国宝級だから
本日まだ続き書いていました。
楽しんで書いています。
挿絵が止まっています。
てか挿絵からフギュア作りを最近やっていて、面白いです。
※
「リンフィーナ! リンフィーナ!! ーーいったいいつまでこんな感じなんだよ……。しっかりしてくれよ」
ぼんやりする意識の外で、名前を呼ばれているのを感じる。
この声はナンスだ。
そう。自分はナンスと一緒にサナレスを探そうと決意した。サナレス兄様はアセスと自分を残して去った。サナレスだけが悪者になればいいと、彼はその場が収まるように画策した。サナレスは何も言わずに、自分の元を去ってしまった。
『やっぱり兄様にとって、自分はお荷物なの?』
違う。
そうではない。
これまでサナレスが自分に向けてくれた愛情と、その時間の重みを知っているから、自らの存在を卑下することはもうやめようと思った。
でも自分と出会ったことで、アセスが冥府に行ってしまった。
呪われた存在。
そんなものが存在するなら、魔女ソフィアをこの身に覚醒させた自分が、一番に吊し上げられても仕方がないのに、その罪をサナレスがとって代わった。アルス家の血族氏族の畏怖と憎しみを、サナレスが背負ったまま去っていってしまった。
アセスだって、魔道士に落ちたのは自分をかばってのことだと言うのに、その咎を背負わされることになった。
ああ。
やっぱり自分は呪われている。
「リンフィーナ!!」
ナンスが呼ぶ。
「答えろよ! 貴方は僕の友達なんだろ!?」
悲しかった。
呼ばれることに感謝する。有難くて、ナンスが友と言ってくれることが嬉しくて、涙が溢れる。
ねぇ、私。
「僕はソフィアと喧嘩してでも、アセス様やサナレス様を追っかけている貴方の方がいいよ!」
私、生きていていいのかな?
「リンフィーナは取られていいの? サナレス殿下、ソフィアのこと結構気に入ってるよ。取られていい?」
いや!!
兄様は私の!!
「取られていい? アセス様もさ、ああ見えて結構モテるんだけど、どうでもいい?」
いや!!
アセスは!!
なんて我儘な自分。でもリンフィーナは重い瞼を開ける。
「いやだよ!! 死にたくない!! 取られたくない!!!」
意識を取り戻して叫んだ時、ナンスがリンフィーナに抱きついた。
「よかった……」
心底安心した吐息をついて自分を抱きしめてくるナンスの温かさに、救われた気がする。
「ごめん、心配かけた?」
「うん。貴方さーー、ソフィアが表面化してきてから、少しずつ消えかけてない? ごめん、僕の取り越し苦労ならいいけど、なんかずっとすごく存在が薄くなってる気がする」
そう言われて、思い当たる節はあった。でもそれは、ソフィアが覚醒してからと言うより、リンフィーナが自分の命に絶望してしまったからかもしれない。
「ーー大丈夫だよ……」
兄様がーー。サナレスが選んでくれたから。
自分は、この世界の何処にも居場所を失ってしまった。
サナレスの妹ですらない。アルス家の異端児、それを妹として育ててくれたサナレス。妹でない自分でも、1人の女性として愛してくれた。
だから、大丈夫。
今そんな自信が存在意義だ。
「サナレス兄様に会いたい」
サナレスに存在を認められたい。
「ーーリンフィーナ、だよね?」
「うん」
ナンスはわかったと了承した。
「でもなんで貴方、ずっと泣いてるの? アセス様に会いたいんじゃない?」
そう言ってナンスは、アセスの死体が入っている棺桶を開けた。
白いを通り越して、血の気を失って土気色になったアセスの顔が視界に入った。
ショックを受けてリンフィーナはその場にへたり込んだ。
「ーーアセス……」
動かなくなってしまった彼の姿を認識したくなくて、リンフィーナは目をつむり、うつむいて頭をふる。
アセスが目の前で死ぬと言う現実は、悪夢や想像で済ますわけにはいかなかった。自分は何度、この人の命が失われる恐怖を味わっただろうか。
「よく見てリンフィーナ」
ナンスがうつむいて凍りついたままのリンフィーナの手を取った。そして右手の人差し指と中指を、ぐっと前に引いてきた。
何かに触れた。
少し冷たい。
滑らかな柔らかい肌の感覚が指先に伝わった。
「死んでないよ」
ナンスが主張した。
指先は冷たい。
「怖いなら、目はつぶっていてもいい、でも感じてほしい」
指先には微かに動きを感じた。
ドク、ドク。
あまりにも小さい脈。
間違いだったらどうしようかと思うほどの頻脈だが、感じる。
「アセス様は死んでない。アセス様は戦っているんだよ」
ドク、ドク、ドク。
時計の秒針が部屋の中に聞こえるよりも小さな鼓動だ。指先でなければ感じられないほどの生命。
「リンフィーナ、貴方がもし冥府に行ってしまったら、たぶんアセス様も一緒に行ってしまうだろうね」
ナンスはそう言う。そして悲しそうに目を細めた。
「それでなくともこの人って、ーーアセス様って人は、ーーとがっていて、あちらとこちらの狭間にいるような頼りなさだ。貴方が、こっち側にとどめておいて欲しいってのが僕の望みなんだ」
顔がまともな表情ができず、みっともなく歪む。
でもその汚い顔を上げて、リンフィーナはアセスを眺めた。
血の気を無くした、人形のように整った顔。
死にそうでも、こんなにも美しい。
「ーーだよね。さすが国宝級、こんな文化遺産に相違ない人、失うわけにはいかないよね」
後書き
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偽りの神々シリーズ紹介
1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
2「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
3「封じられた魂」前・4「契約の代償」後
5「炎上舞台」
5と同時進行「ラーディオヌの秘宝」
6「魔女裁判後の日常」
7「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
8「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
9「脱冥府しても、また冥府」
10「歌声がつむぐ選択肢」
シリーズの10作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー