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2人遊び  作者: 六轟
10/14

体育祭1

聖羅の苗字が間違っていたため修正しました。

 月曜日、麗奈は朝から不機嫌だった。


 理由は、ただの嫉妬である。

 土曜日に初めてできた男の友達と初めて休日に遊びに行ったのを自慢したら、翌日他の友達からも同じような知らせが来たのだ。

 別に彼氏彼女の関係になったとかそういうわけではないため、麗奈が怒る筋合いはないのだけれど、それはそれとしてジェラシーが止まらない。


 更に言うと、治と美佳が行ったというのがスピカバックスだったのもまずかった。

 いや、まずくはないのだけれど、あまり都会ではないこの町において、スピカバックスという店は、中々魅力的に見える場所だ。

 学生が憧れる場所の一つであり、麗奈を含めた友人グループたちも例外ではない。


 そのうち行ってやろう!だがまだ覚悟ができていない。

 その程度の情けない理由で後回しになっていたが、ついに友人の中から抜け駆けした者がでた。

 自分が日和っただけだとはわかっているが、それでもトップになれなかったのは悔しい。

 とまあ、そんなくだらない理由で不機嫌だった。


 もっとも、スピカバックスなんて都会に行けば普通にある店であり、別に行くのに覚悟が必要という物でもないのだが、憧れというのは難しいものである。


 いくら不機嫌でも、時間というのは等しく過ぎるもので、見た目からは想像ができない程優等生の麗奈は、今日も変わらず登校してきた。

 教室に入ると、不機嫌になった原因の一人がいつも通り机で呑気に本を読んでいるのが目に入った。


 治と知り合ってから、麗奈にとって登校すると毎朝欠かさず行っているルーティンワークであり、たまに治が送れて来ると、その日は調子が出ない気がするまでに日常の一部になっていた。

 とはいえ、今日の麗奈は不機嫌なので、治は何も悪くないとわかっていても、自分が不機嫌だと察してもらいたくなった。

 割とめんどくさい女だった。


 麗奈「……おはよう。」

 治「……あぁ、おはよう……。なんか機嫌悪い?」


 治が一発で自分が不機嫌だと察してくれたことで、もう機嫌も粗方治った麗奈だったが、それを素直に認めるのも癪なため、仏頂面だけは維持することにした。

 もっとも、超がつくほど美人な麗奈が、目つき鋭く仏頂面をしていれば、治じゃなくても恐らく不機嫌だとわかるとは思われるが。


 麗奈「別に……。」

 治「そっか。……そういえば、昨日美佳と一緒に初めてスピカバックスに行ったんだ。注文の仕方とかちょっとだけわかったから、今度一緒にいかない?まあ、まだあの魔法の呪文みたいな注文の仕方は、俺には早そうだけど。」


 この時点で、麗奈の起源は完全に回復するどころか、頭の中では飛び跳ねているくらいになったが、やはりそれを素直に認めるのは癪である。

 別に麗奈も治を彼氏だと思っているわけでもないし、そこまで恋していると自覚しているわけでもない。

 だがそれはそれとして、やはり初めてできた男友達と2人きりで出かけるというのは、思春期の女子として特別なイベントらしい。

 治が自分以外の女の子と2人きりででかけたのは、今この瞬間もやはりジェラシーを拗らせそうになるけれど、治の方から自分をデートに誘ってきてくれるなら、その辺りも多少多めに見れる。


 そんな尊大な事を考えている麗奈。治は、2人きりだとか、デートだとかは言っていない事には気が付いていない。


 麗奈「まあ、いいけど……?」

 治「そっか。じゃあ今度予定が合う時にでも。」

 麗奈「うん……。」


 話を終えて治から離れる麗奈。

 顔を背けた瞬間からちょっとだけニヤニヤしちゃっているが、本人は気が付いていない。


 因みに、当然だがここは教室であり、周りにはクラスメイト達が何人もいた。

 最初からあまり周りに気を配っていない治はもちろん、頭の中で下らない事を考えてた麗奈は気が付いていなかったが、今の2人のやり取りをクラスメイト達は注視していた。

 学校全体でもトップクラスに人気のある麗奈が、最近何故か仲良くしている影の薄い男子と、デートする話をしているのだ。


 繰り返すが、治はデートとは言っていないが。


 それでも、思春期真っただ中の学生たちにとって、とても興味深い内容であったのは間違いない。

 麗奈が治に話しかけた直後から、教室の他の話声が全部消えていたことからもそれはわかる。

 となれば、当然始まり根掘り葉掘り聞きだす時間。


 女子たちが目指すのはもちろん麗奈。治に話しかける度胸は流石に無い。

 麗奈や美佳は、最近でこそ治とよく話しているが、基本的に治はクラスメイト達にとって未知の存在である。

 小中学校が一緒だった生徒からは、なんだか貧乏で変な奴だと思われている程度だが、それ以外の生徒からは、認識すら殆どされていない人間だ。


「天音さんって出縄君と付き合ってるの!?」

「どうして!?この前野球部の人気ある先輩に告白されてなかった!?」

「えー以外……。」


 麗奈「いや!そういうんじゃないから!」


 本当にそういうのではない。


 それでも、自分が誰かと付き合っていると勘違いされている事自体もそうだが、自分が男から告白された事を治に聞かれるのが何となく嫌だなと思う麗奈。

 チラッと治の反応を確認してみるも、全くの無反応である。

 流石にそれはどうなのかとまたもやめんどくさい理由で不機嫌になっていたりもする。


 因みに、治は昔からプライベートな空間という物があまり無かったため、割とどこででも集中することができるようになっている。

 そのため、今も自分が読んでいる本に集中することで、周りの会話をただの音として処理して無視しているだけなのだが。


 そんな治に話しかけるとしたら、女子に話しかけることができない者くらいだ。


 武田「おい……。おい!出縄!お前……天音と付き合ってんのか?」


 武田純也、何週間か前に麗奈たちとのキャンプを多少強引にセッティングし、その後麗奈が川に落ちた事で途中キャンセルされた男の一人である。

 武田は、折角仲良くなれると思っていた麗奈と、トラブルでチャンスが台無しになってしまっていた。

 それでも、増水した川に流された麗奈に付き添ったりしておけばまだ挽回できるかと思っていたが、直後の救急車での搬送も、その後のお見舞いも許されなかった。


 休み明けに気遣うような態度で接するしかないかと思っていたら、何故か麗奈と治が仲良くなっていた。

 理由はわからないが、本当に突然の事であり、そのポジションにいるべきは自分だった筈なのにと嫉妬していたのだ。


 まあ、麗奈を治が命がけで助けたという事実は、今の所麗奈と治と美佳くらいしか把握していないのと、それを知ったところで武田が納得できるとも思えないのだが。


 そんなこんなで、大して会話したこと無い治に強引に話しかける武田。

 少し話しかけただけじゃ全く反応しない治の肩を掴み、強引に自分のほうを向かせると、楽しく本を読んでいたのを邪魔されて不機嫌そうな表情の治がいた。


 治「……何?」

 武田「聞いてなかったのか!?天音と付き合ってんのか?どうなんだよ!」

 治「付き合うって……恋愛とかの話か?そういうのじゃな無くてただの友達だ。麗奈が俺なんかと付き合うわけないだろ。」


 治は、某囲碁マンガを読んでいた。

 丁度主人公に囲碁を教えていた平安時代の霊がいなくなって、物語が色々と動いてるタイミングである。

 自分でマンガを買うような余裕のなかった治は、マンガは学校の図書室や町の図書館に置いてある物しか読めない。

 そのため、これらを読むのは治の数少ないメディア関係の娯楽であり、それを邪魔されたことにイライラしていた。

 これが相手が友達である麗奈や美佳ならそうでもないのだが、治にとって武田は大して仲がいいわけでもない上に、肩を掴んで強引に邪魔をされたのもあって印象が悪かった。


 武田「あっそ。まあ手前が天音と付き合えるわけねーよな。」


 そう吐き捨て、特に謝罪するでもなく離れて行く武田。

 治の中で、武田の印象は最悪に近かったが、それ以上わけのわからない奴の事を考えるよりもマンガを読むことを優先した。


 武田の態度を見ていた女子たちの中でも、失礼な態度に武田の印象は大分悪くなっていたが、本人は全く気が付いていない。


 そんなふうに騒がしい教室に、担任が入ってきた。

 いつの間にか、朝のホームルームの時間になっていたようだ。

 先ほどまでの賑わいがウソのように、急いで自分の席に戻る生徒たち。

 日直が号令をかけ、朝の挨拶が交わされる。


 担任「えー、2週間後の日曜日に体育祭が開催されますが、どの種目に誰が出るのかを今日中に決めたいので、今日中に時間見つけて皆で話し合っておいてください。」


 そう言って、生徒たちに体育祭の日程と、開催される競技種目と参加人数が書かれたプリントを配る。

 良い所を見せようと浮足立つ体育会系と、運動が特別好きでもないため心中でブーイングをする生徒に反応は分かれる。


 ホームルームが終わり、1時間目の授業が始まるまでの短い時間、仲の良い者同士で集まってどの競技に出るかを話し合い始めるクラスメイト達。

 中でも注目を集めているのは、やはり麗奈たちのグループだった。


 美人でギャルっぽい見た目の天音麗奈(あまねれいな)

 美人で運動が得意で男女ともにファンの多い早瀬美佳(はやせみか)

 美人でこのグループの中で最もギャルっぽい凪咲花蓮(なぎさかれん)

 美人でギャルっぽい見た目だが、どこかボスっぽい迫力のある御神聖羅(みかみせいら)


 この4人の友人グループは、ともに昔からの付き合いでとても仲がいい。

 おまけに全員が美人で、金持ちのお嬢様という共通点がある。

 この町の上流階級の集まりで知り合ったので当然ではあるのだが。


 この4人に、東雲紅葉(しののめもみじ)を加えた5人が、男子たちの間で5女神などと呼ばれている人気の女子だった。

 そんな麗奈たちと同じ競技にでてお近づきになりたい男子たちと、できれば比較されたくないので他の競技に出たい女子たち。

 更に、先ほどの話題の印象がまだ残っていて、麗奈が治とどういう関係なのかとまだ気にしている生徒たち。


 色々な思惑が渦巻く教室で、1人だけ我関せずとマンガを読む治。

 体育祭は、1人1種目は出なければならないと決まっているので、全くの無関係ではいられないのだが、治は毎年同じ競技に出ると決めていたために余裕があった。

 その競技とは……。


 麗奈「ねぇ、治はどの競技にでるの?」

 治「俺は、毎回パン食い競争に出る事に決めてる。」


 治の住む地域の小中学校は、毎年パン食い競争が存在していた。

 他の競技ももちろんあるが、全員強制的に出なければいけない物を覗けば、自分が出たいものに出られるシステムだった。

 親がお弁当を持ってきてくれるわけではない治は、このパンを昼食にすることで食費を浮かせていた。

 高校1年の体育祭もそうしていたため、今年も迷わずパン食い競争に参加することを表明する。


 麗奈「パン食い競争?アレ今年から無いでしょ?」

 治「…………………………は?」


 一瞬呆けた後、先ほど配られたプリントを改めて確認して、明らかに気が動転したようにブルブル震えだす治。

 何事かと困惑する麗奈に、治は呟く。


 治「俺、これに書かれてる競技どれもできる自信がない……。」

 麗奈「えぇ……?」


 今回の体育祭で、治たちの学年が参加するのは7種目。


 午前

 ・100m走

 ・大玉転がし

 ・二人三脚

 ・綱引き

 ・創作ダンス


 午後

 ・玉入れ

 ・クラス対抗リレー


 学校行事のため、できるだけ複数人でチームを作って参加する競技が多くなっている。

 基本ボッチな治にとって、チーム競技は非常に相性が悪い。

 先生が「2人組作ってー」と言い出した瞬間絶望するタイプの人間なのだ。


 ならば100m走に出ればいいだろうと考える者が過去多く取り合いになったため、この学校では各クラス5名までしか参加できなくなっている。

 各々のクラスのトップを出してガチバトルをしろという学校側の配慮なのだろうが、治のようなタイプの人間からすればフザケルナと叫びたくなる所業。

 パン食い競争に参加する利点は、パンだけではなく個人競技だった事も大きかった。


 治「どうして、パン食い競争が無いんだ……?」

 麗奈「なんかここ何年か体育祭当日の気温がすごくて、衛生的に懸念があるとかそんなんだった気がする。」


 だったら昼前に帰らせろと叫びたくなるのを我慢しながら、必死に頭を働かせる治。

 川に落ちた麗奈を助けた時ですらもう少し落ち着いていたかもしれない。

 そんな治の気持ちを知ってか知らずか、麗奈はある提案をする。


 麗奈「何も希望無いんならさ、アタシたちと二人三脚出ない?」

 治「二人三脚?アタシたちって誰?」

 麗奈「アタシと花蓮と聖羅。美佳は、スポーツ全般得意だから色々出るらしいけど、アタシたちそこまででもないし、チームで出る競技だと足引っ張りそうでさぁ。ウチのクラス男子が女子より少ないから重複していいんだって。」


 治の第一希望は、競技自体が存在しないため叶うことは無かったことは無かった。

 であれば当然他の競技に出なければならないため、友達が誘ってくれるなら治としても歓迎すべきものである。

 ただし、治にとって花蓮と聖羅は、友達の友達という少々微妙な関係なため、その辺りが少し気になるようだ。

 治からすると、スクールカーストの上澄みにいるはずの麗奈たちと仲良くしている事が既に不思議な状態なため、更にそんな存在が増えるとなるとそこそこ不安だ。


 治「俺あんまり凪咲さんたちと話したこと無いんだけど、俺が相方でもいいの?」

 麗奈「いいみたいだよ。他の男子よりは信用できるって。」

 治「信用……?いやまぁ、そっちが良いなら俺としては構わないんだけどさ……。」

 麗奈「じゃあ決まりね!委員長に言ってくる!」


 そう言ってすぐさま離れて行く麗奈。

 パン食い競争が無い事で大慌てした治だったが、代わりの競技に問題なく参加できそうだとわかり冷静になる。

 そもそも、去年までと違ってそこまで食費に余裕がないわけでもないのだから、パンが無かろうがどうとでもなるのだ。

 それどころか、多少豪華なお弁当を持ってくることも可能だろう。

 治のイメージする豪華な一人用お弁当は、世間一般で言う普通クラスのお弁当なのだが。

 そこから超豪華のイメージになると一気に飛んで重箱に入ったものをイメージしだすのは、温泉旅館の女将による教育の賜物である。


 安心してマンガを読むことに戻る治。

 しかし、周囲の男子からの視線は厳しいものになっていた。

 5天使と呼ばれている女子のうち3人と同じ競技に出るどころか、二人三脚なんて体が密着するペアになるのだ。

 当然思春期真っただ中の男子たちは、嫉妬の念を治に飛ばす。

 そんな男子たちを見て舌打ちする女子たち。


 こうして、これから一致団結を目的としたイベントを前に、確執を深めるクラスメイト達。

 まあ、女子にとって同年代の男子など割とバカな事は前からわかっているので、酷いことにはならないだろうが。


 麗奈「二人三脚希望者全然いなかったから決定でいいってさ!」

 治「よかった。じゃあよろしく。」

 麗奈「よろしく!それでさ、これから体育祭まで放課後に練習しない?」

 治「放課後に……練習……!?」


 治、高校2年の夏。

 生れてはじめての放課後居残り練習が始まる。







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