先導役に頼むこと
こんばんは。
また、仕事帰りいっぱいやる親父のように、小説を書いております。
楽しみで書いていますので、まとめて気が向いた時に誤字脱字を訂正したり、言葉を足したりしています。
お付き合いよろしくお願いします。
反応や感想は真摯に受け止めますので、何かありましたら、反応やコメントください。
※
レテの川を走り出した小舟は小さい。手を伸ばせば水面に手が届くほどの小舟で、積載最大人数は5、6名で限界だ。
いや。その大小が問題ではなかった。これくらいの大きさの船にも何度か乗ったことがあるサナレスは、違和感を感じずにはいられない。
まずもって川の流れ方が全く違うのだ。
水が重い。ねっとりと重く、例えるならばシチューのような密度の濃い液体の中を進んでいるような気分になる。
しかもさっきからーー。
ごつ、ごつ。
船の前後左右にぶつかるモノがあった。その度に船が方向をずらし、穂先を傾けるほどに揺れてしまう。
ぶつかってくるものを最初確認しようと注意を向けたサナレスだったが、一瞬の判断でそっぽを向いた。目にして気持ちのいいものではなかったからだ。
「生物って、高熱の湯で茹でられ続けるとこんな感じになるんでしょうね……。人間のシチューです」
「ーー感慨深い感想を言っていられるおまえの神経を疑うよ」
案内人を引き受けたアセスは、情緒のどこかが壊れている。
普通ならレテの川を見ただけで恐怖だろうし、そのグロテスクさに嘔吐を覚えるはずなのだが、アセスこの男、過去に自らの意思でレテに飛び込んだと言っていた。
ちょっと考えられないーー。
それが正直なサナレスの感想だった。
目玉、骨、溶けかかった肉体、藻のように見えるけれどそれはおそらく、人の毛や獣の体毛だ。そんな雑多な魂のかけらが入り混じって流れる川を小舟で進んでいるけれど、サナレスから言わせれば肝を冷やさない人の方がどうかしている。
「ひどい。ーーよく、ここに飛び込んだものだ……」
「ええ。冥府では魂の感覚だけが残るんですが、この川、臭そうですよね」
「ーーそう言う意味ではない……」
アセスは自らが溶けて流れていくことを恐れなかったのだろうか?
サナレスは額に手をやって頭を抱える。
「私だって落ちなければいいと思っていましたよ。でもこの川って不思議なもので、落ちたくなる理由が用意されているんですよ。ご丁寧なことに、人によって様々違う理由が幾重にも」
そう言ったアセスは、「ほら」と言って対岸を指差した。
「貴方を足止めする役割の御人が、早速あちらで手招きしています」
サナレスは目を細めた。
アセスが指差したところにいたのは、女2人だった。
サナレスは硬直する。
「ムーブルージェ!」
久しぶりに彼女を見た。
会いたくて、恋焦がれ続けて、もうその姿ですら自分の記憶の中で姿を変えてしまっていそうだったが、一目見て彼女だとわかった。そしてその横にいるのは、彼女の妹のレイトリージェだ。
手招きなどはしていない。サナレスそっちのけで、遠目に2人は言い争っているように見えた。
「何を……。幻覚なんだろう……?」
サナレスの問いに、アセスは「そう思うのがいいでしょう子」とさらっと答えた。
気になるじゃないか!? 余計に……。
「2人は何を言い争っている?」
「聞きたいと思うなら、耳をすませば聞こえてきます。私としては、聞かない方がいいとだけ申し上げさせていただきますけれど」
この川のトリックは、アセスが言うには意識を取られて落ちてしまうだけのものに感じられた。アセスのアドバイス通り、気になっても幻覚だと遮断して、先に進むのが正解だと考えられた。
でもなぁ。
人って気になったら理性ではわかっていてもパンドラの箱を開けてしまう。
それがサガというものだ。
サナレスは意識を傾けた。
最初聞こえなかった言葉が、頭の中に流れ込んでくる。
「どうして自害なんか!? 貴方が冥府に落ちるなんて、私は……、思いもしなかったのに……」
ムーブルージェが喋っていた。
「そんなの私の勝手でしょ? どうして姉様はここにいるのよ。会いたくなかったのに。私を放っておいて!!」
激しい口調で感情的になっているレイトリージェが話す内容が聞こえて、サナレスは吐息をつく。
「成仏できない女2人が、冥府で路頭に迷っているようですね。サナレス、あなたへのトラップがまず最初に言い争う女2人だなんて、実にーー貴方らしい……」
アセスに完全に誤解されているらしく、心なしか彼は冷たい視線を向けてきた。
「私の幼馴染だ」
姉妹である彼女らは、仲違いしていた。記憶の限り彼女達は仲の良い姉妹だったのだけれど、自分とムーブルージェが一夜を共にして、その後ムーブルージェが息を引き取るまで、その関係はおかしくなってしまったと聞いている。
「これは幻想ではないのか?」
「冥府というのは魂、つまり意識しか存在しません。ですからここに現れるものは、単に意識です」
「では本当に彼女達だというのか?」
「うつろいやすいものですが、一瞬一瞬、切り取られた場面は、本物ではありますよ」
言葉通りに受け止めると、ムーブルージェは死してからもなお、妹レイトリージェのことを気に病んでいたらしい。だから成仏できずにここに留まっている。
「まさか貴方が自害するなんて」と、自分と同じようなことに驚きと憤りを隠せないようだ。
「私はね、サナレスの側で生きていたかった。それなのにできなかったんだよ。どうして貴方は、それができるのに自害なんてしてしまったのよ!?」
ムーブルージェが発した言葉はサナレスの胸につき刺さる。自分だってムーブルージェと永遠の時間を過ごしたいと願っていたからだ。
「どうしました、サナレス? 船に手をかけて身を乗り出してはいけませんよ」
いきなりグラリと船が傾き、アセスによってサナレスは船の中央に引き戻された。
「だから言ったでしょう? 聞かない方がいいのです。体勢を崩します」
今落ちようとしていたのか?
それを認識し、サナレスは口元を手のひらで覆った。
「あと、ほら」
そういってアセスは汚いものを摘むように、彼の神経質な指先でサナレスの手首に付着したものを摘む。
それは人の手指だった。
溶けかかって、半分が白骨化しているけれど、自分の手首をガシッと掴んでしまっている。
「落ちようとした者に、生命の可能性を感じてすがりついてくる輩もいますので、用心してください」
サナレスは息を呑んだ。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
シリーズの8作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




