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歌声がつむぐ選択肢  作者: 一桃
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仕掛けられた罠、仕掛けた罠

こんばんは。

本日テニススクールにつき、木曜は更新しても遅い時間。

楽しみで書いている小説と、楽しいテニス。

木曜、アフターは充実している。


お付き合いいただいている方、ありがとうございます。

        ※


 百年経っても未だ自分は子供っぽいものだと、サナレスは心の中で苦笑する。かつての親友ルカも、目の前のアセスも二十歳そこそこの年齢なのに、大人だったな。彼ら2人が感情的になったことをほとんど見たことがなかった。


「サナレス、怒っていらっしゃるのですか?」

 アセスからそう言われ、サナレスは自嘲する。だが見苦しく否定するのは好まず、そっぽを向いて言い放った。

「ああ、怒っている」


「ありがとうございます」

「感謝される言われはない」

 アセスの素直さが眩しくて、サナレスはこいつには敵わないと吐息をついた。


「行こう。お前を冥府に残して置けるほど、私は寛大にできていない。ヨアズにそれを申し渡す」

 そうしてサナレスはアセスと一緒に冥府に確立されたラーディア神殿の門を潜った。


 門から先を案内したのは、一つの体に三つの頭を持つ犬のような怪物だった。

 アセスはその怪物の頭を順番に撫でている。


「お前の柔軟さには驚かされる。凶暴ではないのか?」

「冥府の法をおかさなければ大丈夫でしょう。あとーー、私はリンフィーナから馬術を教わって、動物に興味を持ちました。貴方も馬を大切にされていましたよね?」


 馬と怪物じゃ、全然違う生き物なのだけれどーー。

 心なしかアセスが楽しそうだったので、その辺のことはツッコまなかった。


 この世のラーディア神殿にも存在する謁見の場は、冥府にも健在で、サナレスはそこで初めてヨアズに会った。


「ーー」

 サナレスが愚かにもジウス様と呼びかけてしまいそうなくらい、双子であるヨアズはジウスそっくりだった。

 双子といえど、一千年ばかり生きて来た世界はまるで違い、それなのにこうも似ていられるものかと違和感すら覚えた。まとう空気、雰囲気そのものがジウスそのものだ。


 だからサナレスは、「ああ苦手だ」と声には出さず呟いてしまった。


「ジウスの子、サナレス。お前がここに来るのを待っていたよ。会えて嬉しい」

 自分がここに来ることを見越していたかのような、全てを見透かしたその銀色の瞳が、ジウスのそれと重なってしまう。


「ジウスの子などと私を言うなら、叔父うえと呼んだ方がよろしいのか?」

「必要ない。ジウスとは血の関係を絶った」

 つむぐ言葉の全てが冷たい。

 目の前の男は、ジウスを嫌い、自分のことも同様に考えている。


 では遠慮はたがいにいらないのだろう、とサナレスは思った。

「貴方の目的が何かはわかりませんけれど、私はここにいるアセスを冥府から連れ帰ります。契約は反故にしていただきたい」


 ふう、と気だるげにヨアズが首を横に傾ける。地を這うほどの漆黒の髪が少し位置が変わるほども、ヨアズは表情を変えなかった。

「其方は、アセス殿と私が交わした契約を無効にしたいと?」

「ええ」


 この手の相手をいくら睨んでも、なんの効力もありはしなかった。こちらが熱くなればなるほど、相手は冷めてしまう。

 心得ているはずなのに、ジウスと目の前のヨアズを重ねて、自分の気持ちも理解しろと眼差しに熱がこもった。


「では、その対価は? サナレス・アルス・ラーディア?」

 ヨアズは問うてくる。

「ソフィアを、冥府に帰すか?」

「それは本人に交渉してくれ。私は彼女の意思に関与しない」

「ーーでは、お前は何を私に帰す? ソフィアの体神、リンフィーナか? 純粋な若い魂、それも面白そうだが……」

 ヨアズが言い終えるか否かの間に、サナレスは殺気だって自分の拳を振り上げそうになっていた。だがアセスが横にいて、サナレスの手首を掴み、必死で抑えている。


 冥府にあって、冥府の王は絶対だ。

 喧嘩をしていい相手ではないことはわかっていた。


「体神のような、くだらないものでもないと?」

 サナレスの拳が震えて、アセスの力が緩む。アセスの感情ですら乱れていくように感じた。


「ヨアズ、私が貴方と契約した理由を軽んじるのは、私自身が許せない」

「許せない? ではあなた方2人が、そろって私をこの任から解放し、死なせていただけると解釈していいのですか?」


 いっそそうしてやりたいと思ったが、アセスはサナレスを見て首を振った。

「冥府を統治する者が不在になれば、私がしたことですけれどーー、監視者を不在にしたどころの騒ぎではなくなります。たまに異世界を行き来する魂を見過ごしてしまう失態だけでは済まない。冥府の怪物が、あらゆる異世界に行き来してしまうでしょう」


 このところの地震、地層変動という騒がしさと、解決できない疫病はそれが原因なのだろうか。不穏になった日常を思い起こせば、アセスのいうことは理解できた。


「では、ヨアズに聞きたい。アセスと等価交換できるものはなんだ?」

 どんな無理難題を言われても、用意できないことはないとサナレスは思った。商人と関わり、サナレスはそうやって交渉で苦難を乗り越えて来たのだ。


 とたん、ヨアズは空気だけで笑った。

 いや、そのように感じられた。


「あなた自身ですよ、アルスの血を濃く弾く、サナレス。ーーあなたです」

 驚きはしなかった。最悪のことを考え、ここに来たから、サナレスも少し笑ってしまった。このような予感的中は、嬉しいとは言えない。


 これにはアセスが黙っていない。

「それはいけない。この方はアルス大陸にとって必要不可欠な方です。私とは違います。リンフィーナをーー」

 頼みます。

 頼んだ人です、と。

 その懇願する視線が痛い。


「ヨアズ、あなたのこれまでの言い分はわかった。ソフィアを戻すか、アセスか私のどちらかが冥府を背負うのか。他にはあるか?」

「ーーない。これだけだ」

 答えるまでに少しの間があったことをサナレスは見過ごさなかった。


「神に寿命はないなどと、誰が言い出したことなのかは知らない。けれど人の魂は老いていき、いずれ死にたいと思うようになる。それが自然です。死にたいと眠りたいは、我々にとって同義なので、其方が眠っていたソフィアを目覚めさせたことは、神の休息を妨害したことになる。それだけでサナレス、其方は罪深い」

 責任をとれと言われていた。


 アセスは、一体何をネタに次期統治者を引き受けることになったのか?

 アセスのことなら、多分かなり、天秤にもかけられないような瑣末なことのような気がしてしまった。


「最初に言いましたよね。私は、何度も同じことを口にする無駄な時間を好まない。私はアセスを冥府から連れ帰ると言った。ーーということで結論ですが、私が代わりを務めれないいと。アルス家王族ということなら納得してもらえるんだったかな?」

「いけません!」

 アセスが珍しく、声色を変える。


 ヨアズだけが楽しそうだった。

「それは願ったり叶ったりだ」

「ようやく本音になっていただいたようですが、何がぁ?」


 ジウスへの復讐。

 ヨアズの目的は多分それの一択だった。


 わかったからこそ、この場においてジウスの子と自分に呼びかけたサナレスは、自分が彼にとって最上級のエサであることを認識した。


「いいだろう。サナレス、あなたが手に入るなら、アセス殿との契約は不履行にする」

 

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー


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