刺さる言葉
こんばんは。
最近の夜は、小説家くか、テニスするか、フギュア作るかってのになっています。
あ、わんちゃん(我が子)3匹いるので、その子たちと遊んでいるかの日々。
今後もこの平和な日々が続きますように。
くれぐでもプーチンさん、日本にはミサイル落とさないで。
※
私はリンフィーナではない。
のろけるな、そして迫るなとソフィアは心の中で鼻を鳴らす。
サナレスのみならずこのアセスという男も、優柔不断な自分の体神(空蝉)であるリンフィーナに夢中なようで、当然ソフィアは面白くはなかった。
殺せと望まれるなら、そうしよう。
サナレスが怒るだろと思ったけれど、ソフィアはもうそれを考えるのも面倒で、願いを叶える気分になっていた。
最近の人というのは随分贅沢になったものだ。
そう考えると、何かのスイッチが入ってしまい、腹が立って仕方がない。
少なくとも私は、生を受けたその時から生きたかった。
赤子として生を受け、自分で生きる術もないまま、人が来ない森に捨てられた命だった。
最初から世界のしがらみにまみれた命だったけれど、ソフィアは叫んだ。
生きたいのだと。
生きたいから泣いた。
赤子には泣く以外方法がなくて、誰か見つけて、お願いだから私を殺さないで、そう思って顔を真っ赤にして泣いたのだ。
赤子の自分は捨てられたことを嘆くほど、人としての情緒すら成長しておらず、腹がヘリ、喉が渇き、生きたいという生存本能で泣き続けたのだった。
無力な赤子。
世界の勝手な理由で、私を殺すな!
だから力を付けたいと思った。
目の前の青年のように死ぬことを選ぶなんて、ソフィアにとってはあり得ず、ずいぶん自分は生存本能のまま存在し、生命体としては真っ当だったと思う。
それなのに世界は残酷だった。
自分がただ生きていることでさえ、この世界が認めないと、通告を下された。
『魔女だ』
『魔物と契約した女で、ラーディア一族の皇太子をたぶらかした』
はぁ?
と苛立ちが先になった。
王族がなんだと?
近づいてきたのは双子の皇子の方で、先に私の銀の森を焼き払ったのは、おまえたちの方ではないか!?
人の世界に近づいたがために人の物差しで判断され、ソフィアは魔女裁判にかけられた。
業火で処刑されているその瞬間ですら、ただ生きたいと思っていた。
どうしてこんなにもただ単に生きていたい自分を、世界はペシャンコにしてくるのだろうか。それを呪った。
誰かのために生きる?
そして誰かのために死ぬ?
そんなこと理解できるはずもない。
生まれた限り、ただ生きたい。死にたくない。飢えたくない。このまま死ぬのは嫌だ。
だから自分の中の娘が、最初生きていたいという活力を失った時、ソフィアには到底理解できずにいた。体神だという傀儡だから出来損ないなのだと思った。そして今アセスという男が、なんらかの信念のために死ぬことを選択していることも、ソフィアには理解できない。
死にたいなら死んでくれてけっこう……。
でも意味わかってる?
「死ぬって、一生冥府に閉じ込められる。最悪、亡者になって永遠に彷徨うってことだけど……」
「かまいません。好きな人に選ばれない世で生きていても、きっとそれだって、ずっと亡者でいることに等しいのですから」
目の前の飢えたこともないアルス家の王族に間髪入れす返答され、ソフィアは自分の価値観がわからなくなる。
「おまえは他者のために命を捨てる?」
「心配なさらないで下さい、そんなエゴはございません」
あっさりと否定され、ソフィアは分からなくて、さらに頭の中をフル回転させていた。
「死んでもいいとおまえは言った」
「あ、それを聞きたいのですね。貴方の生きた時代ではどうか知りませんが、今この世では死ぬことは少し贅沢になっていましてね。生きたい、食べたいに次ぐ、選択肢の一つかな。私はリンフィーナを第一優先に考えますので、彼女に選ばれないとか、彼女が望むものが私と同じ未来でなければ、死ぬことも厭わ(いとわ)ない考えです……」
アセスは少し眉根を寄せ、神妙にため息をついた。
「私はまだ……、自分の考え方が正常であると思っています。少なくとも私にとって大切な方を主軸に考えておりますので……。けれど、こことは別世界では、死にたい人は更に多く、そして明確な理由もない方が多い。昨日まで楽しく暮らしていたかと思えば、次の日ビルの……いえとても高い場所から飛び降りたりして、死ぬことを選ぶんです。電車という大きな乗り物に、自ら飛び込んで肉片として飛び散ることを選ぶ人もいる」
「なんで!? 食べるものがないの?」
「違いますよ、飽食の世界での話です」
とても美味しいとは言えないけれど飢えることなんてない。飽食の世界での話ですが、と付け加える。
「好きな人が死んだ?」
「そんなたいそうなことはありません」
アセスは貴方もまた正常なのだとソフィアを肯定した。
けれどソフィアには理解できない。アセスが命を落とすかもしれないけれど好きな人といる未来に賭けに出ることなら、なんとか理解しようとはした。けれど、それですら分からないというのに、そんな生命として桁外れた世界が存在することは到底信じられない。
「異世界人だから?」
「魔女と言われた貴方がそれを言いますか?」
アセスは笑った。
「それが世界の歪みなのかもしれないですね。その原因の一端を自分が担ってしまったのであれば、それは正さないとなりません」
「ーー覚悟はわかった」
殺してやろう。
異常事態を治めるためで、この男が望むなら、「あり」だ。
「一つだけ希望を言っても?」
「ああ」
常に感情が平坦なアセスに対して、ソフィアは少しだけ、そういう性格もありかなと、ここにきて彼の存在を認めていた。
「私はまだサナレスに勝負を挑まれたままで、敗北したわけではない。ーーですから、戻れる可能性をこの肉体に残していただきたいのですが」
「ーー造作もない」
ソフィアは了承し、使役下にいる精霊に冥府への扉を開けと命じた。
精霊は従順で、主人を現状よりも貶めない。つまりアセスに仕えた精霊には出来ないことを、ソフィアは別の主人として命じることができた。それは言霊をとった時の契約で、アセスはソフィアを頼ったのだった。
けれどここでリンフィーナの意識が反対してくる。
『いや、アセスは死なせない!!』
子供みたいに、一緒に行くと言い張るリンフィーナが自分の判断を邪魔してきて、ソフィアは一瞬戸惑った。
だが、全身に寒気が走る感覚がそれを上回った。
嫌だ、私は絶対にあのような死の匂いしかしない場所に、再び戻るのは嫌だと拒絶反応が込み上げてくる。
冥府から魂の柱を立ち上らせて、この世に帰ったサナレスの生命力である光に、ソフィアは惹かれてこの世に戻った。
「リンフィーナ、冥府に戻るというなら、おまえ永久にサナレスを慕うな!!」
予想だにしない自分の傀儡の力に引きずられそうになったが、ソフィアは強く意識を保った。アセスとリンフィーナ、この二人を引き裂かないことには冥府に自分が連れていかれそうになる。
「それにリンフィーナ。アセスは彼のこの肉体を守ってほしいと言った。一緒に行って、誰が守れると?」
とても強い冥府へ流れる風が動揺して、弱まった。
「戻れなければ、死ぬということ」
手に取るようにリンフィーナは感情を乱し、どうしたらいいのかわからずに立ち止まっている。
「いったん考えよ。おまえには知恵がない。それも含めサナレスを探して、考えよう」
どうしてソフィアは単なる自分の傀儡にこうも気遣いをしなければならないのかと不本意だったが、冥府は嫌だ。慎重に、丁寧にリンフィーナを説得した。
リンフィーナの魂は自分の中でしくしくと泣き続けている。
生きたいと思う以外に、こんなにも魂が壊れるほど泣くなんて、ソフィアには理解できなかった。
「おまえの好物はなんだ? アセスの体をこの場守れたなら、おまえの好物を食べよう」
取り成し方がわからない。泣いていたのは常にソフィア自身だったので、違う感情をどうあやしていいのかわからなかった。食べ物をくれれば泣き止んだ。自分は簡単だったのに、この娘は難しい。
自分なりに懸命になって、冥府に行きたくないことも理由になり、リンフィーナを落ち着かせようとしたが、彼女は心を開かなかった。
『貴方にはわからない! 心が苦しくて、何も食べられないって経験がない貴方には、わからないんだって!!』
破壊力の強い言葉で拒絶された。
だったら私は、どうしてこの世の人のしがらみに巻き込まれたのか?
魔物である竜を母として、人以外の場所でそっとしておいてくれればよかったのに。
ソフィアだって言いたいことはいくらでもあった。
なぜだか今、サナレスの見解を聞きたくなった。
ただおまえならどう思うと、からみたくなっていた。
「ーーサナレスを探さないか?」
放っておくと、あいつは何をやっているのかわからない。
心の声はリンフィーナに深く刺さったようだ。
『……』
刺さる方向がかなり私欲に偏る粘着質のある刺さり方だったようだが、リンフィーナは急に大人しくなった。
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