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少子化に関する私的見解

作者: コルシカ

少子化に関する私的考察


 「富国強兵」、「産めよ増やせよ」が今は昔。日本が少子化に転じてから一向に子どもは増えていない。

 国は「異次元の少子化対策」等少子化に歯止めをかけるべく、担当大臣を置き、様々な政策を立案している。

 それでも明らかな効果はまだ出すことが叶わず、人口調査ではため息しか出ない有様である。

 少子化は人口減少に直結する。人口減少は国力(例えばGDP)の衰退となって顕れる。先述した「富国強兵」「産めよ増やせよ」は明治期に日本の国力を強化し、欧米列強に追いつけ追い越せを目標としていたスローガンだ。たくさん生まれた子は労働力になり(あるいは兵になり)、消費者となって経済を回すため、国を大いに富ませる。この原理は今と変わるところはない。

 第二次世界大戦後は「第一次ベビーブーム」「第二次ベビーブーム」を経て日本国民は大いに増加し、その勤勉性から「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とまで世界に冠たる経済大国に成長した。

 その後人口推移が少子化に転じてからは人口の多い中国にGDPを抜かれ、長期の不況に陥りそれが継続しているのが現状だ。

 あの未曽有の好景気と言われた「バブル景気」も、原因の大きな一つとして大きな人口割合を占めていた団塊の世代が、ちょうどマイホームを購入する世代に突入していたからだとの分析がある。

 バブル崩壊後人口減が続いている現在まで、我々は顕著な好景気を経験していない。

 少子化がいかに国力や経済活動を低下させるマイナス要因かということを、歴史が示している。


 (少子化の原因)

 のっけから結論として「若者の非婚化・晩婚化」があげられる。

 この傾向でもって非婚ならば子どもは産まれないし、晩婚となれば女性の身体の生理から多産は見込みづらい。

 もちろん長く続く経済不況のため、結婚している夫婦でも先行きが不安だということで子どもをもたない夫婦だって多い。

 まさに負のスパイラルと言えるだろう。

 経済以外にも戦後長く続いた結婚制度の規制緩和が非婚化・晩婚化をもたらしたという意見もある。

 つまり結婚が「お見合い結婚」から「恋愛結婚」へと大きくシフトしてしまったのだ。

 むかしならば結婚しそびれている男女を、近所や親せきの「世話焼きおばさん」が、「あなたたち結婚まだ?お似合いだから一度会ってみなよ」等お節介を焼いてくれて、晩婚化した男女の受け皿となっていたものだ。また「お見合い」も恋愛のような高度なコミュニケーションが苦手な男女を結婚させる(個人差があります)メジャーなツールであった。

 なので、今「なんであんな冴えないおっちゃん(おばちゃん)が結婚できたんだろう」という人でも家庭をもち子どもを育てられたのである。

 ところが、今はそうはいかない。

 結婚の規制緩和が進んだため、近所や親せきにいた「お節介おばさん」がほぼ消滅。恋愛弱者は自ら結婚相手を探さなければならなくなったのだ。

 恋愛結婚が結婚市場のほとんどを占めるようになった現在(マッチングアプリ等も含めるとする)、恋愛が苦手な男女は積極性に欠ける人が多いため、結婚適齢期になってもズルズル結婚しなくなった。

 わずかに残されたお見合い(結婚相談所等)を選択する男女も、メディアやネットの影響で理想が高くなってしまっており、成婚率は高くないという。

 それに輪をかけて、本来はいいことのはずだったコンプライアンスやハラスメントの浸透で、結婚適齢期の男女への「彼女(彼氏)いないの?いい人紹介してあげようか」などという家庭や職場の外圧がなくなってしまい、未婚者に対しては腫物を触るような扱いになってしまった。

 つまり結婚するもしないも、子どもをもつももたないも本人たちの自由、という多様性への理解がじつは少子化に拍車をかけていると考察する。

 政府や自治体も「街コン」等、男女の出会いの場を提供する努力はしているようだが、いかんせん恋愛や異性との交際が苦手な人には積極性がないケースが多いため、なかなか参加者を集めるのにも苦労しているとも聞く。

 いわゆる社会としての成熟性と反比例して非婚化・晩婚化が進むのは程度こそあれ先進国の呪縛と言えるかもしれない。


(出産数低下の原因)

 非婚化・晩婚化によりただでさえ人口増加に必要な分母が激減している中、結婚した夫婦たちもかつてのように多くの子どもを望まないケースが多い。

 戦後や高度成長期には四~五人兄弟(姉妹)あるいはそれ以上のケースが多かったのに対し、現在はスタンダードが一~二人、多くて三人という子どもの数なのではなかろうか。

 大きな理由としては、高度経済成長期のように給与が右肩上がりにならず、何なら食料費・諸経費等の高騰で生活の先行きが見通せないという家庭が多いということだ。

 逆に共働きの比較的経済的余裕のある家庭でも、「子どもにお金をかけてあげたい」とお受験のための学習塾や習い事に多額の支出をしたりする。そうなると塾や習い事の送り迎えやバックアップに夫婦の時間が取られ「もう子どもは一人でいいや」となったりする。

 また経済的には余裕があるので、夫婦の時間、子供と過ごす時間を豊かにしたいと多くの子どもを産むより、旅行や遊興に時間やお金をかけたいとの傾向もあるだろう。

 また深刻なのは不妊に悩む夫婦も多いという点だ。晩婚化等によりなかなか子どもを授からない夫婦は不妊治療を受ける。これがとくに女性には肉体的精神的にかなりの負荷がかかると同時に、治療費がかなりの高額になることも重なり、めでたく第一子を授かったところで次の子をあきらめざるをえなかったり、多くは不妊治療の多大な各面の負担に耐えられず子をもつことをあきらめるケースもある。国も積極的に経済支援を行っているが、こればかりは身体的心理的な問題にも比重がかかるため、どれだけの効果が期待できるか未知数であろう。

 現在では明治~昭和期と産業構造が変わってしまっているため、子どもを家庭内での労働力(農業従事や家事従事等)とみなさなくなって久しい。したがって少数の子どもでももつことのできる夫婦は「裕福だ」ととらえる層もいる。家庭内の人間関係、経済状況、時間的余裕等が整わないと、とても子どもを産み育てる余裕はないというのだ。

 海外セレブや国内芸能人たちが高級な洋服を着飾らせて、自慢の子どもをSNSにアップする様子はあたかもアクセサリー自慢のごとくである。

 一億総中流家庭という概念が不況と規制緩和により崩壊し、貧富の差が大きくなるばかりの現在で、子どもは貴重な未来の労働力・消費の担い手から「親のアクセサリー」に堕してしまったのか。


 (少子化の解決にむけて)

 悲観的な未来を展望するのはたやすい。誰しも一寸先は闇である。だからといって未来をあきらめるのは得策とも思えない。「禍福あざなえる縄のごとし」とは言ったもので、一人で生きていくのもリスクは低いが、リスクや責任が大きくなるとはいえ家族を構成するのもいいことや楽しいことだってあるということだ。

 ゼロか百という極端な思考さえ棄てれば、贅沢な暮らしをしなくとも夫婦と子どもでつつましい生活を送ることは国の制度上も可能である。

 多様性重視の世の中。LGBTQ等や不妊の人たちのように実子を望めない(養子や代理出産は可能)ケースを除いて、結婚し子どもを持ってみたいという人たちは数多く存在

する。

 少子化傾向を上向かせるカギは彼らに「えいや」と交際→結婚→出産に踏み切らせるきっかけが必要だ。

 若者の草食化、晩婚化、長引く経済不況は相変わらず少子化改善の大きな壁として立ちはだかっている。

 景気は意外と消費者のムードで上向くことがあるという。三年続いたコロナが二類から五類に緩和され、国民がマスクを取ったとき気分が明るくなるかどうか。

 はたまた政府による「異次元の少子化対策」という未知の政策で、子どもを産んでみようという夫婦が増えるのか。

 一度少子化という禁断の果実を受け入れた国民が、自分の時間が削られ、労力もお金もかかる子育てに積極的にチャレンジするだけのモチベーションをもてるのか。

 恋愛、結婚、出産、子育て(最中)の私が再度出産と子育てに挑戦する気力はもはやない(恋愛と結婚に至ってはさらに再度挑戦はしたくない)。

 我が家は私と妻、娘一人の三人家族なのだが、三人が三人とも一人っ子である。娘に至っては「一人っ子のサラブレッド」と称しても問題はない。そう考えると私は少子化改善に協力できかねているとも感じるが、妻が店舗を自営していることや、私が交通事故禍による頸椎ヘルニアとパニック障害に罹患しているため子どもの二人目はあきらめたという経緯がある。そう、どの家庭にもそれぞれの事情があるのだ。

 独身でいる人も病気の家族の介護をしているケースもあるだろうし、先述した、望んでも子どもを授かることができない夫婦のケースもある。LGBTQの人のように子どもを自分で産めないケースもある。

 そのように成熟した社会で、多様性と福祉を両立させながら少子化を改善させることは種々の困難を個別に克服しながら達成しなければならないデリケートな問題だ。

 暮らしやすい環境を整備し、誰もが安心して子どもを産むことができる未来であれば、政治も経済も連動して上向く明るいものだと信じて、これからを見守りたい。

                  終


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