二分分つ有機体
こんばんは。
早くも、もう木曜日。
明日は週末、そして付き合いの飲み会。先週もそんな飲み会だった。
付き合いといえど人と話すのは楽しいのだけれど、ーー内臓持つかな?
平日肝臓を休ませるつもりだったのだけれど、できなかった(涙)
明日も書きたいけど描けるのか?
※
レテの河を流れ、再生に向けて腐っていく魂は幸せなことだ。
ソフィアは知っていた。
どれほど醜く溶かされようと、再生に向けて土塊に変わっていく過程だと思えば、やっぱりまだ幸せな方だ。
冥府の地獄は腐りながら漂うことだ。
そしてもう一つ更に地獄がある。腐ることも許されず、永遠にあの腐敗した世界に閉じ込められることなのだ。
魔女として火炙りにされたソフィアは、千年間魂を凍結された。
ヨアズもまた、千年間、冥府の王として通り過ぎる魂を見送っていった。
あれこそが地獄だ。
せめて眠ることを許されていたソフィアは、まだヨアズよりはマシだったのだと想像はついたけれど、どれだけの人の生死に立ち会わされたことだろうか。
脳が誤作動を起こす一歩手前で、ソフィアはサナレスに起された。
『おまえは、誰だ!?』
半分意識が覚醒せず、眠ることで千年間耐え続けたと言うのに、サナレスは自分の髪の毛を踏みつけた挙句、自分をリンフィーナだと勘違いし、完全に自分の眠りを妨げてしまった。
出会いって、人の人生を大きく変えていく。
サナレスは冥府を出る決断をし、その力強さ(当時は無鉄砲さだと思った)に関心を寄せた。
ジウスとヨアズ、かの双子によく似ているが、輝きは光そのもので、ソフィアはサナレスにくっついて行ってしまった。
そう、うっかりと。
彼が冥府を出る手助けをして、自分ごと冥府を脱出したのだ。
「わかってる! でも。アセスがもしも冥府から戻ってこられなかったら、絶対責任取ってもらうんだから」
アセスを望み通り冥府へ見送る時、自分の魂はリンフィーナに乗っ取られていた。
『おまえ、いつの間に……?』
「兄様に会いにいくと言ったのはおまえ。ーーそれにこの世に残ってアセスを守れるのは私だって言ったのもおまえ」
アセスが処刑台で刑に処され、死ぬかもしれないと必死で看病していたリンフィーナの正気が戻っていた。
「手当は完璧。外傷も癒えていて、きっと……アセスの綺麗な体には傷一つ残らないと思う」
何を心配しているのかと思えば、男の体に傷ぐらい……。
「だめ!!」
呆れるソフィアに対して、リンフィーナは全力で逆らってきた。
「国宝級の一品、芸術的な身体に、傷跡一つ残したらだめ!」
おまえ……、あいつからはこっちの身体は滅びてもどうでもいいとか言われていたけど……。
ソフィアはアセスから言われた不本意な言葉を口にしなかった。
どうやら上下関係で言うと、リンフィーナはアセスの下僕、言い方が悪いかもしれないが、彼に魅せられた精霊その他大勢に属するようだ。
「サナレス兄様に相談する! 探すわよ。ーーでもこのまま意識のないアセスをどうやってかくまっていいのかわからないんだけど……」
『放置しとけば? ひとまず刑は免れたわけだし』
「そんなことできないよ! 万が一死んだと思って埋葬されちゃったらどうするの? それに私達が側を離れているうちに、再度処刑が決まってしまったら、どうやって連れて逃げるのよ』
私達……。
仲間じゃないのに。
勝手にひとくくりにされたのは不本意で、ソフィアは「知ったことか」とそっぽを向いた。
「アセスの身体を安全な場所に隠せないなら、サナレス兄様を探しに行けないでしょ? 貴方も考えなさいよ。やっぱり背負ってでも連れていく方がいいかしら!?」
無理なことを言ってくる。
『おまえ、この身体背負って、ラーディオヌ一族の警備体制を抜けられるって?』
「できなければまたここに逆戻りするだけでしょ。やってみる価値はあると思う」
馬鹿の上に輪が付くほど馬鹿だな、とソフィアは吐息をついた。
諮問委員会にかけられ、総帥の地位を剥奪され、ラーディオヌ一族によって処刑されるかもしれないアセスを、どうやって中央のラーディオヌ一族白磁の塔から連れ出すことができると言うのだーー。
そして。
「できないなら、どこにも行かない」
聞き分けのなさが子供すぎた。
ソフィアは思う。
子供だった自分のわがままを聞き入れたのは育ての母である1匹の竜だった。彼女はあの時こんな気持ちだったのだろうかと深いため息をつく。
『サナレスのことは気にならないの……?』
「なる!! だから背負ってでも探しに行こうか??」
ソフィアを友達ぐらいに思って話かけてくるし、肉体の力も二倍にでもなったように勘違いしているのか、リンフィーナは意識を失ったアセスの腕を自分の肩に担ごうとしていた。
ソフィアは考える。
アセスの意識がない今、アセスに取られた精霊は再び自分の言うことを聞くはずだ。だからアセスを運び出せないことはないけれど、冷静に考えれば今は難しい。
『ここはラーディオヌ一族の権威、白磁の塔だ。やはりラーディオヌの警備体制に見つからないようアセスを連れ出すことはできないだろう』
「だったら何処にも行けない!」
ソフィアとしてはサナレスを追いたかったので、この状況を打破したかった。
白磁の塔は呪力を増幅するが、呪力をコントロールしてくるようにできている。つまり強過ぎれば弱め、弱いものを強めてくれる、中性化する場所だった。そうして呪力が暴発しないように、先人が考えて建築した建物だ。
ソフィアに取ってはずっと力を弱められており、アセスをここに隔離したのも、ラーディオヌ一族の知恵あってこそだと考えられた。
ラーディオヌ一族の呪術師会、それがどんなものなのかソフィアは知らない。
ソフィアと同じ時代に彼らが存在したら、一緒に火炙りにされていた仲間かもしれなかった。
その時、二人がいる一室の扉が開いた。
「お食事をお持ちしました」
まだ成長途中の青年で、ソフィアも見たことがある者だった。
「ナンス!!」
『おまえか!』
リンフィーナと二人で、八方塞がりの状態になっていたが、同時に彼の名を叫んでいた。
「リンフィーナ、目覚めたんですね?」
ナンスは運んできた食事を取り落としそうになったが、指先に力を持ち直し、大事そうにテーブルの上にそれを置くと自分……、いやおそらくリンフィーナの肩に手を置いた。
そうして思い切り揺らされ、自分の体の首から上で、頭がぐらぐらと方向性を失って、天井のあらゆる部分をみることになった。
「リンフィーナ!! なんて無茶をするんです!? あなた……本当に……よく生きて……」
死んでしまっていたらどうしたんですと訴えかけてくるあたり、こいつはまともなのだとソフィアは思った。
ナンス・アルス・ラーディオヌ。
アセスの側近だ。
「アセス様は、まだ目覚めないのですか?」
「ーー」
『目覚めたけれど、速攻死にたがったんで殺した』
真実である自分の言葉は、リンフィーナの意志の力で発言を許されなくなる。
知りたがっているのに、もっと自由に発言させてくれてもいいじゃないかとリンフィーナを抗議するが、彼女の意識は完全に自分をシャットアウトしてしまっていた。
「ナンス、アセス様はさっき目覚めて、それで自らの意思でまた冥府にって……」
「え!?」
ナンスは顔色を変える。
「またですか!? この人また何を思いついて……」
「わかんないの。わかってたらナンスには何でも話すけど、アセス様の考えが私には全然わからなくて……。でも戻ってくるって言ってたから信じているけど……」
ナンスは黙って、感情を落ち着かせようと少し肩を震わせているようだった。
握った拳が今にもアセスを殴り倒したいようにみえ、ソフィアはワクワクしてしまう。
こんな男、今のうちに殴っとこ。
ソフィアは思ったけれど、ナンスは気持ちを沈めるように努めていた。
「アセス総帥は、諮問員会にて無罪になりました。魔道士に落ちたのはラーディアのサナレス。我が支族の王であるアセス総帥はサナレスに濡れ衣を着せられ、中傷された。けれどこの度嫌疑は晴れ、無罪となり、総帥として今一度ラーディオヌ一族に立たれることを望まれております」
「ーーひとまずは……よかった!」
リンフィーナはホッと胸を撫で下ろしたが、ナンスは顔を曇らせたままだった。
「こうなった経緯には、ずいぶんサナレスとアセス様、そして貴方の三角関係が脚色されているんですけど……。貴方、その大変な渦中にいるんですよね。わかってないと思いますが……!」
リンフィーナは喉元で唾を飲む。
ソフィアとしては、理解していたので軽く頭を斜め後ろに仰け反らしたい気分だった。
『要するに』
「ラーディオヌ一族は総力を上げ、アルス家を裏切ったサナレス殿下を討伐することに注力することになったと言うことです」
青ざめたリンフィーナがまたしても意識を失っていったので、ソフィアはその後を引き継いだ。
「だったらナンス、私は今からサナレスを探しに行くから、アセスのことはおまえに一任するよ」
「ーー!!」
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偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「脱冥府しても、また冥府」
「歌声がつむぐ選択肢」
シリーズの10作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
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「十G都市」ーレシピが全てー