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歌声がつむぐ選択肢  作者: 一桃
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視界の最後

こんばんは。

そろそろ終わり、と思っていたお話ですが、本日いったん終了です。

この話もかなり楽しんで書いていました。

お付き合いいただいている方には感謝申し上げます。


シリーズ長編です。

後書に読む順番を常に載せています。


        ※


 言霊、発動!!!

 精霊界において、言霊という契約はかなり有効になっていることを察していた。


 人間界においては言霊なんてクソ喰らえ!

 契約書が命なんだよ!

 サナレスは口の端でほくそ笑む。


 どれだけそれが履行される前提で話されていても、契約がなされていなければそれは無効なんだってこと、アセスを含めヨアズって人も理解していないようなんだ。

 それがサナレスが見つけ出した、ひとすじの光だった。


「これでいいアセス。お前は今、冥府から解き放たれた」

 サナレスは叫んだ。

「逃げろ! ーーヨアズの、いや冥府の手の届かない生者が中心のどの世界、どの時代でもいいから、逃げれば勝ちだ!」

 レテの川でもなんでも飛び込んでしまえ。それでアセスは救われる。


「なぜ? こんなところで!? こんなところで私たち2人が逃げて、どこに生まれ変わるともわからないし、どれだけ時間をロスするかもしれなくて!! もう彼女と、リンフィーナと二度と巡り会えないかもしれないのに、生まれ変わるっていう逃げる道を行くなんて、私にはわからない!!」

「そうだな、アセス」


 わかんないよな。

 サナレスはうだうだ言うアセスの手を引いて、レテの川を目指して一目散に逃げていた。


 一国を背負うべき者の責任感において、多分ありえないほどいい加減だ。


「サナレス!!」

「身分、立場って、単なる役割だろ? いのちをかけるほどのものじゃないよな? 冥府で犠牲になるってことは、お前か私の命を賭けるってことだ。私がお前の身代わりに? 冗談じゃない! それにお前が私とリンフィーナの犠牲にだって? それだって冗談じゃないんだよ!!」


 ムーブルージェの歌声は、ルージェが受け継いだ。

 人って、命をつなぐことが一番大事なんだ。


 経験はない。

 自分の子なんていなかった。だからわかるには時間がかかってしまった。

 でもレイトリージェはロイと言う、ルカの命を繋いでくれたし、ルージェもその血脈を受け継いだ。


 ルージェの歌を聴いたとき、遠ざかっていた過去が蘇った。


 命を繋げない人は、たぶん何か他にやり残したことがあるんだろう。


「なぁアセス、おまえは異世界で別の人生をやり直したけれど、こっちの世界の私やリンフィーナを忘れなかったんだろう?」

「それは詭弁きべんです。奇跡です。私だってもし、次にこっちの世界に戻れなかったら……」


「ーー戻るんだよ。ーー私は戻る。どれほど遠まわりになっても、どれほど時間がかかっても、どれほど時空軸で捻じ曲がっても、私は戻る。おまえを犠牲にしたり、私を犠牲にすることで私達の魂をいびつに冥府に縛るくらいなら、何度でもリンフィーナと出会って、彼女を好きになる可能性に賭けることができるからな」


 ラーディア神殿から追ってくる者たちを振り返ると、その視界には体がうねる蛇女と、頭の数がやたらと多い怪物犬くらいだった。

 これが追ってかと思うほど、非常に手薄だ。

 思った通り、冥府は危機感が薄い。要するに人材不足であるようだった。


「サナレス、あなたって人はねぇ!」

「いちお。先に飛び込んでやる。前に冥府に骨を埋めるだなんて、全くもってくだらない決断をした自分を恥じて、私に続け。ーーそして、絶対にまた再開するし、また三角関係で勝負しよう」


 生まれ変わるってことは、全部がいったんゼロにする行為だとわかっていた。

 だから煉獄の地獄を力づくで超えても、リンフィーナの元に帰ろうとした。でもアセスを冥府から連れて帰るなら、これが最善策なのだと判断していた。


 少しだけ後ろ髪を引かれる。

 ルカと一緒に、自分が犠牲になって冥府を引き受けたなら、未来はどうなるのか。ずっとルカを見守ることができて、アセスを冥府から遠ざけられたのか?


 でも違う。

 その決断には、どこかに遺恨が残る。


 ルカにいつまでも冥府にいてほしいわけではないし、アセスとの勝負も勝手に自分の中で想像するばかりになってしまうのだ。

 自らがとる行動如何で、違う未来を行く通りも考えたけれど、サナレスは結局全てを否定した。

 正攻法、つまりいっさいの後ろ暗さを払拭するには、時間を犠牲にし、運命を信じる他なかったのだ。


 only your song。


 あなただけの歌を歌える血が、つまり彼女の子孫が引き継いた歌を聴いたとき、きっとその、あなただけの歌と、血脈に気がついて、惹かれるはずだ。

 どれだけ時が流れても。

 歌ってくれ。

 気がつくから。


 リンフィーナと刻んだ記憶も、アセスがそばにいた記憶も、歌以外の部分、匂い、空気、触覚、味覚、聴覚、五感で感じるんだから。

 五感を解き済ましていれば、きっと。

 歌が聞こえる。


 レテに飛び込んだサナレスは、足先から溶かされていった。

『サナレス!』

 かつての親友が心配したのか、サナレスに足を向けて近寄ってくる。

 サナレスはルカの手をしっかりと握った。


「よぉ久しぶり。おまえも、生まれ変わって先に進もう」

 サナレスはアセスを連れては行かない。ルカをレテの川に引き摺り込んだ。


 首から下が溶けてしまい、顔の半分だけサナレスの容姿を保っていられる状態で、サナレスはアセスをもう一度誘ってみた。


「恐れるな。昔聞いた音楽のように、私たちは友だろう? 記憶がなくなっても、どれほど生まれ変わっても、きっと思い出す。冥府なんて縛られる場所ではなく、単なる新たな命の旅の発着点に過ぎない」


「ですがサナレス。天災は? 今現状の危機的な状況は?」

「ああ、それね。結局私たちが冥府の時期後継人を継ごうが継がなかろうが、天災を止められる保証はどこにもないんだから、気にする必要なんてないだろう?」


 勢いのままには飛び込めないアセスは迷っている。

 このまま冥府に置き去りにしたくない。

 でも彼を無理に連れてはいけない。

 結局アセスが、どう判断するかだった。


 体は溶け出して、傾いた顔面の左目だけが、アセスに残せるメッセージだった。喋ろうにも瞬く間に口が溶けてしまって、気持ちを伝えることができなかった。


 でも最後まで、アセスを見る眼差しには力がこもった。

 今まで百年以上生きてきて、思い出したことがあったからだ。


 日夜サナレスは研究をした。

 電気の他、鉄道を含め流通を盛んにして、領土に潤いをもたらしてきた。ものづくりは楽しかった。王族でなくとも安定的に稼げる方法を考えたし、王族ではなくなった場合のことも考え、富を築いた。


「でも、死という再生を前にして、何も持ってはいけないんだなぁ。ーーでも忘れない者達がいる。その記憶が、また生まれ変わる活力をくれる。ーー私たちは、忘れない。どこかで覚えている」


 歌が聞こえた。

 ルヴィ?

 いや。

 ムーブルージェだろうか?


 記憶は音に、音楽に刻まれて、そのメロディや歌詞を聞くと切なくなる。

 生まれ変わって、経験した記憶であることすら忘れていても、とても切なくなる歌に出会う。


「サナレス!」

 アセスが決意したように、レテに飛び込む。

 それを見たのが、この世の最後だった。


 サナレスはアセスの手を握った。


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー


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