ごめん
こんばんは。
芸術の秋はどこまでも。
書きたいなら、書いて行きましょう、どこまでも。
※
「手品を見せたことは誰にも言うな」
ルヴィに対してそんな口止めをしたサナレスだったが、ルヴィは軽く考えているようで、彼女の返答に頭を悩ます。
「そうだよね。秘密を作るって特別の関係だよね? 言わないよ、絶対」
特別な関係ではないけどな、とは心の中で呟いた。
サナレスは掌を広げ、自らの能力を見つめ直す。
自分に限って、記憶を失っていると言うことは考えられなかった。
ムーブルージェとの過去の記憶は、確かになるべく追憶しないように蓋はしてきたので、あらためて向き合うのは久しぶりだった。
彼女の死が立ち塞がって。
思い出すのがつらかった。
手を伸ばしても絶対に触れることができなくなってしまった存在の彼女を思うたび、胸が痛んで、思い出すことを頓挫させてきたのは自分だった。
自分自身の記憶を疑ったので、サナレスは滞在先の自室に鍵をかけた。
ーー入るか……。
サナレスは瞬間記憶能力を持っていた。
全ての知識や記憶を映像で再現できる能力だ。だから天才だと言われたし、それを利用するために、あらゆる書物を脳に放り込んで、いやインストールしてきたのだ。
ただその記憶を入れる時、引き出すときは、数分間自分の身体機能は停止してしまう。
ルカから揶揄われ(からかわれ)、100年後リンフィーナから指摘されて、初めて自分の特性(弱点)に気がついた。
だから、人払いをした。
不確かな記憶を引き出すために、今から深く過去に戻る。
できるなら思い出すだけでつらい、自らの過去と向き合う覚悟はできていた。
「大丈夫ーー」
彼女が死んで、ずいぶん永い間彷徨った(さまよった)。
ルカが死んだことを知り、レイトリージェもこの世を去って、自分だけが取り残されている。うかうかしていれば冥府への扉は簡単に開きそうだったけれど、リンフィーナがこの世の生にリンフィーナがつなぎ止めてくれていると感じていたし、アセスに約束したこともある。
だからもう、簡単に自分は命を軽んじたりはしないーー!
命を繋ぎ止めるのは、この世で生きて出会った関係性だと、答えを得ている。
それが完全になくなったら、多分人は、糸の切れた風船だ。
生きたいという執着心を失ってしまうし、生きていなくてもいいのかもしれない。
過去、現在、未来、完全に人の生命を繋ぎ止める関係性の糸がなくなったたら、人は死ぬんだろう。
生きたい。
一度死にかけて、冥府から戻るとき、サナレスはリンフィーナとアセスという、天から降りてきた糸をたどった。
あのときいくつかの糸が見えた。
母セドリーズや、リトウ先生、それに近衛兵との思い出が、天から垂れ下がる糸になって、自分を死なないように導いてくれた。
だからどんなに絶望的な過去に戻っても、冥府への扉は開かないとサナレスは決意する。
ごめん、ムーブルージェ。
私はお前の元には行かない。
それとごめん。
ずっと記憶の中に封じ込めた。
「ごめん」
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偽りの神々シリーズ紹介
1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
2「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
3「封じられた魂」前・4「契約の代償」後
5「炎上舞台」
5と同時進行「ラーディオヌの秘宝」
6「魔女裁判後の日常」
7「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
8「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
9「脱冥府しても、また冥府」
10「歌声がつむぐ選択肢」
シリーズの10作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー