過去は様々な角度から
こんばんは。
今日も書いています。次の回も、その次の回も書いていますが、UPする順番が今ではないと、
先ほどこの回を書き終えました。
誤字脱字はのちに訂正します。
お付き合いよろしくお願いします。
「私はとんでもない間違いを犯した」
千年生きたジウスよりも、更に長い、永遠とも言われる時代を生きてきた太母ラァは、目深にフードを被り、老いた姿で独白し始めた。
今を生きるサナレス達にとっては、時代が違いすぎて既に神話だ。
以前ジウスから彼の兄の話を聞いた時ですら、千年前の話で現実味を帯びなかった。
その時ジウスから聞いた双子の兄ヨアズの名を思い出し、サナレスはラァに聞いてみた。
「それはヨアズ様のこと?」
サナレスにとっては叔父に当たる存在だった。
「それも関係するけれど……、そもそももっと前の時点で私は大きな過ちを犯した」
朝から飲む酒の重みはどれだけ身体を蝕むあ(むしばむ)のか知れなかったけれど、幸か不幸か、アジトは地下にあり、朝の光さえ届いていなかった。
革命軍とは言っても資金繰りには苦労しているようで、集う場所は粗末な酒場で、栄華を誇った太母ラァが背中を丸めるにふさわしい場所で、サナレスは憐れむ気持ちを変えるためにまた少し酒を飲んだ。
「史実に残る功績を残したあなたを、今もなお、お心を悩ませるのはいったいどう言うことなのでしょう? 私には想像もつきません」
遠見のラァ。
人と神を隔てるには、神に対して相当厳しい選別があり、人の期待を裏切った神には残酷な処罰がなされたという。彼女は遠見の力で生き残った、わずか一握りの偽りの神々の教祖なのだ。
「あなたの遠見ーー、未来予知の力や雨乞いの力、確率論において、私もそれは本物だと思っておりますよ」
「確率とは、おまえらしい……」
ラァは笑う。
「それってそもそも疑ってかかっているし、普通より確率が高かっただけだと言いたいだけだろう?」
「言い換えればそう言うことになりますが、ーー過去に私はそんな貴方を頼ったことがあるのですから、馬鹿にできないと思っております」
サナレスは続ける。
「コインを投げて、裏と表が出る確率は二分の一。回数を増やしていけば、必ず二分の一に近づいて行くのが本来ですが、二千年近く確率が収束しないのには、何かが干渉していると考えてもいいのでは? 私はそう思います。人の子はそれを神の力だと言ったのでしょう?」
「収束しない確率が神の力だということ自体、おまえは異端で、不遜だな」
「申し訳ございません」
よい、とラァは諦めたようにため息をつく。
「おおむねお前は正しいが、知らないことも多い」
「そこについては最近、思い知るばかりですラァ様。今までの自分の見識がいかに狭い世界であったのか、百年ほど生きてやっと思い知るばかりです」
「たった百年で気付くなんて、私からいえば脅威だが……」
「わずか二十年ほどで気付く者もいるのです」
サナレスはラーディオヌ一族総帥であるアセスの才能に敬服するばかりだった。
「魂はとどまらず?」
ずっと生死の境を見てきたアセスは、世界の理に近づくスピードが早く、サナレスは百年以上かけて、やっと知ることになった。
「ヨアズ・アルス・ラーディア。私の子、ジウスの双子の兄、彼が統治することになった黄泉はもう、偽りの神の領分ではない」
ラァの後悔は重々しい口調から明らかで、サナレスは彼女に更に酒を注ぎ足した。
「ラァ様、貴方は太母ですが、その血は透明ですか? それとも真っ黒なんでしょうか?」
赤いのであればと更に言葉を足していく。
「貴女の血も赤いならーー、私の血も赤いので、そう違いはなく、貴方がそれほど1人で世界の過ちを背負う必要はないと思います」
神人とはいえ、所詮ただの生命体なので、責任をとれる範囲は限られている。
「それなのにどうして今になって革命軍なのです?」
「ヨアズがもう長くない。それにジウスももう長くはないのだ」
少しだけ予期していたこととは言え、サナレスは噛み締めるような深いため息をついた。
「2人はそれを分かっていて、そんな時にまた魔女ソフィアが目を覚ました」
ラァは指先を震わせている。
後悔より、恐怖という感情が彼女を支配していて、遠見の彼女にはいったい何が見えたのだろうかと、サナレスは考えてしまう。
「千年前の地像変動による危機的状態は、魔女裁判後直後に起こったことだ。ソフィアは呪った、彼女を火炙りにした者のことを忘れず、王族を呪い、双子の皇子を未来永劫引き離してやると、魔女は呪った」
銀髪の民が敬遠された発端はそこから始まり、ラァが溺愛したジウスは、それゆえに畏怖されて神格化が進み、世界の中で楔に繋がれた。
「ヨアズ様は?」
「ヨアズはソフィアに懸想していた。だから彼女を鎮めるため、自らの意思で冥府に行った。日の当たらない、魑魅魍魎が住まう冥府に、ヨアズは骨を埋めることにしたらしい」
常々疑問だったことがある。
同じ術力を宿す髪色であっても、銀髪の民は迫害されても一族を追われなかった。けれど黒髪の民はラーディア一族を追い出された。
神話上、天にいるジウスは銀髪、そして冥府にいるヨアズは黒髪だったから采配されたと言われたが、この出どころは真実なのだろうか?
「違う」
サナレスが問うと、ラァによってそれはあっさり否定された。
「ジウスもヨアズも、私が産んだ王子2人は瓜二つで、2人とも元々、サナレス、そうお前のように金髪の王子だったのだ」
聞いてしまった歴史は、想像を遥かに凌駕していた。
「2人は1人の銀色の髪の魔女に出会った。その結果、ヨアズは魔道に落ち黒髪に、ジウスは一晩で銀髪になった」
サナレスは歴史上、ことの発端が三角関係から始まっていることを知っていて、笑えないなぁと思う。
「それで魔女ソフィアは、2人のうちどちらを選んだのです?」
ラァはじっとグラスの中の酒を眺めたが、どうやら逆鱗に触れる過去を思い出したようで、グラスを握る手に力が入りすぎ、手の中の水面が揺れすぎて溢れていく。
「魔女がどちらかを選んだなら、まだ救われた。魔女は所詮、人の形をしていても、人の感情なんてなく、私の皇子たちはただ、魔女に魅入られただけだった。例えどちらかに気持ちを寄せたふうであったとしても、魔女は絶対に1人を選んだりしない。ーーただ魔女にとって都合のいい相手を手中に収めるだけで、ーー私の息子達においてはヨアズが犠牲者だった」
ラァの記憶の中の魔女ソフィアと、サナレスが関わったソフィアの印象が違っていて、サナレスは思考を巡らせていた。
ラァのいう通り、自分に対するソフィアの一挙一動が全て演技であるのなら、否定できない現実だ。
「それで肝心の、ジウスとヨアズの話、彼らにまつわる魔女の話、私にも聞かせていただけますか?」
サナレスは毒を喰らいつくすつもりで腰を据えた。
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