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邂逅、幻獣。

作者: 有楽一満

皆さんは「ドラゴン」をご存知だろうか。多くの人は肯定的な反応をするだろう。では見た事があるか。これには多くの人が否定的な反応をするだろう。しかし、ごく稀に肯定的な反応をする人がいる。これはそんなドラゴンを見た事がある人の話である。

私はこの貴重な休みを使って何をしているのだろう。なぜ5時間もかけてソーラーパネルをカメラに背負わせて動作するように改造したのだろう。朝、思い立って工作を始めた自分に1時間ぐらい問い詰めたい。しかし作ったものはしょうがない。動作確認をしよう。住み始めてすでに数年経っている自宅の廊下を抜け、いつもと変わらぬ手つきでドアを開ける。しかし今日だけはドアを開けた後にいつもと違う事が二つ起きた。まず一つ。今は冬なのにも関わらず暑いのである。しかしその事など至極どうでも良くなるような事が目の前にあった。私が見ているべき光景は、極々一般的な公道である。しかしどうだろう。今、眼前に広がっている景色は夢でも見た事がないような、青々として、広々とした草原である。夢でも見ているのだろうか。カメラを起動し、慣れた手つきでシャッターを切る。どうやらセンサーが写し取った世界も私が見ているものと差異は無いようだ。取り敢えず、ドアを一度閉めて再度開ける。またも草原である。一度部屋に戻り窓を開けた。この時私はここにも草原が広がっているものと思っていた。がしかし、予想に反し窓の先には見慣れた世界が広がっている。どうやら草原に通じているのは玄関のドアだけなようだ。さて、休日は後10時間程度残っている。そして明日の仕事は午後からになっている。予定を整理した私は改造したカメラと幾つかの交換レンズと今朝の朝飯、最も食パン一切れだが無いよりはマシだろう。それをカバンに入れ、玄関を再度開け、草原へ一歩踏み出した。しかしこのような草原では迷子になりそうなものだったのでひたすら北に向かって行くことにした。

1時間程度歩いただろうか。私は青々とした草原が枯れている所があることに気づいた。大体現地点から北東方面に200mくらいだろうか。この観測地点、つまり曲がった所に適当な目印を立て、枯れた一帯へ向かった。

枯れた一帯まで後50mくらいのところで明らかに普通で無いことに気づいた。無論、この草原が普通で無いのはそうなのだが明らかに異臭がする。それも腐敗臭などではなく…私は暫し考えに耽った後に一つの結論に辿り着く。「ガソリン」だ。思い返せばガソリンを草にかけると枯れると聞いたことがある気がする。しかしなぜここにガソリンがあるのだろうか。考えてもわかるわけがない。何せここには車などのガソリンを使うものが存在しないからだ。

「!!!!!!!!」

刹那、文字に書き起こすには非常に困難な雄叫びが聞こえた。

私はその叫びに恐れ慄き、叫びの主を探したが、その叫びの主は見当たらなかった。しかしそれは私が「雄叫びとは陸上生物がするものである」という認識の元、叫びの主を探したからに他ならない。叫びの主は空にいた。しかしその翼は、空を飛ぶには余りにも禍々しく、若しくは強堅に見えた。そしてそのような翼に代表されるその空飛ぶモノは、私がこれまで見てきた空を飛ぶ生物の中で異色を放っていた。「とてもこの世のものとは思えない」それが率直な感想であった。震えた手つきで、カメラを構え、シャッターを切る。それを保存したカメラの液晶がこれが事実であることを伝える。ここで初めて私はここが本来私がいる場所ではないということを認識した。などと考えているうちにソレは枯れた一帯まで降りてきた。より近くに見れば、何故これで飛べるのか、まるでわけがわからない。見るからに重い、鯨さえ恐怖するような巨体を持ち上げるのに明らかに力不足な翼、トカゲのような硬く乾き、黒光りする鱗、そして引き込まれるような、宝石のような黄色い眼、よくよく見ればソレは我々が強い憧れを抱く、西洋風の「ドラゴン」に酷似しているようにも見えた。しかし私はそんなことお構いなしに再度ソレに恐怖した。しかしソレからは殺意を感じない。記録のために写真を撮る気力はあったようで何枚かソレの全体像がフォルダに残っている。

しかし何故ソレはこのガソリン臭いところにいるのだろうか。

「メェー」

唐突に呑気な羊の鳴き声のような物が聞こえた。その次の瞬間、ソレは翼を羽ばたかせ呑気な鳴き声の主へ向かった。羊を視認したソレは口をかっびらき、黒い液体を吐き出した。ここで初めて私はあの巣がガソリン臭い理由を知ることになる。原因はソレがガソリンをなんらかの方法により所持し、使用していたからである。しかし本当に驚くべきはそこでなかった。直後ソレは、口の中から火を発生させた。そしてその火はガソリンを伝わり、羊に到達する頃には業火となり羊を包み込んだ。無論火が消えた後は丸焼きになった羊が残っているのみである。どうやらこのガソリンはソレが食事をするために必要なようだ。ソレは羊の丸焼きを貪り始めた。「次は私かもしれない」そんな考えが私の脳をよぎった。私は駆け出していた。ドアが見えてきた。玄関へ飛び込んだ。五体満足である。所持品も何一つ無くしていない。私はドアを閉め、鍵を閉め、チェーンをかけてから寝た。次の日、ドアを開けてみればそこは変わらない日常が広がっていた。夢だったのか。私は安堵した。次に転がっているカメラを片付け、フォルダを開いてみた。写真があるかもしれないという期待と、あって欲しくないという願いを込めて。

そこにはソレが写っていた。鮮明に写っていた。私は恐れた。ソレと再び邂逅する事を。私はソレに関する画像を一つ残らず、封印した。いつか、忘れる事を願って。

かくして、私の異世界転移は収束した。

お読み頂きありがとうございます。これでも推敲はしましたが、至らぬ点は山程あると思うので、ご指摘いただけますと幸いです。

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