足りない感情
こんばんは。
シリーズが章で別々でもわかるようにしようと努力しても、
やっぱり長編なので過去回想になるとそうもいかない。
せめて全部一から番号降り直すかなぁ。
※
ロイ・フェリシア・ラーディア。
サナレスのかつての親友ロイの血を色濃く引く彼は、見事な銀色の髪をしていた。
ラーディア一族の純粋な貴族、フェリシア公爵家の跡取りとして彼は育ってきたはずだった。例えラーディア一族で銀髪の民が忌み嫌われる存在だったとしても、ルカとレイトリージェの子は王族であるサナレスが認知した。
絶対に軽んじられるはずはないはずだった。
ロイは神官長にまで出世し、神殿に出入りする身分にまでなっていた。
サナレスはそう信じていた。
だからロイが、リンフィーナとラーディオヌ一族の婚儀を邪魔しようと画策してきた時、サナレスは違和感を拭い去れなかった。
そして彼の母、レイトリージェが自害して彼と顔を合わせた葬儀の日のことを思い出したのだ。
いや、それはリンフィーナをジウスから引き取った時に遡る記憶だ。
銀髪のリンフィーナを自分の妹として引き取ったサナレスの元を、レイトリージェは訪ねてきた。
「おめでとうございます、妹姫様が誕生なされたとか?」
西の棟に執務室を持っている自分を訪ねてきたレイトリージェは、祝いの言葉を言いにきたようだった。
その時リンフィーナは1歳になるかならないかの幼さで、ジウスが子育てしている体裁の悪さより、せめて自分が引き取った方がいいと思い、慣れない子育てに奔走している最中だった。
仕事をしていると自分の髪の毛をつたがわりにしながら這い上がってきて、からみついてメガネを外される。目を通す書類はヨダレでベタベタにされる。起きている間、少しでも目を離すと、物を壊す。下手すると怪我をして泣き出す始末だ。
レイトリージェが執務室を訪ねてきた時、サナレスはリンフィーナを自分の体に紐で縛り付け、半分ずり落ちた眼鏡をかけ、ボサボサの頭で対応した。
「ああ……君か」
仕事以外の日常に追われていたあの頃、サナレスは幼馴染のレイトリージェがやってきて気を許した。
「サナレス……、妹姫が誕生したとは聞いていたけれど、まさか貴方が養育しているの!?」
自分とリンフィーナの様子に目を見張ったレイトリージェは、唖然として眉間に皺を寄せていた。
「ああ……」
憔悴しきった声を出し、助けてくれと泣き言の一つでも言いたかった。
「王妃セドリーズ様は? 何だってサナレスが養育……?」
「理由があるんだ。だからもてなしてはやれないぞ。茶が欲しければ使用人に言え。その辺のものなら勝手に食べてもいいし、飲んでもいい」
サナレスは長い髪にベトベトの指で絡みついてくるリンフィーナを何とか寝かせようと必死だった。
「もてなしなんて要らないわよ!」
「頼むから静かに」
サナレスはレイトリージェに懇願した。
子供という悪魔は、寝れば天使。そんなふうにリンフィーナのことを思っていた。
「あなた目の下のクマひどいわよ……」
「寝れないんだ。それに仕事に集中させてもくれない。子供って鬼畜だな……。暴れまわるし……泣くし……」
「抱き方が優しくないんでしょう……。あなたけっこうゴツいし……」
レイトリージェはサナレスからリンフィーナを抱きとり、彼女の胸の中で揺らして見せた。
途端、泣きながらぐずっていた暴れる悪魔が、大人しくなった。
「お?」
サナレスは助かったとばかりに、全身で項垂れた。
「ーーさすが、母親だなぁ」
セドリーズもリンフィーナを上手にあやした。女というのは根本的に母性を備えているらしく、太刀打ちできないことを思い知らされる。
レイトリージェはリンフィーナをあやしながら吐息をついた。
「ーーもしセドリーズ様が皇女の面倒を見れない何か理由があるのであれば、サナレス……、あなたが身を固めるときかも知れないわよ……。私はーー」
そのときサナレスは、レイトリージェの言葉に聞く耳持たないで笑ってしまった。
「おまえまでそんなことを? 私は生涯、ムーブルージェを裏切らない」
母セドリーズから何度となく持ちかけられた縁談に辟易していたサナレスは、すんなりと自己主張する。
一度ムーブルージェから背を向けてしまい、そして彼女の限りある命の時間を無駄にした。過去の失態は悔いても悔やみきれない。
「裏切らないって、サナレス……」
サナレスはレイトリージェの腕の中で眠りかけているリンフィーナを自分の胸の中に抱き寄せた。
「言い方が違うな。ーーレイトリージェ、私は今もずっと、ムーブルージェを愛している」
またリンフィーナが泣き出した。
「あなた……ねぇ。相変わらず臆面もなく……。あなたが姉様を好きなことぐらいわかっているわ」
「事実だから仕方ない。おまえの姉以外、私の心を魅了した女性はいない」
顔を真っ赤にして暴れ出し、腕の中から落ちそうなリンフィーナに意識を奪われながら、サナレスは本心を口にしていた。
「王族の皇太子だというのにーー、後継だって望まれているのに、あなたって人は……」
だからサナレスはレイトリージェの絶望に気づくことはなかった。
彼女の自害の理由、そしてロイが革命軍に入るほどになるまで、こじれてしまったフェリシア公爵家について、サナレスは想像もしなかった。
今、この瞬間までーー。
「サナレス殿下、私は貴方を父と呼びたかった。そして私にそう思わせてきたのは、誰よりも貴方を愛していた母レイトリージェなのです」
言葉が出なかった。
ムーブルージェのことを考え、ずっとレイトリージェの気持ちに気付かぬふりで、背中を向けてきたのはサナレス自身だったのだが、感情のもつれ具合が複雑すぎた。
私は彼女の姉を愛していて、彼女には自分の親友ルカとの子供が、今目の前に成長して立っている。
「ロイおまえは、私が誰よりも敬愛する親友、ルカを知らない」
今更おまえの父になるなどあり得ない。
だってもう、レイトリージェは死ぬことを選んだ。
そしてムーブルージェだって、この世にいない存在だったから。
自分の夢のためにムーブルージェを選ばなかった過去と、その後悔からレイトリージェの思いを退けてきた過去は、サナレスが犯した罪だった。
「私のようなものは、おまえの父になる資格はない」
ロイを拒絶した。
結局のところサナレスは親しい人間関係が苦手だと自覚する。リンフィーナとアセス、再び得た絆ですら、自ら避けて1人になろうとしてしまった。
とんだ欠陥人間だな……。
感想、足跡、コメント、評価、ブクマが次の活力に。
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