アブジェクトな風景
こっちの世界に来たら、すぐに気が付いた。この世界はめちゃくちゃだ。太陽が赤く光って、空気が薄くて臭い。そんな中、私は歩き回っていた。周りには奇妙な生き物がいて、顔はなくても声があったり、腕があっても目がなかったり。そんな生き物達が、私に話しかけてくる。でも言葉は分からない。それでも、なんとなく意味はわかる気がする。私も、彼らと話をしてみたかった。だけど、どうすればいいのか分からない。私はただ、歩き回って、気持ち悪い感覚に苛まれた。私の体が重くて、動かしにくい。いつまでこの世界にいなくちゃいけないのか。もう、帰りたい。でも、帰れる場所がどこにあるのか、それすら分からない。このまま、この気持ち悪い世界で、ずっと彷徨っていくのか。もう、限界だ。
―――トドメの音が、身体に響いていた。
モグモグという音も、耳元で響いていた。
それは、踏んづけられた、肉の音だった。
「ほらほら、そんな顔すると、食いつかれちゃいますよ~。」
顔を上げたら、そこには、赤黒い、その男の顔があった。
口元は、血塗れで、舌が、唾液を撒き散らしていた。
「食べるわけじゃない。」
言いたいことは、わかっている。でも、身体は、逆らえなかった。
その男が、近づいてくると、胸が騒ぎだした。蝿が、飛び交うような臭いが、鼻腔を塞いでいく。でも、それでも、その男を、見つめてしまう。
「だって、美味しそうに、見てるじゃないですか~。」
その男が、口元を舐めると、腰に手を回された。
力が、抜けていく。
そして、その男が、頬をすり寄せてきた。
「いいですか~?」
耳元で、囁かれた言葉は、意味不明だった。でも、何故か、背筋が震えた。
「ええ、いいです。」
答えた瞬間、その男は、笑い声をあげた。そして、身体を、覆っていた闇が、一瞬にして、
消え去った。