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クネクネ

作者: 月詠屡璃愛


>>1

 みんな、聞いてくれ。

 壁にかけてある電波時計が、深夜12時から全く動かないんだ。


 何故かって?

 俺も分からないから怖いんだ。


 誰か、教えてくれ!



 俺はネットの掲示板に、そう書き込んだ。

 そしたら、ネットのみんなからのコメントが、パソコン一面に飛び交っていた。


 例えば『なんか不気味だな』とか、『もしかしたら、電波が切れたかもしれないので、探して付けたらいいかもしれないです』と。優しいコメントも沢山あって、内心嬉しかったんだ。


「でたよ。クソアンチ。下手にこういう奴に絡むと、後々面倒臭いんだよなぁ」


 だけど、中には『妄想で草』とか。『幻覚で頭イッちゃってる?』という、変なコメントもあり、正直苛立っていた。

 なので、俺はユーモア混じりにこう返答する事にしたんだ。



>>1

 妄想で悪かったな。

 でも、今回話すのは、妄想じゃねーんだよ。現実で起きていることだから、真面目に聞いてくれ。

 ちなみに俺は28歳。食品工場務めの派遣社員だ。車の免許はなく、彼女は無し。見た目はそうだな。中肉中背だから、あまりモテないぞ。



 そう書いた俺は、スペックと共に、続け様に書くことにした。



>>1

 それは、仕事が終わって、会社から家へと向かう、帰り道に起こったんだけどさ。

 俺、送迎バスの外をぼーっと、眺めていたんだ。

 そしたらさ、何も無い畑から、白い物体がウネウネとしていたのが見えたんだよ。

 何で見えたのかは、全く分からない。じーっと見ても、真っ白くて、人型で、ウネウネしてるだけなんだ。しかも、その後消えたしさ。


 周りはというとな、イビキをかいて寝ていたり、スマートフォンを弄っていて、下を向いたりで、全く外を見ていないんだ。


 景色を見ているのは、窓を眺めている俺と、道路を見て運転しているドライバーだけ。



 そう書くと、コメント欄が一気にザワついたんだ。


「えっ……」


 しかも、その中の一つのコメントに目がいった俺は、思わず固まってしまったんだ。ちなみに、コメントにはこう書かれていた。



>>28

 もしかして、それって、『クネクネ』じゃ、ありませんか?



「クネクネ、だと!?」


 クネクネは名前だけ、何だか聞いたことがあったんだ。確か、別サイトの掲示板で、『見たら精神が崩壊する』という都市伝説があるらしい。

 そう書かれていたのを思い出した俺は、背筋がとても凍った。


 いや。まさかなぁ。

 でも、確かに白い人型で、クネクネしていたのは覚えているんだ。全く人気(ひとけ)のない畑だったし、宇宙人みたいな格好だなぁ、としか思ってなかったけど、顔までは思い出せない。



>>1

 クネクネ、聞いたことだけあったけど、確か、精神が崩壊してしまうやつだよな?

 だけど今、こうして書き込みをしているって言うことは、生きているし、ちゃんと精神も、イカレてはないんだよな?

 でも、見てしまった場合、本当にどうすればいいんだ!?



 なので、助けを求める形で投稿したが、それから何故か、一個もコメントが付かなくなってしまった。


「えっ……。なんでだよ!」


 思わず声を荒げてしまったが、デジタル電波時計は、相変わらず深夜12時のままだ。


 ちなみに、パソコンの隣に置かれた青いスマートフォンの電波は3本立ってて、時間も1時となって、一時間ほど時間が進んでいる。

 なのに、電波時計だけ、何回直しても直しても、深夜12時のままになってしまうのだ。


 コメントを待つ間の静寂な時間も、今となっては、とても苦痛だ。


 その間、周囲を見渡しては、頻繁にクローゼットを開け閉めをしたり、窓を開閉し、白いヤツがいないか確認していた。


 そして、デスクに戻ったは良いものの、いつ、あの白いヤツが現れるのかと思うと、気が休まらない。部屋の電気もLEDの良い奴にしたばかりなのに、何故か妙に薄暗い。


 早く、何でもいいから、

 アンチでもいい!

 誰か、コメントをくれ!


 俺はそう願いながらも、パソコンの画面を見つめていた。


 しかし、本当に落ち着かない。

 なんでか分からないけど、マウスを握りしめるように持つ右手は、とても震えている。


 たった、帰り道に起きた事を、コメントに書き込んだだけなのに。



――オォ。オォォォォ。



 今度は変な声が聞こえてくるようになってしまったんだ。


 四方八方。どこからか声が飛んできている。


 そういえば、アンチコメに『幻覚で頭イッちゃってる?』てコメントがあったなぁ。

 俺の場合、今の状態は幻覚ではなく、幻聴だが、背後にあるクローゼットからも、窓からも、変な声が聞こえてくる。


 何でだろうか。

 そして、白いヤツを思い出す度に、震えが止まらない。なので、ベッドに潜って寝ようとした。

 まぁ、明日は日曜日なので、仕事は休みだし、クネクネがでてきた畑に行くことも無いから、大丈夫だろう。


 そう思って寝て一夜を明かそうとした。



――オォォォォ。オォォォォ。



 しかし、唸るような野太い声が、部屋中を駆け回っているので、寝ようにも眠れない。


「くそっ!」


 俺は思わず起きてしまい、電源を消し忘れたパソコンの画面の前へと向かうと、コメントがついてないか、確認した。


「あっ……」


 すると、一切付かなかったはずのコメントが、画面全体に埋め尽くされていた。しかも、一文字だけ、赤い文面で。




――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……




「うわぁぁぁぁぁぁ!」


 大声で叫んでしまった俺は、一目散にその場から離れようと、二階の窓から飛び降りてしまったのだ。




>>1

 それからの俺は、両足を複雑骨折して、入院したんよ。だけど、それからの俺は白いヤツがいっぱい出てくる幻覚や、野太い声が聞こえる幻聴にも見舞われてしまってな。


 仕事は退職。そして、今の俺は、『統合失調症』と診断されて、閉鎖された病棟から、こうしてスマートフォンで打ち込んでいるんだ。


 今でも、幻聴や幻覚が見えている。

 つまり、畑が出てきたら、目を(つぶ)って寝ろ。て事だな。俺からの忠告は以上だ。




 そう打ち込んだ後、俺はスマートフォンの電源を落とすと、病院のベッドに横になり、眠ろうとした。



――オォォォォ。オォォォォ。



 しかし、今でも俺の耳には、あの野太い声は聞こえてくる。


「はっ!」


 そして起きると、俺がいるベッドの傍には、白いヤツが俺の顔を覗き込むように眺めていた。

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