回は野菜や卵を中心としたメニューも多くしようと考える治。

もちろん、肉も魚も入れて行くが、その辺りのメニューが間違いなく好きだとわかっているのは、今の所美佳だけである。

彼女は、治が作った肉料理をモリモリ食べていた。治の3人前ほど食べていた。


女子4人は、アレルギーは無いらしい。

麗奈曰く、ニンニクは使わないでほしいそうだが、治もあまりニンニクを利かせた料理は得意では無かったため、最初からそのつもりだった。


定番の鶏のから揚げやトンカツ、ハンバーグなども作るが、治が今回力を入れるのはヘルシーさと運動後にいいメニューである事だ。

ブロッコリー等の栄養と歯ごたえがある野菜を活かし、皮を外した鶏むね肉を使う事で脂質の少ないメニューにする。

卵料理も重要だ。最近は、卵の値上げが激しいのが気になるが、それでも同じ量の肉を買うのに比べると十分優秀なコスパだった。

おまけに卵料理は、彩の面でも便利であり、お弁当には欠かせない食材であると言える。


そして、旅館で出されるメニューで外せないものといえば、何と言ってもエビだ。

赤いというだけで、特別な時に食べる食材として一定以上のアドバンテージを持っており、見ただけでなんだか豪華な気分にさせてくれる素晴らしい食材である。


治が料理を教わった旅館「流水宴」では、名物というと川魚となっているが、弁当の食材としてはちょっと地味だ。

色に奇抜さは無いし、定番の天ぷらにしたところでサクサクのまま昼まで維持することはできない。

無論美味しいには美味しいのだが、今回の弁当には使わない事にする治。


次々と料理を作り、皿に置いて冷ましていく。

熱いまま弁当の容器に入れるのはトラブルの元である。

彩りに拘るためにも、重箱に詰めるのは最後の最後だ。

今回使う重箱は、女将から借りてきた旅館で使われる豪華なものだ。

これを2セット持っていく。

治自身は、自分がどのくらい食べるのかを把握できているが、女子組がどの程度食べるのかがいまいちわからないため、足りなくないように多めに用意しておく。

特に美佳がいっぱい食べるため、足りないという状況だけは防いでおきたい。


更に、おまけで小さめの重箱も用意した。

こちらは、冷蔵庫の中に入れておきたいメニューを詰めるために使う。

あらかじめ調理実習室の冷蔵庫に入れておく許可をとったため、積極的に冷えていた方が美味しいものを持っていくつもりだ。

殆どは果物等のデザートに類するものだ。女子は、こういうのが好きなはずだと思っている治。

折角なので、皮の剥き方などを工夫し、所謂「映え」というのを意識してみる。

治は、スマホで得た知識を活用して、女子高生を目と舌と胃袋で屈服させる料理を作り上げる。

これは、治にとって既に麗奈たちとの勝負であった。


全てのメニューを作り切り、彩鮮やかに重箱に詰めた治。

時間も丁度いいので、着替えて出かける準備万端にし、昼食のメニューを運びながら家を出る。


治は、そこで初めて自分の大きなミスに気が付いた。

自転車では、この重箱3セットは運べない。


初めての重箱弁当を作った夏、治は久しぶりの徒歩通学をするハメになった。





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