別人格との対話
こんばんは。
少し間が空いてしまいました。
管理職、出張も多く、
本来なら小説を書くだけに起動したいタブレットも、仕事に占拠される日々があります。
今宵は少しまったり。
お付き合いよろしくお願いします。
※
「君たちはサナレス様を追いかけたいと言ったんだけどね。正直それが一番難しいことだって、全然わかってないよね!?」
列車の中で一夜を過ごした、次の日。
リンフィーナもソフィアも、なぜだかナンスの尻に敷かれていた。完全に自分達の行動を掌握されており、二人はキョトンとして頷いていた。
ナンスは眠りが浅かったというのに、彼女(達)の顔は清々しい。
「わからない」
「そうだよね。君たちは貨幣価値を知らないことが弱点。それにサナレス殿下という最高位の人を追いかけることが不可能だという、彼の価値を知らない」
その点についてはリンフィーナとソフィアは不平不満を愚痴ていた。
「知ってるし」
『サナレスの器はそうだろう』
「でも貴方達、サナレス殿下の今後の行方、つまり行動されるであろう未来をまったく予知できないんですよね?」
具の根も出ないらしい。口をへの字にして少し黙った彼女達を見て、ナンスはクスと笑った。
『ーーあんたなら、わかるっての?』
最初に毒付いたのはソフィアで、その後リンフィーナも情けなさそうに質問した。
「わかっているのは、たぶんアセス様だけなのよね?」
「ええ」
ナンスはリンフィーナに対して、それでこそアセスのかつての婚約者だと褒め称えたくなったけれど、彼女はうつむいたまま硬直していた。
「全然恥ずべきことじゃないですよ。だって僕もアセス様から前情報を頂かなければ、サナレス殿下を追えていませんでしたから」
「アセスは、お兄様のことを何て??」
『おまえは居場所がわかるのか!?』
ナンスは眉間に皺を寄せた。
「一人の人間から多重音声で一斉にしゃべるのやめていただけますか? 重なると聞き取れない」
ナンスは彼の耳を人差し指で合図して、「交互に話して」と提案してきた。
アセスが兄の行動を予測できるはずもないのに。
リンフィーナは不思議に思っている。
アセスはラーディオヌの法により処刑されそうになり、そんな状況のアセスがサナレスの行動を予測したなど、どうやって?
到底理解できるものではない。
「アセス様の話を集約すると、冥府というのは現在、過去、未来が交差点のように行き交う場所だという話です」
ナンスはアセスから聞き出したことを、忠実に言葉にしようとしていた。彼自身、冥府に見識がなく、訝しんだ感情が見え隠れするけれど、ナンスはアセスを信じたようだ。
「ですのでアセス様が現在冥府におられて、後に戻られることについて、私は何も不安に思っておりません」
「うん……。アセスはきっと」
『二度と戻って来ぬな』
彼女たちは対局のことを、一つの口で言葉にする。
ナンスはやっぱり慣れなかった。
「だから……。一度にしゃべってかぶせてこないで。はい、リンフィーナ貴方がしゃべっって」
順番待ちをさせられることにソフィアは憤慨しているようだが、これじゃ会話にならないとリンフィーナとソフィアはナンスに従うことにした。
「はい、私リンフィーナがしゃべります。アセスが戻って来てくれると信じてる。でもどうしてアセスは、サナレス兄様の行方まで追うことができるの?」
ナンスは首を縦に振った。まるでいい質問だと判定するような仕草だ。
「うん。アセス様はサナレス様から学ぶことが多いと、サナレス殿下がアルス大陸に気づいてきた経済効果について勉強なされていた。特に僕ーー私の元ボスに出会ってからは、経済界におけるルーツを密かに探らせていたからね」
リンフィーナはわからなくてもう一つ問う。
「どうしてアセスはそんなことしたの?」
「貴方を王妃に迎えるためですよ」
ナンスはそんなこともわからないのかと、吐息をついている。
ナンスを前に、リンフィーナは顔を赤くしている。
照れている場合だろうかーー。
ナンスは吐息をついた。
『次は私だ!』
「どうぞソフィア」
やっと二人の意見を聞き分けられるとナンスがホッと息をついている。
完全にリンフィーナとソフィアを区別しているナンスがいてくれてよかった。リンフィーナは沈黙する順番を守った。
『サナレスとアセスはできているのか?』
はぁぁ??
ソフィアの発した言葉が奇想天外すぎて、リンフィーナとナンスが絶句した。
「そんなわけないでしょう……」
ナンスの脱力感に同意しながら、リンフィーナはやっぱり魔女なんて理解できないと自分の首を絞めたい思いになる。
『だって知らないはずのことを共有するなんて、番がすることではないのか?』
「番ってソフィア……、あなたね、人を動物と一緒にするのはどうかと思うけど」
『人も動物だろう? サナレスが言っておった、臍があるのは哺乳類らしいから、全部一緒だって』
ーー要らない知識が身に付いている。
リンフィーナは切り取られた情報ほど怖いものはないな、と項垂れる。
「あなたみたいな人には答えをはっきり伝える必要があります。サナレス殿下は、アセス様の友人ではありますが、できてはいません。そしてリンフィーナ様を……」
そこでナンスは黙ってしまった。
『なんだ? リンフィーナ、私の身体が好きなのか?』
「違います」
ナンスは低くうめくようにいう。
「サナレス殿下がリンフィーナ様をお好きかどうか、それは私にはわかりません。とても大切にされているということは理解していますが、そんなことに答えられるぐらいであれば、我が主人のことももっと理解できたのですが」
『なんだおまえ、結局何もわからないの?』
「ええ」
そしてナンスは自らのことを、所詮先導士なのだと伝えてきた。
「アセス様は、サナレス殿下がご自身とリンフィーナ様を再び出会わせた後、情勢を読みどのように行動なされるのかを私に伝えられた。ラーディアとラーディオヌ一族を去り、ただなすべきことを気の向くままにするのだと。だから、アルス大陸、双子の氏族からは遠ざかるし、その経路は鉄道だろうとまで予測されたんです」
二つの魂、一つの身体の少女は、鉄道列車の座席から思わず腰を浮かせてしまっていた。
「嬉しい」
『嫌だ』
「だから一緒にしゃべらないでって!」
順番はリンフィーナ、その次にソフィアだと伝えられる。
「アセスがそれほど考えてくれていたことが嬉しい」とリンフィーナ。
『分かったふりをしている人間ほど嫌なものはない』とソフィア。
真っ向から意見が割れた。
「いい加減に一致団結しなよ。君たち、サナレスを追いたい気持ちは同じなんでしょ?」
ナンスに対して、深く首を縦に振る別人格がそこにいた。
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偽りの神々シリーズ紹介
1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
2「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
3「封じられた魂」前・4「契約の代償」後
5「炎上舞台」
5と同時進行「ラーディオヌの秘宝」
6「魔女裁判後の日常」
7「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
8「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
9「脱冥府しても、また冥府」
10「歌声がつむぐ選択肢」
シリーズの10作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー